●『平成17(行ケ)10702 審決取消請求事件 特許権 知財高裁』

 今日は、『平成17(行ケ)10702 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成18年07月03日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060705111528.pdf)について、コメントします。

 本事件では、特許庁の無効審決が取り消されました。

 本事件で、まず、興味を引いたのは、2度目の審決取消訴訟で無効審決が取り消された点です。つまり、まず、被告から無効審判が請求され、原告が訂正の請求をし、訂正を認めた上で無効審決(1回目)が出されたので、1回目の審決取消し訴訟を請求すると共に、訂正審判を請求する。すると、特許法第181条第2項により無効審判に差し戻され、そこで、再度、訂正を認めるものの、無効審決(2回目)が出されたので、再度、本訴え(2回目)を起こし、無効審決が取り消されたという、裁判所と特許庁とのキャッチボールを経由している点です。本判決の手続の経緯の欄に詳細が記載されていますので、参照してください。


 次に、興味を引いたのは、取消事由2(相違点4についての認定判断の誤り)で争われた、クレームにおける数値限定の臨界的意義の有無です。


 取消事由2(相違点4についての認定判断の誤り)につき、裁判所は、

『(ア)本件訂正明細書には,相違点4の「本件訂正発明1では,横方向部の高さAより脚部の幅Cが広くなるように構成され,横方向部の高さをA(mm),横方向部の幅をB(mm),脚部の幅をC(mm),脚部の高さをD(mm)としたとき,A,B,C,Dが,『0.3≦(BC)/2A≦2.5 』,『0.3≦(A+D)/B≦4.5 』を満たす範囲にある」ことを含む,本件訂正発明1の構成要件を備えたフィンを用いたルーバは,断面形状が長方形の従来型フィンを用いたルーバに比べて,騒音発生の抑制の効果が明白に現れた旨の試験結果(上記(2)ウ)が示され,その上で,上記(2)エのとおり,騒音の発生が抑制されたこと等の本件訂正発明1の効果が記載されているから,本件訂正明細書には,相違点4に係る構成の効果が記載されているということができる。

 本件訂正明細書には,相違点4に係る構成のみの効果は記載されていないが,本件訂正発明1は,相違点4に係る構成を含む上記(2)(イ)の構成を有するものであるから,そのような構成全体から生ずる効果が記載されていれば,効果の記載はあるということができる。

 なお,原告は,本件特許の出願当初の明細書(特開平7−238649。甲10)には,横方向部の高さAより脚部の幅Cが広いT型ルーバ用フィンと横方向部の高さAより脚部の幅Cが狭いT型ルーバ用フィンの各試験結果が記載されているが,それによると,横方向部の高さAより脚部の幅Cが広いT型ルーバ用フィンは,横方向部の高さAより脚部の幅Cが狭いT型ルーバ用フィンに比べて,騒音発生防止の点で優れていることが示されていると主張する(段落【0028】,【0036】,【0039】,【0040】,【0048】)。この出願当初の明細書の記載のうち,横方向部の高さAより脚部の幅Cが狭いT型ルーバ用フィンに関する試験結果は,その後の補正によって削除された(本件訂正明細書[甲11]段落【0039】,【0040】,【0048】参照)から,この削除された記載を根拠として,明細書に相違点4に係る構成の効果が記載されているということはできないが,本件訂正明細書には,上記のとおり,相違点4に係る構成を含む上記(2)(イ)の構成全体から生ずる効果が記載されていることにより,相違点4に係る構成の効果が記載されているということができるから,出願当初の明細書の上記記載が削除されたことは,明細書に相違点4に係る構成の効果が記載されているとの上記判断を左右するものではない。

(イ) また,本件訂正明細書には,相違点4に係る構成の数値の臨界的な意義については記載されていない。しかし,数値限定に常に臨界的な意義が必要であるとは解されない。本件訂正発明1は,上記(4)のとおり刊行物1記載発明とは相違点があるものであり,相違点4に係る構成の数値限定以外の点について進歩性が認められるのであれば,相違点4に係る構成の数値限定に臨界的な意義は必要でないものと解される。それにもかかわらず,審決は,このような点を検討することなく,相違点4に係る構成の数値に臨界的な意義が必要である旨の判断をしている誤りがある。

(ウ) したがって,審決中の「明細書には,相違点4に係る構成としたことによって奏する作用効果…は何ら記載されていない…」(11頁10行〜11行)との認定は誤りであり,相違点4に係る構成の数値に臨界的な意義が必要である旨の判断にも,上記(イ)のとおり誤りがある。そして,これらの認定判断に基づく「上記数値限定等は,当業者が発明の実施にあたって適宜定める設計的事項といわざるを得ない」(11頁11行〜12行)という審決の判断も誤りであるから,取消事由2は理由がある。』(以上、判決文より抜粋。)
と判断しました。


 つまり、数値限定に常に臨界的な意義が必要であるとは解されず、数値限定以外の点について進歩性が認められるのであれば,数値限定に臨界的な意義は必要でないものと解する、とのことです。


 請求の範囲における数値限定というと、つい、昨年の知財高裁のパラメータ特許の偏光フィルム事件(http://www.ip.courts.go.jp/documents/pdf/g_panel/10042.pdf)を思い出してしまいます。