●『平成17年(ワ)第11037号特許権侵害差止請求権不存在確認請

 今日は、昨日に続いて『平成17年(ワ)第11037号特許権侵害差止請求権不存在確認請求事件』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060614180334.pdf)の争点(3)の均等侵害の成否について、手続補正書および意見書による主張等を参酌して、均等侵害の第1要件の本質的部分の認定した点が参考になりますので、取り上げます。


 つまり、本事件では、均等侵害の5要件、すなわち、
『1.上記部分が特許発明の本質的部分ではないこと。
 2.上記部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏すること。
 3.このように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造時の時点において容易に想到することができたものであること。
 4.対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではないこと。
 5.対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に 除外されたものに当たるなどの特段の事情もないこと。』

のうち、手続補正書および意見書による主張等を参酌して、第1要件(本質的部分)と、第5要件(意識的除外)の要件を満たさないとして、均等侵害も成立しないと判断しました。


 具体的には、
『(2) 上記均等の第1要件における特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうち,特許発明特有の課題解決のための手段を基礎付ける技術的思想の中核的,特徴的部分をいうものと解される。

 ア そこで,本件発明における特許発明の本質的部分がどこにあるのかを検討するに,本件明細書には「この発明は,…自動車タイヤのグリップ力,及び直進安定性を向上させうる内装材およびグリップ力及び直進安定性に優れた自動車タイヤを提供することを目的とする。」「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明者は、鋭意研究の結果,帯状環状体に形成された,特定の物性を有するゴム発泡体または合成樹脂発泡体を自動車タイヤに内装することにより,グリップ力及び直進安定性を向上しうることを見出すに至り,本発明を完成したものである。」との記載があり,本件発明の解決しようとする課題の解決手段として,ゴム発泡体が特定の物性を持つことに特徴があることを明記した上でその物性に関しては本件明細書にこの発明において前記発泡体は,見掛比重が0.20〜0.50,25%歪み時の圧縮応力が20〜1000g/ の特性を有する必要がある。上記2特性の内,1つでも上記範囲を逸脱すると,この発明の効果が達成されない 。

 また,本件明細書には「前記帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されていることによりタイヤ内周面(2a)との摩擦による発泡体の摩耗を防止することができるとの記載がある上,出願経過を参酌しても,・・・,原告は,当初明細書の請求項1ないし4に・・・を記載していたところ,かかる構成が引用文献1ないし3に記載されていること等を理由に拒絶理由通知を受けたため,平成16年8月24日付けの意見書において「引用文献1〜5のいずれにも『ゴム発泡体からなる帯状環状体の表面にゴムからなる非発泡表面層を一体化した構成』は記載されていないし,このような構成を採用することによって『タイヤ内周面との摩擦による発泡体の摩耗を防止できる』という格別な効果が得られることは何ら記載も示唆すらもない」と主張し,これに沿った補正をし,それが容れられて本件特許の特許査定がなされたものである。

 
 また、当初明細書にはまた帯状環状体の表面に,ゴムからなる非発泡表面層が一体化されてなる場合には,タイヤ内周面との摩擦による発泡体の摩耗を防止することができると,ゴムからなる非発泡表面層を帯状環状体の表面に一体化したことにより特有の効果を奏する旨の記載がある。

・・・

 ウ そうすると,自動車タイヤ用内装材について,特許請求の範囲に記載された範囲内の数値に限定された特定の物性を有するゴム発泡体を使用するとともに,帯状環状体の表面にゴムからなる非発泡表面層を一体化させる構成を採用したことは,いずれも本件発明特有の課題解決の手段を基礎付ける技術的思想の中核的特徴的な部分すなわち本件発明の本質的部分であると認めるのが相当である。』

 と判断しています。


 その結果、最終的に、
『(3) これに対し,原告製品は,・・・においてそれぞれ本件発明と相違するとともに,・・・点において本件発明と相違するところ,上記のとおり,各相違部分はいずれも本件発明の本質的部分であって,上記均等の第1要件を欠くことが明らかである(ちなみに,前記出願経過にかんがみると,被告は,本件発明の構成からゴム発泡体のみからなる内装材からなる構成をそれがスキン層」と称する表面層を有するか否かにかかわらず,意識的に除外したものというべきであるから,上記均等の第5要件をも欠くとも解される。)

 (4) 以上の説示によれば,原告製品は,本件発明の特許請求の範囲と均等なものとしてその技術的範囲に属するものということはできず,被告のこの点に関する主張は採用できない。』(以上、本判決文より抜粋。)

と判示しています。


 つまり、均等侵害の際、出願当初の明細書中に記載された発明の目的や効果だけでなく、手続補正書および意見書における引用文献に対する補正および主張の出願経過を参酌して、本発明の本質的部分を判断しますので、明細書を作成する際、そして中間処理の際も、注意が必要ということです。


追伸;<今日、気になったニュース>
●『平成15年改正法における訂正審判の運用の変更について』
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/tetuzuki/sinpan/sinpan2/15kaisei_teisei_unyou.htm
●『先使用権制度の円滑な活用に向けて −戦略的なノウハウ管理のために− 平成18年6月 特許庁
http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/senshiyouken.htm
http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/pdf/senshiyouken/guideline.pdf


●『平成17年度制度・国際特別委員会活動報告 〜米国特許制度改革の動きに関する調査・研究〜』
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/241benkyo.pdf
●『特許審査における発明の同一性について』
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/241ronbun1.pdf