●『知財高裁から見た特許審査・審判』について

 昨日紹介した判例に、そのURLを忘れていました。追加しておきます。


 さて、昨年末、知財高裁の篠原勝美所長が特技懇で、『知財高裁から見た特許審査・審判』(http://www.tokugikon.jp/gikonshi/239tokusyu1.pdf)について論文を発表しており、読み返していました。

 
 この論文の内容は、特許庁の審査官、審判官向けの内容ですが、知財高裁の考え方が分るので、我々、特許実務者にとっても、非常に参考になる有益な内容です。


 詳細は、上記論文を参照して欲しいのですが、特許実務者にとっても非常に役立つ内容が述べられていますので、上記論文より以下の内容を抜粋させて頂きます。尚、丸数字は、表記不可のため()数字に変更か、削除しています。


 まず、その論文の中で、『特許法104条の3と無効審判と関係』について、
「平成16年改正により新設され知財高裁の発足と同時(平成1 7年4月1日)に施行された特許法104条の3は、キルビー判決を基本としつつも、これを一歩進め、「明らか」要件を撤廃し、法律構成を権利濫用という一般条項から法律上の明文の規定に基づく権利行使の制限の抗弁に変えたものであるが、侵害訴訟において、特許庁における無効審判の無効審決の確定を待つことなく、裁判所が特許の無効理由を判断することができる点で変更はなく、実務の運用上は従来と変わらないと思われる。

 特許庁の資料によれば、キルビー判決以降平成1 6年までの特許侵害訴訟401件中、権利濫用の抗弁が主張されたものは229件(57%)、そのうち無効審判が同時係属したものは146件(64%)、平成16年に限ってみれば、特許侵害訴訟7 0件中、権利濫用の抗弁が主張されたものは56件(80%)、そのうち無効審判が同時係属したものは33件(59%)である。特許法104条の3の下においても、侵害訴訟関連の特許無効審判の重要性は、増すことはあっても、減じることはないものと予測される。」

 と述べています。

  これらの数値は、とても参考になります。


 また、『特許発明の技術的範囲の確定と発明の要旨認定』について、
 「特許発明の技術的範囲の確定は、特許侵害訴訟において問題となり、特許法70条1項の規定するところであるが、発明の要旨の認定は、特許出願手続、特許無効審判手続及び審決取消訴訟において問題となり、最高裁平成3年3月8日判決・民集4 5巻3号123頁(リパーゼ判決)の規律するところである。


  すなわち、発明の要旨認定は、特許請求の範囲の記載をそのまま権利化して独占権を付与してもよいかとの観点から行われる、発明の実体の認定作業である。したがって、特許請求の範囲の記載に基づいて行われることが原則であり、発明の詳細な説明の参酌が許されるのは、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとき、一見してその記載が誤記であることが明らかであるときなどの特段の事情があるときに限定される。


 これに対し、特許侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定は、既に成立している権利の内容を示す特許請求の範囲が、特定の侵害態様との対比において、権利者と相手方との間でどのように解釈されるべきであるかとの観点から行われる、特許権の効力の及ぶ客観的範囲(外延)の確定作業である。したがって、特許発明の実質的価値に即応するものとして定められるべきであるから、種々の判断基準が必要とされ、発明の詳細な説明の参酌が必要となることは当然である。


 このように、両者は場面を異にしており、特許発明の技術的範囲は、発明の要旨よりも広い部分と狭い部分とがあって、範囲は必ずしも一致しない。」

 と述べています。


 特許発明の技術的範囲の確定と、発明の要旨認定とについて、侵害系(特許発明の技術的範囲)と、査定系(発明の要旨認定)とに明確に分けられており、前に日記に書いたように、元東京高裁判事の濱崎浩一さんと同じ見解なことがわかります。


 係争や鑑定・判定等の特許実務上、とても参考になります。

 

 追伸;<今日、参考になったニュース>
●『特許出願「量より質」 厳選を知財本部提言へ』
http://www.asahi.com/politics/update/0608/003.html
●『知的財産推進計画2006(案)の概要 』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/dai14/14siryou1.pdf
・・・全部で9頁です。
●『知的財産推進計画2006(案)』
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/dai14/14siryou2_1.pdf
・・・全部で170頁もあります。
  国際標準化の強化等、色々参考になる内容が掲載されています。


●『【SID】米国テレビ市場で激しく競り合うソニーSamsung社,最新の販売データから』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060606/117889/
●『【SID】史上最高,論文総数524件!──「SID 2006」のシンポジウムが開幕』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060607/117942/?ST=fpd
・・・特に台湾,韓国の大学が健闘しており、次世代FPD技術の研究や人材育成にも力を入れているそうです。