●「磁気媒体リーダ事件」について 

  「磁気媒体リーダ事件」(東京地裁平成10年12月22日判決)では、登録実用新案の「上記磁気ヘッドが下降位置にあるときは上記磁気ヘッドの回動を規制し、上記磁気ヘッドが媒体との摺接位置にあるときは上記磁気ヘッドを回動自在とする回動規制手段」という機能的表現の解釈が争点になった事件です。


 判決は、「実用新案登録請求の範囲に記載された考案の構成が機能的、抽象的な表現で記載されている場合において、当該機能ないし作用効果を果たし得る構成であればすべてその技術的範囲に属すると解すると、明細書に開示されていない技術思想に属する構成までもが考案の技術的範囲に属することになり、出願人が考案した範囲を超えて実用新案による保護を与える結果となりかねないが、このような結果が生じることは、実用新案権に基づく考案者の独占権は当該考案を公衆に対して開示することの代償として与えられるという実用新案の理念に反することになる。


 したがって、実用新案登録請求の範囲が右のような表現で記載されている場合には、その記載のみによって考案の技術的範囲を明らかにすることは出来ず、右記載に加えて明細書の考案の詳細な説明の記載を参酌し、そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想にもとづいて当該考案の技術的範囲を確定すべきものと解するのが相当である。ただし、このことは、考案の技術的範囲を明細書に記載された具体的な実施例に限定するものでなく、実施例としては記載されていなくとも、明細書に開示された考案の記述に関する内容から当該考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が実施し得る構成であれば、その技術的範囲に含まれるものと解すべきである。・・・


 これを本件についてみると、本件考案の構成要件Fの「回動規制手段」につき本件明細書に開示されている構成には、・・・という構成しかななく、それ以外の構成についての具体的な開示はないし、これを示唆する記載もない。したがって、本件考案の「回動規制手段」は、右のとおり本願明細書に開示された構成及び本件明細書の考案の詳細な説明野記載から当業者が実施し得る構成に限定して解釈するのが相当である。

 これに対し、被告装置の「回動規制手段」の構成は、・・・本件考案の構成要件Fの文言に形式上該当するということができる。・・・

 しかしながら、被告装置においては、・・・本件明細書に開示された構成と異なることは明らかである。また、被告の装置の構成は、本件明細書の考案の詳細な説明の欄に開示されたところの構成とは、技術思想を異にするものと解され、当業者が本件明細書の考案の詳細な説明の記載に基づいて実施し得る構成であるということもできない。以上によれば、被告装置は、本件考案の構成要件Fを充足せず、その技術的範囲に含まれるものではない、というべきである。」と判示されました。


 しかし、電気や機械の明細書では、日常、本件特許の「回動規制手段」のような機能的表現を使用して請求の範囲を作成することは結構多いですし、またイ号装置の「回動規制手段」は本件明細書に開示はされてないものの、イ号装置と本件考案とは考案の目的や効果は同じであることを考慮すれば、「コインロッカー事件」と同様、機能的表現された考案の技術的範囲を実施例に限定したこれらの判決は権利者に酷に過ぎる、という気がしており、また判決時このような意見が多数であったような気がします。