●「単独型ガス燃焼窯による燻し瓦の製造方法事件(H10.4.28)」

 受験生のみなさん、一次試験、お疲れ様でした♪
 明日からは論文試験に頭を切り替えて頑張ってください!

 
 さて、もう一つの最高裁事件の「単独型ガス燃焼窯による燻し瓦の製造方法事件(H10.4.28)」は、「オール事件」に較べ、それほど古くないので、yahoo等で検索すると、色々見つかります。

 「知的財産研究所」(http://www.iip.or.jp/top.html)の「均等論関連判決リスト」(http://www.iip.or.jp/summary/equivalent.html)の参2の判例分析シート(http://www.iip.or.jp/summary/pdf/equi/refer2.PDF)が一番詳しいかと思います。


 詳細は、知的財産研究所判例分析シートを参照して欲しいのですが、ポイントを述べますと、特許請求の範囲には、燻し瓦の燻化温度として『摂氏1〇〇〇度ないし9〇〇度付近』と記載されていた場合に、880度とか870度の燻化温度で行う被告の製造方法が、侵害か否か問題になりました。


 最高裁は、

 『発明の詳細な説明には、本件発明の作用効果として、窯内で炭化水素の熱分解が進んで単離される炭素並びにその炭素から転移した黒鉛の表面沈着によって生じた燻し瓦の着色は、在来の方法による燻し色の沈着に比して少しも遜色がないと記載され、本件発明における燻化温度は、このような作用効果をも生ずるのに適した窯内温度として採用されていることが明らかである。


 したがって、本件発明の特許請求の範囲にいう摂氏一〇〇〇度ないし摂氏九〇〇度「付近」の窯内温度という構成における「付近」の意義については、本件特許出願時において、右作用効果を生ずるのに適した窯内温度に関する当業者の認識及び技術水準を参酌してこれを解釈することが必要である。


2 原審は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明のいずれにも「付近」の意義を判断するに足りる作用効果の開示はないというが、右のとおり、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には、「付近」の意義を解釈するに当たり参酌すべき作用効果が開示されているのであって、右「付近」の意義を判断するに当たっては、これらの記載を参酌することが必要不可欠である。


3 原審は、前記のとおり、本件発明は窯内温度が摂氏一〇〇〇度「付近」で燻化を開始し摂氏九〇〇度「付近」で燻化を終了するものであるとか、「付近」の意味する幅は摂氏一〇〇度よりもかなり少ない数値を指すというが、前記窯内温度の作用効果を参酌することなしにこのような判断をすることはできないのであって、このことは、右窯内温度が特許請求の範囲に記載されていることにより左右されるものではない。右参酌をせずに特許請求の範囲を解釈した原審の判断には、特許法七〇条の解釈を誤った違法があるというべきである。


4 右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由がある。したがって、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破を免れず、特許請求の範囲における「付近」の解釈等につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」

として、差し戻しました。


 本件は、平成3年のリパーゼ最高裁判決以後、最高裁が、特許請求の範囲の『付近』の用語の意義を、特許法第70条第2項に規定されている通り、明細書に記載された作用効果から判断し、リパーゼ判決の判旨の意味を明確にした点でも、非常に意義のある事件ではないかと思います。


 なお、本事件の場合、もし特許請求の範囲に『付近』の語がなく、『摂氏1〇〇〇度ないし9〇〇度』とのみ記載されていた場合には、どうなったでしょうか?