●平成17(ワ)14066 特許権侵害差止等請求事件「乾燥装置」(2)

 昨日の続きですが、 『平成17(ワ)14066 特許権侵害差止等請求事件「乾燥装置」平成18年04月26日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060508131937.pdf)で、東京地裁は、『本件明細書1においては,従来技術が有していた解決すべき課題として課題(3)「上記被乾燥物を上昇させるには,たった一枚の垂直螺旋回転羽根によって上昇させる。この為,上記乾燥槽内の底部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物の量が少なく,早期に被乾燥物を伝熱面に接触させることが難しいと共に,底部に被乾燥物が溜った状態が続き易く,乾燥効率を向上させることが難しかった。」ことが挙げられているとともに、本件発明Aの作用効果として作用効果(3)「上記複数枚の基羽根により,上記乾燥槽内底部に位置した被乾燥物を,複数枚の基羽根各々ごとに巻上上昇させることができるから,上記乾燥槽内底部に位置する被乾燥物の全量に比して上昇する被乾燥物量が多く,早期に被乾燥物を伝熱面に接触させやすい」旨が記載されている。これらの記載は,その内容を対比すれば明らかなように,本件発明Aが,課題(3)を解決するものとして作用効果(3)を有することを示すものにほかならない。』

と指摘されています。


 また、『その一方で,本件発明Aの技術的範囲に,最下段に1枚しか羽根を有しない装置が含まれていることをうかがわせる記載はない。また,・・・実施例においても,開示されているのはすべて最下段に複数枚の基羽根が配設された乾燥装置のみであり,最下段に1枚しか羽根を有しない装置は,課題(3)を有する従来技術として記載されている。そうすると,本件発明Aの技術的範囲からは,最下段に1枚しか羽根を有しない装置が除かれていると解すべきものである。』

と指摘されています。


 そして、『 これら本件明細書1の記載からすれば,課題(3)の解決策として,客観的,技術的に底部の羽根を複数枚にする構成が不可欠であるか否かはおくとしても,本件発明Aにおいては,課題(3)の解決策として,底部の羽根を複数枚にする構成が採用されていることが明らかであるといえる。したがって,本件発明Aの構成要件A1の「複数枚」は,最下段に複数枚の基羽根が配置されていることを意味すると解釈されるべきである。』

と判示されています。


 こう読んできますと、本件は、均等論を取り扱った判決ですが、均等論とは別に、明細書を記載する上で、とても重要な、基本的なことを示されています。


 それは、ベテランの方であれば、とても当たり前なことですが、

(1).明細書に記載された従来技術が有する課題(本発明の課題)も、特許発明の技術的範囲に影響を与える。


(2).明細書に記載された本発明の作用効果も、特許発明の技術的範囲に影響を与える。
ということです。


 なお、特許発明の技術的範囲を解釈する際、原則として明細書の記載を考慮するのか、それとも特許請求の範囲の用語の一義的に明らかでない場合のみ明細書の記載を考慮するのかについて、今回、東京地裁は後者を採用?している点(判決文または昨日の日記を参酌願います。)が個人的には他の侵害訴訟事件や特許法第1条等との関係で多少気にはなりますが、結果として明細書の記載を参酌して特許請求の範囲の「複数枚」の用語の意義を解釈しているので、ここではこれ以上言及しません。

 では、また明日に続きます。