●「コインロッカー事件」について

 「コインロッカー事件」(東京地裁昭和52年7月22日判決)では、考案の請求の範囲は、「鍵の挿入または抜き取りにより硬貨投入口を開閉する遮蔽を設けたことを特徴とする貸ロッカーの硬貨投入口開閉装置」でありました。
 そして明細書には、キーの挿脱によりクランク機構が動作して硬貨投入口を遮蔽板が移動して開閉する実施例のみであり、キーの挿脱によりカム機構が動作して遮蔽板を回転させて開閉するイ号コインロッカーがその請求の範囲に含まれるのか問題になりました。
 東京地裁は、特許法概説にも掲載されており、「本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載されているところは、鍵の挿入又は抜き取りにより、貸しロッカーの硬貨投入口を開閉する装置を構成する課題の提示のみであるというべきである。すなわち、右各手段についての表現は,抽象的であり、右各手段が具体的にいかなる中間的機構を有すれば、鍵の挿入または抜取りという動作と遮蔽板の作動という動作をとを連動させることができるかについては、登録請求の範囲のみによっては知ることができないから、右のような抽象的な記載をもって、何ら右課題の解決を示したものということはできない…。本件考案は、その明細書の右のような抽象的な実用新案登録請求の範囲の記載のみによっては、とうてい、その技術的範囲を定めることは出来ないと言うべきである。そこで、本件考案の技術的範囲を定めるためには、右明細書の考案の詳細な説明の項及び図面の記載に従い、その記載の通りの内容のものとして、限定して解さなければならない。」と判示し、イ号装置は、本件考案の技術的範囲に属さないとした事件です。
 「アイスクリーム充填苺」事件では、本発明の目的・効果や先行技術等から実施例記載の寒天等を必須構成要件とみなして非侵害と判断しているので、この非侵害の判断には賛成できますが、この「コインロッカ事件」では、本発明の目的・効果や当時の技術水準等からすればその技術範囲にイ号装置のカム機構も含まれ侵害という見解が多数であり、私もこの侵害の見解の方に賛成です。