●平成25(行ケ)10045 審決取消請求事件 商標権「江戸切子」

  本日は、『平成25(行ケ)10045 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟江戸切子」平成25年9月5日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130912103905.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 中村恭、裁判官 中武由紀)は、


『1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)について

(1) 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,そのためには,まずその外観,観念,称呼の対比を基準にして需要者等に与える印象,記憶,連想等を総合し,要部が抽出できるならばそれに基づいて考察すべく,その商品又は役務の取引の実情を明らかにし得る場合には,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。


(2) 本願商標の要部について

 本願商標は,「カガミクリスタル」の片仮名文字と「江戸切子」の漢字文字とが縦書き二段に配列されてなるところ,「江戸切子」の文頭はその右上にある「カガミクリスタル」の「ミ」の位置あたりから始まり,「江戸切子」が字下げされた段違いの配列となっている。「カガミクリスタル」の文字は,「江戸切子」の文字と比較して,一文字につき高さで約2分の1,幅で約3分の1の大きさで示され,文字の太さも2分の1程度である。いずれも筆文字体であるところ,やや特徴のある字体であるため,「江戸切子」部分は,漢字で大きく示されていることや「江戸切子」製品自体が全国的に周知であること(争いがない)から,当該文字が「江戸切子」との表記であるとすぐに判読できるが,「カガミクリスタル」部分は,一見して判読が容易であるとまではいえない。そして,「切子」は,広辞苑において「(1)四角な物のかどを切り落とした形,(2)切籠灯籠の略,(3)切り子グラスの略」(甲1)とされ,「切り子グラス」について,「彫琢または切込細工を施したクリスタルガラス。きりこガラス。」(甲2)とされていることから,「江戸」と結びついて,江戸時代又は江戸地方の切り子ガラスとの観念が自然に生じるほか,東京及びその周辺地域で製作される金属や砥石の円盤を用いて表面をカットする技法により製作される伝統工芸品としての江戸切子(甲3,5)を想起するものと解される。


 以上からすると,「江戸切子」部分の文字は,「カガミクリスタル」の文字から明瞭に区別することができ,本願商標に接した需要者等は,大きく記された「江戸切子」の漢字部分を強く意識することが多いものと認められる。


 「カガミクリスタル」部分についても,後記(4)で認定するところを踏まえると,自他識別機能があることは否定し得ないが,「カガミクリスタル」の文字と「江戸切子」の間には,上記のとおりの配置や大きさ等の違いがあり,片仮名と漢字の違いもあることからして,需要者や取引者は,両者を分離して観察し,外観上,大きく注目され,かつ製品としてその名が知られていて観念上も注目される「江戸切子」文字が,一見して判読しにくい「カガミクリスタル」文字を凌駕して,取引者,需要者の注意をひく部分として本願商標の要部をなすというべきである。したがって,以下の判断においては,この要部を中心に対比するのが相当である。


(3) 本願商標と引用商標の対比

 本願商標は,前記(2)に述べた外観であるのに対し,引用商標は標準文字で示されるものであるから,前記に述べたとおり,本願商標の要部が「江戸切子」部分であることからすれば,漢字で「江戸切子」と記載されている点において共通しており,外観において共通する部分がある。


 また,称呼は,本願商標の要部である「エドキリコ」において共通し,「江戸切子」という観念についても共通する。


 さらに,本願商標の指定商品のうち「切子模様を備えるグラス,切子模様を備えるコップ類,その他の切子模様を備える食器類,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製の置物,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製の花瓶・水盤・風鈴,切子模様を備える食品保存用ガラス瓶,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製の容器,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振出し容器,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製調味料入れ,切子模様を備えるクリスタル製又はガラス製コースター」は,引用商標の指定商品と同一又は類似のものである。そして,次の(4)で認定するところを踏まえると,原告の本願商標と本件組合又はその組合員の使用する引用商標とで,いずれかが他方を凌駕して圧倒的に顕著な著名性を有するとまではいえず,取引における誤認混同のおそれが存在している。


 そうすると,本願商標と引用商標は,外観において共通する部分があり,称呼と観念を共通にする類似の商標というべきであり,また,指定商品は同一又は類似していると認められるから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。


(4) 原告は,引用商標が地域団体商標であることから,本件組合の引用商標は周知性を獲得していないとし,他方で,江戸切子が周知性を獲得する過程において,本件組合員でない原告の貢献が大きい旨主張する。この主張は,引用商標の登録要件欠如までの主張ではなく,本願商標と引用商標との類否判断における総合判断要素として考慮すべきものとの主張と理解されるので,検討を加える。


 本件組合は,大正7年に東京硝子研磨業組合として発足し,昭和30年に現名称である「東京カットグラス工業協同組合」と名称変更した団体で(乙9),平成18年に地域団体商標として引用商標の登録出願をしているところ,証拠(甲6,乙10ないし乙63)によれば,同組合は,ホームページや店舗における直販により江戸切子製品を販売し,東京及び東京以外でも開催される各種の展示会を開催し,その案内や成果が東京版に限定されず各種新聞に掲載されているほか,昭和60年に東京都の伝統工芸品指定を受け,平成14年1月に経済産業省伝統的工芸品指定を受けるなどしており,本件組合による「江戸切子」商品は周知性を有しているといえ,「江戸切子」文字自体に自他識別機能がある。


 他方で,原告が取消事由1(1)アで主張するような創業以来80年近くの伝統を有するクリスタル製品メーカーとして全国的に知られる会社であり,「カガミクリスタル」のブランドで商品展開していることは証拠上明らかである(甲7ないし56,66ないし70,73,76ないし79,89)。


 しかし,現に引用商標が地域団体商標として登録され,本件組合の商標として江戸切子が一定程度の周知性を保っていることも否定することができない以上,原告の本願商標が,要部と認めざるを得ない「江戸切子」部分において引用商標の自他識別機能を凌駕していると認めることはできないといわなければならない。原告の上記商品展開の経緯をもってしても,前記類否判断の結論は動かないといわざるを得ない。』

 と判示されました。


 尚、他の知財高裁事件では、商標法4条1項11号に係る商標の類否の判断基準について、著名な4つの最高裁判決(氷山印、リラ宝塚、SEIKOEYE、つつみのおひなっこや事件)を引用して、


『1商標の類否の判断基準について

 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)。



 しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれぞれ分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1612頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。』

 
 と判示しています。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。