●『平成17年(ネ)第10050号特許権に基づく侵害差止等請求控訴

均等侵害で過去の判例をしていたら、『平成17年(ネ)第10050号(東京高裁平成16年(ネ)第2749号) 特許権に基づく侵害差止等請求控訴事件』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/452C3224AC0F50D14925710E0008C3BA.pdf)という事件がありました。

 本件特許発明は「止め具及び紐止め装置」という発明の名称で、被告製品の製造、販売の差止め、および損害賠償を求めた請求の控訴事件です。


 結局、東京高裁は、被告製品は構成要件イを充足しないので文理侵害は成立せず、また、「構成要件イ」が本件特許発明の本質的部分であるので、均等侵害の第1要件を満たさず、均等侵害も成立しないので、控訴人の本訴請求を棄却しました。


 本事件で均等侵害以上に興味を引いたのは、本件特許発明が分割出願に係る発明で、その文理侵害を否定した理由です。


 つまり、裁判所は、
『本件特許の特許請求の範囲,本件明細書及びその図面,出願経過等に照らしても,本件特許発明に含まれる「弾性体」の範囲は必ずしも明確ではない。しかしながら,前記エで判示したとおり,分割出願の特許請求の範囲には原出願の出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲外のものが含まれないことを前提として解釈するのが合理的であるところ,原出願明細書及びその図面に開示されている「弾性体」は,Oリング状又は円盤状のものに限られると認められるのであるから,本件特許発明の「外周が円形状」の「弾性体」も,Oリング状又は円盤状のものを意味すると解するのが相当である。


 仮に,控訴人の主張するとおり,本件特許発明の「弾性体」が環状のものを広く含むとした場合には,本件特許の特許請求の範囲には,原出願明細書及びその図面に開示されていない新たな事項が追加されていることになり,本件分割手続は特許法44条1項に規定する分割手続要件を充足せず,本件分割出願の出願日は,本件分割出願が実際に特許出願された平成11年10月6日となる。その場合,本件特許発明1及び3は,いずれも特許法29条1項1号の規定に違反して特許されたものということができ,本件特許に基づく控訴人の請求は権利の濫用に当たるものとして許されない。』(以上、本判決文より抜粋。)

と判断して文理侵害を否定しました。


 本件特許の明細書自体を正確に読んでないため、内容的なこと(例えば、実施例に限定解釈し過ぎ等)はコメントできませんが、分割出願に係る特許発明の技術的範囲が親出願の開示範囲以外には及ばないとする判断は、特許法第1条や第36条6項1号からして当然の判断であると思います。