●平成16(ネ)1589 損害賠償請求控訴事件「液晶組成物事件」

 本日は、『平成16(ネ)1589 特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟「液晶組成物事件」平成17年01月27日 東京高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C81A5061B4C88191492570FC000222A1.pdf)について取上げます。


 本件は、特許権侵害に基づく損害賠償請求控訴事件であり、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、特許請求の範囲における「AとBからなる」の表現について、原則として、つまり本件明細書の特許請求の範囲や発明の詳細な説明にAとB以外の第三成分を明示的に加える旨の記載があるなどの特段の事情が認められない限り,米国の“consist of”と同様に、AとB以外のものを含まないように解釈すると判示している点で、とても重要な事案かと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 塚原朋一 裁判長)は、


『1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,2において,当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第4 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。


 2 当審における控訴人の主張について

 (1) 争点1−?(本件特許発明の構成要件Dにいう「液晶組成物」にエステル基(−COO−)含有化合物を含む液晶組成物が含まれるか)について


 ア 控訴人は,本件明細書の特許請求の範囲には,「一般式(?)で表される非カイラル化合物」と「一般式(?)又は(?)で表されるカイラル化合物」のみからなる「液晶組成物」と記載されていないのであって,「AとBからなる」との文言は,「AとBを用いている」との文言と同義であり,AとB以外の第三成分を排除する意味合いはないと主張する。


 確かに,本件明細書の特許請求の範囲には,「下記一般式(?)で表される非カイラルな化合物と,吸着剤に対する吸着性が一般式(?)で表される非カイラルな化合物より大きくない下記一般式(?)または一般式(?)で表されるカイラルな化合物からなり,・・・アクティブマトリックス用ネマチック液晶組成物」と記載されていて,「一般式(?)で表される非カイラル化合物」と「一般式(?)又は(?)で表されるカイラル化合物」のみからなる「液晶組成物」とは記載されていない。


 しかし,「AとBからなる」との文言は,AとB以外の第三成分を排除する趣旨で使用するのが通常であるから,本件明細書の特許請求の範囲や発明の詳細な説明にAとB以外の第三成分を明示的に加える旨の記載があるなどの特段の事情が認められない限り,「AとBからなる」との文言が「AとBを用いている」との文言と同様にAとB以外の第三成分を排除する意味合いがないと解することはできない。


 そして,本件明細書の特許請求の範囲には,一般式(?)で表される非カイラル化合物について,「・・・X,YおよびZはそれぞれ独立に単結合,−CH 2 −CH2 −,−OCH 2 −または−CH 2 O−を示し,R 1 およびR 2 は,それぞれ独立に,H,C n H 2n+1 −,C n H2n+1O−もしくはC n H 2n+1 −O−C k H 2k −(ただし,nおよびkはそれぞれ独立に1ないし18の整数である),またはC n H 2n-1 −,C n H 2n-1 O−,Cn H 2n-1 −O−C k H 2k −,C n H 2n-3 −,C n H 2n-3 O−もしくはC n H 2n-3 −O−C k H 2k −(ただし,kは上記と同じ,nは2ないし18の整数である)を示し,(n+k)≦18であり,該式における少なくとも一つのH原子はF原子で置換されていてもよい。」と記載されていて,一般式(?)のX,Y,Z,R 1 ,R 2 の選択肢にはエステル基が記載されていない。また,本件明細書の発明の詳細な説明には,非カイラル剤として,一般式(?)で表されるもの以外のものをさらに混合させることについて何ら記載されていない上,「−CN基やカルボン酸エステル構造を官能基として有する化合物は,得られる液晶素子の電圧保持率を高く維持するという観点からは本発明の非カイラルな成分として不適当である。同様にこれらのCN基やエステル基等の官能基を有するカイラルな化合物は吸着性が大きいために,更にまた電圧保持率の観点からも本発明のカイラルな成分としては一般的に言って望ましくない。」(【0040】),「表3から,式(?)の化合物(判決注:カイラル剤化合物)はエステル化合物であっても混合物Aの成分に比べて著しく大きな分子量を有し吸着性がフッ素系化合物とほぼ同程度であることから本発明の組成物の成分として好ましく用いられる。」(【0044】)と記載されている。


 これらの記載によれば,本件特許発明の構成要件Dにいう「液晶組成物」には,一般式(?)で表される非カイラル化合物のほか第三成分としてエステル基(−COO−)含有化合物を含むものと解することはできない。


 したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。


 ・・・


第4 結論

 以上のとおりであって,被控訴人の請求は,当審における追加請求を含めて,理由がなく,棄却されるべきものである。そして,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がなく,棄却されるべきものである。』

 と判示されました。


 つまり、本件では、控訴人の主張である「本件明細書の特許請求の範囲には,「一般式(?)で表される非カイラル化合物」と「一般式(?)又は(?)で表されるカイラル化合物」のみからなる「液晶組成物」と記載されていないのであって,「AとBからなる」との文言は,「AとBのみからなる」と限定解釈されました。


  上記赤太線部分は二重否定となっていて若干複雑ですが、二重否定表現を肯定的に表現に置き換えると、

AとBからなる」との文言は,AとB以外の第三成分を排除する趣旨で使用するのが通常であるから,本件明細書の特許請求の範囲や発明の詳細な説明にAとB以外の第三成分を明示的に加える旨の記載があるなどの特段の事情が認められない限り,「AとBからなる」との文言が「AとBを用いている」との文言と同様にAとB以外の第三成分を排除する意味合いがあると解することができる。』

 となり、米国の“consist of”と同様にクローズドクレームになるかと思います。


 よって、米国と同様、日本でも、特許請求の範囲では、「・・・と、・・・とからなる」という表現を使用することには、とても注意が必要ではないかと思います。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。