●平成25(ネ)10081 特許権使用差止等請求控訴事件「法面等の加工機

 本日は、『平成25(ネ)10081 特許権使用差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「法面等の加工機械」平成26年2月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140220104305.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権使用差止等請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、構成要件Hの「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」の意味についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 設樂一、裁判官 西理香、裁判官 田中正哉)


『2 構成要件Hの「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」の意味について


(1) 証拠(甲6,8,乙19)によれば,次の事実が認められる。


ア 本件無効審判の被請求人(本件特許権者)であるAは,本件訂正前の本件特許の請求項2記載の「車体を支持するワイヤーを巻き取る一対のウインチ」の部分を,「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」と減縮訂正するなど,本件訂正をした。


イ 本件審決は,本件訂正を認めた上で,「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」との記載が不明確であるとする被控訴人ノーベルの主張について,同記載は,「一対のウインチ」が「該車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」のに適した構造を有しているという限度で理解でき,不明確であるとはいえないと判断した。


ウ Aは,本件審決取消訴訟において,本件審決の上記判断には誤りがあるとする被控訴人ノーベルの主張に対し,本件審決の上記判断部分を引用して,「本件発明の『車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ』」との構成は,『一対のウインチ』が『車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る』のに適した構造を有しているという限度で理解することができるから,ウインチの向き等が具体的に定められていないからといって,直ちに不明確であるということはできない。」と主張した(乙19・6頁24行目から7頁3行目)。


エ 別件判決は,本件審決の上記判断には誤りがあるとする被控訴人ノーベルの主張について,「「ウインチ」自体は周知の技術用語であり,ウインチによって「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤー」を巻き取る場合に,車体から斜めに延在するワイヤーをウインチが円滑に巻き取るためには,例えば,原告(本判決注・「被告」すなわち「A」の誤りと認められる。)が指摘するように,車体に対して逆ハの字状に配置するなど,ウインチが当該作業に適した構造を有すべきことは,当業者であれば,出願時の技術水準に照らして容易に理解することができる」と判示して,構成要件Hの「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」との記載が明確でないということはできないと判断した。当裁判所も,イ号物件は,本件発明の構成要件Hを充足せず,本件発明の技術的範囲に属しないから,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。


(2) 上記の経緯により,別件判決が確定し,被控訴人ノーベル主張の明確性違反(特許法36条6項2号)の無効理由によっては本件特許を無効とすることができないとの本件審決の判断が確定したこと,及び控訴人も,本件訴訟において,同無効理由に関し,構成要件Hについて,本件審決の上記⑴イの判断と同旨の主張をしていること(本判決が引用する原判決9頁19行目冒頭から同21行目末尾まで参照)に照らすと,構成要件Hの「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る一対のウインチ」の解釈については,本件特許権者であったAが本件審決取消訴訟において主張し,別件判決がこれに基づいて上記のとおり判示したように,ウインチ自体の構造として,「車体を支持し,かつ上方が拡開する状態で張設された一対のワイヤーのそれぞれを巻き取る」のに適した構造を有している,一対のウインチを意味するものと解するのが相当である。控訴人は,構成要件Hの「一対のウインチ」については,逆ハの字のワイヤーを巻き取る作業を行うものであれば足り,逆ハの字のワイヤーを巻き取るのに適した構造を有するものであることまでは要求していないと主張する。


 しかし,控訴人の同主張は,本件訴訟における前記無効理由に対する控訴人自身の主張とも矛盾するものであり,また,上記認定の本件無効審判と本件審決取消訴訟における本件特許権者の主張の経過や別件判決の判断内容に照らして,到底採用することはできない。


 と判示されました。