●『平成17(行ケ)10630 審決取消請求事件 特許権 知財高裁』

 今日は、『平成17(行ケ)10630 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成18年06月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060627185057.pdf)についてコメントします。


 本件は、特許庁がした拒絶審決の取消しを求めた審決取消し訴訟で、原告は、取消事由として「審決は,本願補正発明と引用発明の対比を誤り(取消事由1),相違点についての判断を誤り(取消事由2),・・・,その結果,本願補正発明が引用発明に基づいて容易に想到し得たとの誤った結論を導いたものであり,違法であるから,取り消されるべきである。」を主張しましたが、知財高裁は、原告の請求を棄却しました。


 まず、取消事由1(本願補正発明と引用発明の対比の誤り)について、知財高裁は、
『(2) 原告は,審決が,本願補正発明と引用発明との相違点について,「有効成分であるR−チオクト酸の化学的形態に関し,本願補正発明では同形態が『R−チオクト酸と,アルカリ金属・・・及びトロメタモールから選択された塩基とからなる固体塩』であるのに対し,引用文献1に記載された発明では同形態が(遊離の)『R−チオクト酸』である」(審決謄本4頁第3段落)と認定したことについて,本願補正発明が「経口適用のための服用形」に関するものであって,本願補正発明と引用発明とで本質的に異なっている含有成分と経口適用の服用形とを分離すべきではないのに,含有成分のみを取り出して相違点であるとしているから誤りである旨主張する。
 しかし,特許を受けようとする発明を特定すべき事項は,そのすべてが特許請求の範囲に記載されているはずであり,特許請求の範囲は,一般に,発明を特定すべき複数の事項(構成要素)の組合せから成り立っているものである。もとより,構成要素を組み合せた全体についての判断を怠ってはならないことはいうまでもないが,本願補正発明も,その発明を特定すべき複数の事項(構成要素)の組合せにより一つの技術的思想を表しているのであるから,構成要素を組み合わせた全体についての判断を怠ってはならないことはいうまでもないが,各構成要素ごとに区分して検討することができることは当然である。また,特許を受けようとする発明の進歩性の判断は,特許請求の範囲と,これに対応する公知技術とを構成要素ごとに対比して一致点,相違点を抽出し,その後,相違点及び作用効果についての検討の段階で,公知技術の内容,周知技術,技術水準等を考慮した上,当業者が容易に当該発明に想到し得たかどうか,注目すべき作用効果があれば,その作用効果が予測可能であったかどうかが検討されるのが通常であり,この手法には十分に合理性が認められるところである。
 本件において,審決が,上記常とうの検討方法によって一致点,相違点を認定していることは,審決の記載自体から明らかであり,上記方法によって検討することが不合理であると認め得る格別の事情を見いだすこともできない。
 原告は,本願補正発明と引用発明とで本質的に異なっている含有成分と経口適用の服用形とを分離すべきではないと主張するが,これを分離して検討することができることは,上記のとおりであり,含有成分と経口適用の服用形とが本願補正発明と引用発明とで本質的に異なっているかどうか,それが本願補正発明の進歩性とどのように関わってくるのかは,相違点についての判断の当否において検討されるべき問題である。
(3) 以上のとおりであって,一致点,相違点についての審決の認定に誤りはないから,原告主張の取消事由1は,理由がない。』 
と判示しました。


 次に、 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について、
『(4) 原告は,本願補正発明と引用発明とでは,発明の課題が大きく相違しているので,引用発明から,「良好な貯蔵安定性で,できる限り高い生物供給性を有する服用形の開発」という課題を有する本願補正発明の構成に,当業者が思い至る契機も動機付けもないと主張する。
 しかしながら,審決が引用例から引用している技術,すなわち,引用発明は,「R−チオクト酸を含有するタブレット,顆粒またはペレットの形の,作用物質含有率が45重量%より多い,患者が服用するための医薬製剤」(審決謄本3頁最終段落)というものであって,引用例の特許請求の範囲に記載された発明ではなく,したがって,引用例の特許請求の範囲に記載された発明に係る技術課題が本願補正発明と相違しているからといって,そのことから直ちに,引用発明から本願補正発明の構成に当業者が思い至る契機も動機付けもないということにはなり得ない。
 もっとも,引用例の特許請求の範囲に記載された発明に係る技術課題が本願補正発明のそれと大きく相違していることが相違点の克服を困難にすること,例えば,上記技術課題が引用発明と密接に結びついているため,引用例から引用発明のみを取り出して本願補正発明に組み合わせることを困難とするなどといった,引用発明から本願補正発明への動機付けを阻害する要因になっているかどうかという問題もあり得るので,この点について,念のため検討する。

・・・

 このように,引用例(甲13)には,審決の認定する「R−チオクト酸を含有するタブレット,顆粒またはペレットの形の,作用物質含有率が45重量%より多い,患者が服用するための医薬製剤」(審決謄本3頁最終段落)の技術(引用発明)のみならず,上記のとおり,引用例の特許請求の範囲に記載された発明に係る技術課題(タブレットの大小,濃度,表面のワレ等の改良に関する技術課題)も開示されているものである。
 ところで,引用発明と上記技術課題の関係をみると,まず,固体形状の経口医薬製剤に配合されるR−チオクト酸が存在し,これを前提に,当該製剤の固体形状を改良しようとするものであるから,上記技術課題は,引用発明との関係では,必ずしも密接に結び付いているものということはできないものであって,引用例に接した当業者において,「R−チオクト酸を含有するタブレット,顆粒またはペレットの形の,作用物質含有率が45重量%より多い,患者が服用するための医薬製剤」という技術,すなわち,引用発明を把握するに際し,引用例から引用発明のみを取り出して本願補正発明に組み合わせることを困難とする格別の事情とはなり得ないものというべきである。その他,引用例の内容から,引用発明から本願補正発明への動機付けを阻害する要因になるような事項を見いだすこともできない。
 そうすると,引用発明の上記技術課題が,引用発明にR−チオクト酸の固体塩を適用して相違点に係る本願補正発明の構成に思い至る契機あるいは動機付けとなることを妨げるものではなく,引用発明のタブレット,顆粒又はペレットの形,すなわち固体形状の経口医薬製剤に配合されるR−チオクト酸につき,その安定性,製剤のしやすさ,溶解速度,バイオアベイラビリティ等の観点から製剤に好ましい形態のものを選択し,上記遊離形のみならず各種塩基との塩の形態にすることは,当業者が容易に着想し得ることといわなければならない。
 したがって,本願補正発明と引用発明とでは,発明の課題が大きく相違しているとして,当業者において,引用発明にR−チオクト酸の固体塩を適用して相違点に係る本願補正発明の構成に思い至る契機も動機付けもないとする原告の上記主張は,採用の限りでない。
(3) 以上のとおりであって,原告主張の取消事由2は,理由がない。』
と判示しました。(以上、判決文より抜粋。)


 化学・薬学分野は、当方の専門範囲外であるため、技術的なことは何もコメントできませんが、この事例を見る限り、特許庁も、裁判所も、引用例から引用発明のみを取り出して本願補正発明に組み合わせることを困難とする事情がない場合、または引用例の内容から引用発明から本願補正発明への動機付けを阻害する要因になるような事項を見いだすこともできない場合には、引用例の内容に動機づけとなり得るものがある、と判断していることがわかります。


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