●特許法第1条と「人工乳首事件」(5)

 また、特許発明1の実施例として、フラッシュ無しのフィルム式カメラではなく、構成D(特許発明2のフラッシュ2とは構成が異なるものとする。)を有するフラッシュ付きのカメラが開示されていた場合に、特許発明1の請求の範囲の構成要素が、A+Bの場合と、A+B+Dの場合とで、A+B+Cの構成要素からなる他社製品との関係は、どうなるでしょうか?


 つまり、実施例が同じで、特許請求の範囲が広い場合(A+B)と、狭い場合(A+B+D)との効力の及ぶ範囲の違いです。


 前者の場合、今まで述べてきた関係が該当し、特許発明1の技術的範囲に、文理上、A+B+Cの構成要素からなる他社製品が属する場合があります。


 後者の場合、すなわち特許発明1の構成要素がA+B+Dで、特許発明1の実施例も構成要素がA+B+Dですので、他社製品の構成要素がA+B+Cの場合、文理上は、製品2は特許発明の技術的範囲に属しません。


 しかし、この場合には、均等論の余地が有り、構成要素Dが本質的要素でなく、構成要素Dを構成要素Cに置き換えても同一の作用効果を奏し、また置き換えることが当業者であれば容易である、・・・等の均等の5条件の条件を満たせば、均等侵害になることになります。
 
 つまり、特許請求の範囲1の構成要素がA+B+Dの実施例レベルではなく、しっかりと上位概念のA+Bで記載されていれば、均等論までいかなくても文理侵害で勝負できたということです。


 そういう意味で、当たり前のことですが、我々にとり、特許法第1条等の関係で明細書にしっかりと発明を開示することも重要ですが、特許法第70条より請求の範囲の作成(クレームドラフト)をしっかりと行うこともとても重要なことです。


 なお、均等論の5条件が明示されたボールスプライン最高裁事件では、出願時に「特許請求の範囲」の記載の困難性や、新規技術公開の代償として特許を付与する特許法第1条の法目的等から均等論を設けた、と述べられていたと思いますが、特許法の各条文の解釈は、すべて特許法第1条の法目的に帰する、ということの意味を改めて再認識しました。