●『平成17(行ケ)10564 審決取消請求事件 特許権 知財高裁』

 昨日は、残念ですが、オーストリアに負けました。まだ、2戦あります。頑張れ日本!!


 さて、今日は、『平成17(行ケ)10564 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成18年06月06日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060607133235.pdf)について、コメントします。


 本件は、訂正審判の請求が進歩性なしで独立特許要件を満たさず棄却された審決の取消を求めた訴訟で、この訴えも棄却されました。


 本審決では、本件訂正発明における「プロピル」、「ブチル」の各用語を狭義と広義との双方に解釈して狭義訂正発明および広義訂正発明の双方について進歩性なしと判断した点で面白く、また裁判所で広義訂正発明と判断した論理も明確であるので、取り上げてみました。


 つまり、裁判所では、
『(4)上記によれば,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,本件訂正発明における「テトラプロピルチタネート」,「テトラブチルチタネート」に係る「プロピル」,「ブチル」については,狭義とも広義とも確定することができないものというべきである。

 原告は,「プロピル」,「ブチル」との各用語について,訂正明細書に広義に用いる旨の記載がないから,狭義に用いられているもの,すなわち有機化学命名法に従って記載されているものと解すべきである旨主張する。しかし,前記のとおり,「プロピル」,「ブチル」との各用語は,広義に用いることもごく普通に行われているものであるから,原告主張のように解することはできず,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,有機化学命名法に従って記載されていると一義的に理解することができない以上,これを広義のものとして理解することを排除することはできないといわざるをえない。

 このように,特許請求の範囲に記載された用語の技術的意義が,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,一義的に明確に理解することができず,広義にも狭義にも解しうる場合には,当該特許発明の新規性及び進歩性について判断するに当たっては,当該用語を広義に解釈して判断するのが相当である。

 広義に解した場合の特許発明について,新規性及び進歩性が肯定されれば,狭義に解した場合には当然にこれらが肯定されるし,逆に,広義に解した場合の特許発明について,新規性又は進歩性が否定されるならば,もはや狭義に解した場合にそれらが肯定されるかどうかを検討するまでもなく,当該特許発明の新規性又は進歩性を認める余地はないからである(仮に狭義に解した場合に新規性及び進歩性が認められるとしても,それが広義にも解しうるものである以上,狭義に解した場合のみを前提に当該特許発明の特許性を肯定することができないことはいうまでもない。)。


 そうすると,本件訂正発明における「テトラプロピルチタネート」,「テトラブチルチタネート」に係る「プロピル」,「ブチル」は,それぞれ,「n−プロピルとi−プロピルの上位概念」,「n−ブチル,i−ブチル,s−ブチル,及び,t−ブチルの上位概念」と解するべきであり,したがって,本件訂正発明における「テトラプロピルチタネート」,「テトラブチルチタネート」は,広義のテトラプロピルチタネート,広義のテトラブチルチタネートを意味するものというべきであるから,原告の主張は採用することができない。』(本判決文より抜粋。)

 と判断し、本件特許発明を広義訂正発明と判断した上で、原告の主張を棄却しました。


 明細書にクレームの用語の定義がない以上、クレームの用語を広義に解釈して広義訂正発明と判断した知財高裁の考え方が明確に分り、参考になると思います。


 なお、本件は、化学分野の発明で、個人的には不得意な分野で、本件における進歩性などの判断は、非常に難しく、誠に済みませんが、何もコメントできません。


追伸;<今日、気になったニュース>
●『DJ-クアルコムノキア特許権侵害でITCに提訴』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060613-00000025-dwj-biz
●『QUALCOMMNokia製品の輸入・販売禁止を請求』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0606/13/news016.html
●『三極特許庁専門家会合(2006年5月22日−24日、東京)結果概要』
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/kokusai/kokusai3/3kyoku_20060522-24_tokyo.htm