●平成18(ヨ)22044 著作権仮処分命令申立事件 東京地裁 格安DV

今日は、昨日も紹介した映画ソフトDVDの安売り販売の中止等を求めた『平成18(ヨ)22044 著作権仮処分命令申立事件 著作権 民事仮処分 平成18年07月11日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060711150453.pdf)についてコメントします。

 本判決の詳細な分析は、FJneo1994さんのブログ『企業法務戦士の雑感』(http://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20060712/1152641137)にとても解りやすく紹介されていますので、そちらを参照して下さい。


 当ブログでも、せっかくですので、東京地裁が大局的な判断をされた債権者の主張3の判断部分を引用させて頂きます。


 つまり、東京地裁は、債権者の主張3について、
「債権者は,債権者の解釈を前提とする著作権実務が運用されて定着しているとして,法解釈の安定性の観点を指摘する。

 なるほど,前記認定のとおり,著作権法を所管する文化庁が債権者の解釈と同一の見解を表明してきたものであり,これに対する債権者の期待は,十分に理解することができる。そして,著作権法に限らず,あらゆる法分野において,一国の法制度として,事前に権利の範囲や法的に擁護される利益が明確であって,これらの侵害に対して確実に事後の救済がされるような法的安定性と具体的妥当性の確保されていることが望ましいことはいうまでもない。しかしながら,本件改正法附則2条の適用関係に関する文化庁の上記見解は,従前司法判断を受けたものではなく,これが法的に誤ったものである以上,誤った解釈を前提とする運用を将来においても維持することが,法的安定性に資することにはならない。

 また,債権者は,知的財産権の保護を重視する時代の要請を指摘する。しかしながら,著作権法は,著作者の権利を定め,その文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作権者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的とした法律である(著作権法1条)。上記著作権法の目的を実現し,知的な創造活動を促進して,より高度な創造に向けた意欲を与え,他方で,その成果を活用して社会を発展させるために,権利の保護と公正な利用のバランスを失してはならないことはいうまでもない。本件改正法は,映画の著作物の保護期間を公表後50年から70年に延長するものであり,その適用があるか否かによって,著作物を自由に利用できる期間が20年も相違することになる。しかも,著作権侵害が差止め及び損害賠償の対象となるのみならず,刑事罰の対象となること(著作権法119条以下)をも併せ考えれば,改正法の適用の有無は,文理上明確でなければならず,利用者にも理解できる立法をすべきであり,著作権者の保護のみを強調することは妥当でない。』(以上、本判決文より抜粋。)

 と判示しました。


 文化庁の「保護期間の終了した十二月三十一日二十四時と改正法施行の一月一日零時は同時とし、改正法の施行時は著作権の保護期間内にあり、改正法が適用される」との見解を否定し、それでも法的安定性を害さないと言及した点、および著作権法1条の目的の権利の保護と公正な利用のバランスを図りながら、著作物を自由に利用できる期間が20年も相違すると,著作権侵害が差止め及び損害賠償の対象となるのみならず,刑事罰の対象となることも考慮すると、著作権者の保護のみを強調することは妥当ではないと判示した点は、権利者と第三者との間のバランスを図った大局的な判断であり、とても画期的な判決であると思います。


 なお、『廉価DVD:著作権の保護期間満了と販売認める 東京地裁』(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/news/20060712k0000m040067000c.html)や、『格安DVD販売認める 「著作権消滅」と東京地裁』(http://www.asahi.com/business/update/0711/146.html)等のニュースによると、本判決は、控訴されて知財高裁にいくことが検討されているようですので、知財高裁の判断(社会的な影響も大きいのでおそらく大合議事件になるのではと思います。)が楽しみであると共に、ゲームソフトの中古販売事件のときのように、最高裁までいくような予感もします。