●平成17(行ケ)10683審決取消請求事件「情報記憶カードの処理方法」

 今日は、昨日の続きで、『平成17(行ケ)10683 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「情報記憶カードの処理方法」平成18年07月03日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060705112655.pdf)についてコメントします。


 なお、昨日の日記では、何日か日前の読売新聞のニュースで知財高裁が審決を取消した記事を読んだ記憶があると書きましたが、当方の勘違いでした。1年くらい前のニュースですので、この部分は昨日の日記から削除します。


 さて、この判決で、原告は、審決の取消事由として、「一致点の認定の誤り」、「相違点の認定の誤り」、「進歩性の認定の誤り」、「第1時判決の拘束力違反」、「意見を述べる機会の不付与」、「審決の理由不備」等を理由として16個の取消事由を主張しました。


 取消事由の数だけでも、原告であるソニーおよび鉄道総合技術研究所の熱意が伝わってきます。


 そして、裁判所は、事案に鑑み、取消事由7(第1次判決の拘束力違反)、および取消事由12,15(意見を述べる機会の不付与)について先に判断し、これら手続上の違法性を認め、再度、審決を取り消しました。


 これで、再度、特許庁審判に戻り、審判官により3度、審理されることになります。


 さて、知財高裁は、 取消事由7(第1次判決の拘束力違反)について、

『(1) 特許に関する審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理・審決をするが,審決取消訴訟行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理・審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁)。

 そして,前記のとおり,平成16年4月1日になされた第1次審決は,平成17年5月12日の知財高裁による第1次判決により取り消され同判決は確定したのであるから,本件審決を担当する審判官は第1次判決の有する拘束力の下で判断しなければならないこととなる。以上の見解に基づき,以下検討を進める。

(2) 第1次審決(甲4)は,本願発明と刊行物1発明との相違点について,次のように認定した。
「上記刊行物1記載の発明においては,取引者が自動取引装置で出金額を指定すると,出金後,取引内容をICカードのメモリに書き込むようにしており,その際,残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。そして,上記刊行物1記載の発明においては,ファイル領域ZTが一杯になると,レコード数1に戻って再度書き込まれるようにしているから,本件発明が,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された前記情報を処理して,前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させるとともに,前記履歴情報を無限ループ状に記憶させる第4の工程を有するとする点と格別な差異はない。」(4頁3行〜12行)第1次審決の上記認定に対し,第1次判決(甲6)は,次のように判断して,審決を取り消した。

ア 「銀行カードを用いたATMによる自動取引処理において,口座残高は,銀行預金の取引の性質上,ATMが銀行カードのみに情報源を依存しこれから読み取ることはできず,銀行センター側のホストコンピュータが口座ファイルから読み取り,取引に関する処理を行った後,処理後の残高をATMに送信するものであることが明らかである。そうすると,刊行物1のICカードを銀行カードとして用いるのであれば,ICカードから『残額』を読み取り,出金後にこれを更新するという動作をしているものではないといわなければならない。したがって,審決が,『残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。』と推断したことは誤りである。」(14頁19行〜15頁3行)

・・・

ウ「以上のとおりであって,審決が,『残高を読取り,出金後にそれを更新するとの記載はないものの,そのような動作を行っているとするのが自然であり合理性がある。』と推断したことは誤りであり,したがって,審決が,『情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された前記情報を処理して,前記情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を前記情報記憶カードに記憶させるとともに,前記履歴情報を無限ループ状に記憶させる第4の工程を有するとする点と格別な差異はない。』と認定したことも誤りである。

 そして,審決は,…本件発明が,第3の工程において,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出し,かつ,第4の工程において,読み出された前記情報を処理して,情報記憶カードを使用した履歴情報を含む新たな情報を情報記憶カードに記憶させるのに対し,刊行物1記載の発明が,このような工程を有していない点が相違しているにもかかわらず,これを相違点として認定せず,その結果,その容易想到性についての判断をしていない。

 したがって,審決には,本件発明と刊行物1記載の発明との相違点を看過し,これについての容易想到性の判断をしなかった誤りがあるところ,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものと認められるから,原告ら主張の取消事由1は,理由がある。」(21頁20行〜22頁11行)
(3) 第1次判決の上記認定判断は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断であるから,前記のとおり,行政事件訴訟法33条1項にいう拘束力が生じ,再度の審決たる本件審決において,審判官はこれらの認定判断に抵触する認定判断をすることは許されないことになる。

(4) そこで,次に,本件審決の認定判断が第1次判決の上記認定判断と抵触するものであるか否かについて判断する。

ア 本件審決は,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについて,次のように認定している。

 ・・・

イ 以上のとおり,本件審決は,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについて,(a)ICカードの残高を読み取り,処理をした後に,ICカードに残高に書き戻すか,(b)センターの残高ファイルから残高を読み込み,処理をした後に,ICカードに残高を書き込むか,のいずれであるかであると認定している。

 しかし,第1次判決は,前記のとおり,「刊行物1のICカードを銀行カードとして用いるのであれば,ICカードから『残額』を読み取り,出金後にこれを更新するという動作をしているものではないといわなければならない。」,「銀行口座の真の残高をICカードに記憶させることがあると認めることはできない。」と認定しており,刊行物1のICカードから「残高」を読み取ったり,「(真の)残高」をICカードに記載することはない旨の認定をしているということができるから,本件審決の上記認定は,(a)はもとより,(b)も,第1次判決の認定に反するものといわざるを得ない。

 したがって,本件審決における刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定は,第1次判決の上記認定と抵触し,同判決の拘束力に反するものであって,許されないものである。

 そして,本件審決は,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定に基づいて,本願発明と刊行物1発明との「本願発明が,情報記憶カードに記憶されている情報を読み出す第3の工程と,読み出された情報を処理して,新たな情報を情報記憶カードに記憶させる第4の工程を有するのに対し,刊行物1にはその点についての記載がない点」という相違点(相違点2)について容易に発明することができたとの判断をしているのであるから,刊行物1発明のICカードを用いたシステムについての上記認定が本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

・・・

(6) 以上のとおり,本件審決の「判断その1」における認定は,第1次判決判決の拘束力に反し,審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,原告ら主張の取消事由7は理由がある。』  (以上、本判決文より抜粋。)。

と判断しました。


 今日はここまでにします。また、明日に続きます。


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