●『平成17(行ケ)10683 審決取消請求事件 特許権 知財高裁』(3)

 今日も、一昨日、昨日の続きで、『平成17(行ケ)10683 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成18年07月03日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060705112655.pdf)についてコメントします。


 さて、知財高裁は、 取消事由7(第1次判決の拘束力違反)に続き、取消事由12(意見を述べる機会の不付与)について、
『(1) 原告らは,本件審決の「判断その2」は,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされたから,特許法159条2項で準用する同法50条に違反すると主張するので,以下,検討する。

 (2) 審判官は,拒絶査定不服審判において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には,特許出願人に対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項で準用する同法50条)。

 (3) 本件審決の「判断その2」は,特開昭63−79170号公報(甲7の1)に記載された技術は,周知技術であるとして,これを本願発明を対比して,一致点,相違点を認定し,相違点については,刊行物1に記載の技術に基づいて当業者が容易になし得たなどと判断したものである(前記第3の1(3)イ参照)。

 この判断は,本件審決書の記載によれば,特開昭63−79170号公報(甲7の1)に記載された技術を「周知技術」と称しているものの,その実質は,特開昭63−79170号公報(甲7の1)を主引用例とし,刊行物1を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をして,進歩性を否定したものと解される。そして,甲10,11及び弁論の全趣旨によると,主引用例に当たる特開昭63−79170号公報(甲7の1)は,拒絶査定の理由とはされていなかったものである上,これまで,審査,審判において,原告らに示されたことがなかったものであることが認められる。
 そうすると,審判官は,本件審決の「判断その2」をするに当たっては,原告らに対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならなかったものということができる。したがって,原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされた本件審決の「判断その2」は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものであり,その程度は審決の結論に影響を及ぼす重大なものである。

 (4)ア これに対し,被告は,本件審決は,特許法29条2項違反を理由とするものであるから,拒絶査定と根拠法条が同じであること,出願時の技術常識や周知技術を認定するに当たって,原告らに意見を述べる機会を与える必要はないことからすると,原告らに意見を述べる機会を与えなかったとしても違法ではないと主張する。

 しかし,本件審決の「判断その2」は,上記のとおり拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしたものである。

 このように主引用例に当たる文献が異なるにもかかわらず,拒絶査定と根拠法条が同じであるというのみで,原告らに意見を述べる機会を与える必要がないということはできない。もっとも,発明の持つ技術的な意義を明らかにするなどのために出願時の技術常識や周知技術を参酌した場合には,それらについて特許出願人に意見を述べる機会を与える必要がないが,本件審決の「判断その2」は,そのような場合に当たらないことは明らかである。

 イ また,被告は,本件審決では,まず,周知技術から,「情報記憶カードに履歴情報を無限ループ状に記憶する」点以外の事項が,本願発明の技術的特徴ではないことを示し,次に,本件発明の技術的特徴である上記の点については,先行技術(刊行物1)があるので,本願発明は,周知技術及び先行技術により当業者が容易に発明できるたものであると結論付けたものであるとも主張する。しかし,本願発明の技術的特徴がどこにあるにせよ,本件審決の「判断その2」が,拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしていることには変わりはない

 ウ したがって,被告の主張は採用できない。

(5) 以上のとおり取消事由12は理由がある。』 (以上、本判決文より抜粋。)
と判断しました。


 また、取消事由15(意見を述べる機会の不付与)についても、同様に、主引例は、拒絶査定の理由とされていなかったものである上、これまで、審査、審判において、原告らに示されたことが無かったものと認められ、原告らに対し,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならなかったものであり、原告らに意見を述べる機会を与えることなくなされた本件審決の「判断その3」は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するもので,その程度は審決の結論に影響を及ぼす重大なものである、と判断しています。


 そして、最後に、知財高裁は、

『5 なお,本判決は,前記のとおり,主として本件審決の手続上の違法を理由に取り消したものであり,本願発明の要旨認定の誤りの有無(取消事由1)等の実体上の事由については何ら判断しておらず,今後特許庁において適切な手続運営の下で,他の引用例の有無も含め,改めて審理されるべきものと考える。

 6 よって,その余について判断するまでもなく,原告らの請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。』

と判示しました。


 昨日も書きましたが、本出願は、再度、特許庁審判に戻り、3度審理されることになります(当たり前ですが、裁判所は特許を付与する行政行為はできず、特許庁でしか特許を付与することができないからです)。


 本出願が本当にスイカSuica)の基本出願であるかは解りませんが、今度こそ、慎重かつ的確に本願発明の特許性が判断されることを願います。


 なお、中間処理の際、現在の拒絶理由で指摘されている引例を含まないように請求の範囲の補正をしても、新たな拒絶理由が来ることなく、新たな引例を引かれて拒絶査定になることが、時折あります。その場合、もう一度、その新たな引例により拒絶理由を出して欲しかったなと、思うことがあります(もちろん、審判請求をすれば良いのですが。)。その点でも、私は、知財高裁の今回の判断に賛成します。 


 また、せっかくですので、明日は、ソニー鉄道総合技術研究所による本出願(特願平5−343517号)の内容などについて、コメントしたいと思います。


追伸;<今日,気になったニュース>
●『高速電力線通信,推進派と反対派の意見を聞いてみると… 』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20060707/242737/
・・・個人的には、ADSLが問題ないなら、電力線通信も問題ないと思っています。
●『私の使命は「V字回復」から「成長」へ舵を切ること──松下電器・大坪文雄新社長会見 』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060707/242804/
●『「経営に奇手奇策なし」--松下電器、営業利益率10%への道のり』
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20164907,00.htm
●『シニア層による家電メーカーのWWWサイト評価,松下が首位---マミオンが調査』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060707/118940/?ST=observer