●『平成17(行ケ)10718 審決取消請求事件適応型自動同調装置」

Nbenrishi2006-06-25

 今日は、昨日予告した通り、『平成17(行ケ)10718 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「適応型自動同調装置」平成18年06月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060623104959.pdf)についてコメントします(昨日の日記では、本事件のURLを間違って記入していましたので、今日、修正しました。済みませんでした。)。


 本事件では、進歩性違反による拒絶審決が、その判断に違法性がありと判断され、取り消されました。なお、拒絶査定不服審判の中で原告は、特許請求の範囲の補正を含む明細書の補正を行いましたが、その補正が審判段階で17条の2第5項違反で53条により却下された上で、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基づいて,進歩性違反の拒絶審決が出されました。


 なお、原告は、この審決取消訴訟では、本件審決が認定した引用発明の内容及び(補正却下後の発明との)相違点1,2は認めた上で、本件審決は,本願補正発明と引用発明との一致点の認定誤り(取消事由1),本願補正発明と引用発明との相違点1,2の判断を誤った結果(取消事由2,3),本願補正発明の進歩性を否定し,本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとして,本件補正を誤って却下したものであるから,違法として取り消されるべきである、と主張しました。


  すると、裁判所は、取消事由2(相違点1の判断の誤り)について、明細書の実施の形態の効果等の記載等参酌した上で、本願補正発明と引用発明とは、複数の振動子を駆動させる動作の点において,具体的な技術的課題,作用を異にし,その技術的思想を異にしているものであり,「共振点の異なる複数の負荷に時分割でパワー供給を行う」という抽象化されたレベルで共通するとしても,そのことをもって,両発明の上記各動作に格別の差異がないとすることはできないというべきである、と認定しました。


 また、裁判所は、本願補正発明は,「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」とするものであり,複数の振動子を電気的に接続して同時駆動することを構成内容とするものであるから,その構成上の対比において,負荷が別々に駆動される引用発明と,動作に実質的な差異がないということはできない。・・・引用発明において同時に複数の振動子を駆動するときは,・・・を調節することが困難となるから,複数の振動子を電気的に接続して同時駆動することは,これをうかがわせる事情が認められない限り,引用発明の予定していないところと考えるのが相当であるし,引用例1には,入力端を1個として同時に複数の振動子を駆動するようにするという技術的課題も,また,これを示唆する事項も全く記載されていない。そうすると,引用例1には,これに接した当業者が,引用発明における「独立した入力端を有する共振周波数の異なる複数個の超音波振動子」を,本願補正発明の「電気的共振点を複数有し且つ入力端を1個だけ有する1の負荷」に変更する契機となるものがなく,その動機付けを見出すことができないといわなければならない、と認定しました。


 さらに、裁判所は、本件審決の周知技術を前提としても,そのことが,引用発明の構成を本願補正発明の構成に変更する動機付けとなるものと解することはできず、かかる動機付けが見出せない以上,引用発明に本件審決にいう周知技術を組み合わせることによって,当業者が相違点1に係る本願補正発明の構成を適宜採用し得るものと認めることはできない、から,本件審決の上記判断は誤りである、とも認定しました。


 そして、裁判所は、原告の請求を認容する審決取消判決を出しました。


 昨日、今日、紹介した2件の認容判決のみからでは、まだまだ何とも言えませんが、知財高裁の進歩性の考え方が、ほんの少しだけわかったような気がしました。