●平成17(行ケ)10609 審決取消請求事件 特許権「高周波用フィルタ

 本日は、『平成17(行ケ)10609 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「高周波用フィルタ回路」平成18年07月11日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060711143806.pdf)についてコメントします。


 本件は、特許庁がした拒絶審決の取消しを求めた事件で、原告は、取消事由として「本願補正発明の要旨の認定を誤り(取消事由1)」等を主張しましたが、知財高裁は、本願補正発明の要旨を、平成3年のリパーゼ最高裁判決の通り認定して(尚、本判決では、リパーゼ最高裁を引用していません。)、原告の請求を棄却しました。


 つまり、知財高裁は、取消事由1(本願補正発明の要旨の認定)について、
『(1) 審決は,本願補正発明の「共振器トラップ」が圧電素子を包含することを前提として本願補正発明と引用発明1の対比の認定をしたが,原告は,審決の本願補正発明の要旨の認定を争い,本願補正発明は,誘電体共振器又はストリップライン共振器を用いた高周波用フィルタ装置に関するものであって,本願補正発明に係る「共振器トラップ」を構成する「共振器」は,「誘電体共振器又はストリップライン共振器」のことをいい,圧電素子を含まない旨主張する。

(2) そこで,検討すると,本件明細書の特許請求の範囲には,上記第2の2(1)のとおり,「共振器を含まず,コンデンサ素子及びコイル素子で構成されたLCフィルタ回路と,前記フィルタ回路に接続された共振器トラップと,を具備したことを特徴とする高周波用フィルタ回路」との記載がある。

 上記記載によれば,本願補正発明は,特定のLCフィルタ回路と共振器トラップとを具備する高周波用フィルタ回路であり,同回路に具備される共振器トラップについて,「フィルタ回路に接続された」ものである必要があり,この点で本願補正発明の「共振器トラップ」が特定されているが,それ以上に,特許請求の範囲において,本願補正発明の「共振器トラップ」を限定する旨の記載がないことは明らかである。

 このように,特許請求の範囲の記載に照らせば,本願補正発明の共振器トラップを構成する「共振器」について,原告が主張するような「誘電体共振器又はストリップライン共振器」に限定されるものであるとは認められず,本願補正発明にいう「共振器トラップ」を構成する共振器については,「誘電体共振器」,「ストリップライン共振器」以外の共振器も含むものと理解するほかない。

(3)原告は,特許請求の範囲の意味,内容の解釈に当たっては,明細書の記載も参酌して客観的・合理的に行うべきであり,本件明細書の「産業上の利用分野」に「誘電体共振器又はストリップライン共振器を用いた高周波用フィルタ装置」と記載されているのであるから,本願補正発明の「共振器トラップ」が,それらに限定されることは明らかである旨主張する。

 しかしながら,特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては,発明の要旨は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて認定されなければならず,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができない場合や,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどといった特段の事情が存在しない限り,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して発明の要旨を認定することは許されないところであるから,特許請求の範囲の意味,内容の解釈に当たっては,明細書の記載も参酌して客観的・合理的に行うべきであるとする原告の主張は,そもそも失当である。

 もっとも,願書に添付すべき明細書で使用する用語は,原則として,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書全体を通じて統一して使用すべきであるが,例外として,その意味を定義することによって特定の意味で使用することができるものとされているので(特許法施行規則24条,様式29の8),以下,念のため,本件明細書を検討することにする。

 本件明細書の発明の詳細な説明の【産業上の利用分野】欄には,「この発明,・・・更に具体的には,誘電体共振器又はストリップライン共振器を用いた高周波用フィルタ装置に関するものである。」(段落【0001】)との記載がある。上記記載によれば,本願補正発明が,「具体的には,誘導体共振器又はストリップライン共振器を用いた高周用フィルタ装置」を技術分野とする発明とされていることは理解できるが,これによって,本願補正発明に係る「共振器」を「誘導体共振器又はストリップライン共振器」に限ると定義しているとするのは困難であり,本願補正発明の「共振器トラップ」を「誘導体共振器又はストリップライン共振器」のトラップに限り,その他の共振器を用いた高周波用フィルタ装置を排除しているものとすることはできない。かえって,本件明細書の発明の詳細な説明の【好ましい実施例の説明】欄では,「この発明には数多くの実施例が有り得るが,ここでは適切な数の実施例を示し,詳細に説明する」(段落【0007】)とされているところ,実施例1において,「共振器18,34としては,誘電体共振器,ストリップライン共振器のいずれを用いてもよい。」(【0008】)とされ,一方,その余の実施例においては,上記のような限定的な記載がないことからすると,実施例1において誘電体共振器又はストリップライン共振器を用いるのは例示にすぎないとみるのが自然かつ合理的であり,その他の共振器の場合を排除しているとはいえない。

 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の【産業上の利用分野】欄に「誘電体共振器又はストリップライン共振器を用いた高周波用フィルタ装置」という記載があることをもって,本願補正発明の「共振器トラップ」を構成する共振器が,それらに限定されるとする原告の主張は,失当というべきである。

(4) また,原告は,明細書において出願人が特定した技術分野を超えて特許権の効力が及ぶと解釈することは不合理であり,明らかに権利範囲が限定解釈され得るような理由があるときは,それを考慮して審査範囲も限定解釈されるべきである旨主張するが,上述したところに照らせば,本件において,明らかに権利範囲が限定解釈され得るような理由は見いだし難く,原告の主張はそもそも前提を欠くものであり,採用できない。

(5) 以上によれば,本願補正発明における「共振器トラップ」を構成する「共振器」は,圧電素子を使用するものも含むと解するのが相当であり,審決のした本願補正発明の要旨の認定に誤りはない。

 したがって,原告の取消事由1の主張は理由がない。』(以上、本判決文より抜粋。)

と判示しました。


 本判決は、発明の要旨について平成3年リパーゼ最高裁判決通り判断しており、また、念のため本件明細書を参照して同様の結果を導いているので、文句の付けどころがない結果であると思います。


追伸;<今日、気になったニュース>
●『QUALCOMMNokiaの特許侵害問題でITCが調査開始』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0607/11/news013.html
●『Vonage、VoIP関連の特許を取得』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0607/11/news014.html


●『平成18(ヨ)22044 著作権仮処分命令申立事件 著作権 民事仮処分 平成18年07月11日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060711150453.pdf
・・・本件は、原告は、パラマウントピクチャーズ コーポレーション、被告は、株式会社ファーストトレーディングです。本件は、街の書店でよく500円〜1000円で売られている、著作権期間満了後の安売りDVDの販売中止等の仮処分を求めた事件のようです。
 結局、東京地裁は、本件に関しては著作権改正法が適用されずに,平成15年の経過,すなわち,同年12月31日の終了をもって保護期間が満了し、本件映画(物件目録には「ローマの休日」、「第十七捕虜収容所」の映画のDVD商品)については,我が国においては,既に著作物の保護期間が満了したパブリックドメインに帰属する著作物というべきであるから,債権者の被保全権利が認められず、債権者の申立ては,理由がない、と判示して、その申立て却下しました。