●昭和50(オ)54「オール事件」昭和50年05月27最高裁(1)

 まず、「オール事件」とは、ボートに使用される分割構造のオールの実用新案登録にかかるのもので、出願日は昭和39年9月12日と、かなり古い特許です。

 本件の実用新案登録公報が短いので、本件公報の内容を、下記に示します。


「実用新案登録請求の範囲
 空室1を有する合成樹脂製水かき2の上部に雄ネジ3と、その上方に凸条4を有する嵌入部5を設け、合成樹脂製柄6の下部に凸条4と合致する凹条7を設け、該柄6の外部に雄ネジ3と螺合する雌ネジ8を有する合成樹脂製結合環9を回動可能に取り付け、水かき2の凸条4を柄6の凹条7に嵌入し、結合環9の雌ネジ8と水かき2の雄ネジ3を螺合し、水かき2と柄6を一体化してなるオールの構造。


 考案の詳細な説明
 本案は、空室1を有する合成樹脂製水かき2の上部に雄ネジ3と、その上方に凸条4を有する嵌入部5を設け、合成樹脂製柄6の下部に凸条4と合致する凹条7を設け、該柄6の外部に雄ネジ3と螺合する雌ネジ8を有する合成樹脂製結合環9を回動可能に取り付け、水かき2の凸条4を柄6の凹条7に嵌入し、結合環9の雌ネジ8と水かき2の雄ネジ3を螺合し、水かき2と柄6を一体化してなるオールの構造に係り、図中10は水かきの上端部に設けた透孔を示したものである。


 オールの重きものは使用者が疲労するので一般的に嫌われるが、あまり軽いのも使用しにくいものであり、其の重さの好みは各人それぞれ異なるものである。然し従来市販されているオールは機械的に多量に生産されるので重さは殆ど一定しておるので各人の異なる好みに応ずることができない。


 然るに本案に於いては水かき2の上部にある透孔10より水や砂を空室1内に容れることにより、使用者に適した重さとすることができ、また本案の全部は合成樹脂からできているので、透明な樹脂を用いれば空室1内に容れる物に着色することにより美しい色とすることができる。


 尚、本案水かき2と柄6とは別々となっているので、これを話せば全体を短くすることができ従って持ち歩くのに極めて便利である。しかして使用の際は水かき2の上部にある凸条4を、柄6の凹条7に押し込んで嵌めこみ、次に結合環9の雄ネジ8と、水かき2と、柄6は一体化して該柄6に対し、水かき2が回り止められる。依って使用に際し、即ち漕ぐときに全く支障をきたすことができないものであると共に、簡単に一体化して普通のオールと同一の構造のものとすることができる効果があり、更に水かき2と、柄6を別個に構成したので、どちらか一方が破損した場合に、破損したものだけを新しいものと取換えて使用できるため即ち互換性があるので甚だ経済的であり、又ボートが遭難した際は、ブイの代わりとすることも可能性である。


 図面の簡単な説明 
 第1図は一部切欠きした水かきの正面図、第2図は一部切欠きした柄の正面図である。


 そして、被告製品は、文理上、この実用新案登録の構成要件全てを備えていました。しかし、この実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載された『透孔』が構成要素として記載されてなく、被告製品のオールにおいても『透孔』が設けられていませんでした。


 そこで、特許法概説にも解説されているように、東京地裁は、『登録請求の範囲中に、単に空室と記載されていても、この空室は、本件考案の主要な解決すべき課題から見て透孔を伴うものと解すべく、したがって透孔を有しないすなわち密閉された空室を構造の一部とする被告製品は、技術的範囲に属しない。』と判示し、非侵害と判断し、東京高裁(東京高判昭49.9.18)、最高裁(最高判昭50.5.27)も、原判決を支持しました。


 なお、本最高裁の判決である『昭和50(オ)54 実用新案権 民事訴訟 昭和50年05月27日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070313182303.pdf)は、以下の通りです。

 
『                 主 文
  
  本件上告を棄却する。
  上告費用は上告人の負担とする。
  
                  理 由

  上告代理人新長巖の上告理由について。

 実用新案法二六条は特許法七〇条を準用しているから、実用新案の技術的範囲は、登録請求の願書添付の明細書にある登録請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないのであるが、右範囲の記載の意味内容をより具体的に正確に判断する資料として右明細書の他の部分にされている考案の構造及び作用効果を考慮することは、なんら差し支えないものといわなければならない。


  そして、本件登録実用新案の構造及び作用効果に関する原審の認定判断は、原判決(その引用する第一審判決を含む。)挙示の証拠及びその説示に照らし、首肯することができ、これによれば、本件登録実用新案の所論技術的範囲に関する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。


 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  最高裁判所第三小法廷
      裁判長裁判官 高辻正己
         裁判官 関根小郷
         裁判官 天野武一
         裁判官 坂本吉勝
         裁判官 江里口清雄 』