●平成24(ワ)16694 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年7

  本日は、『平成24(ワ)16694 損害賠償請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年7月19日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130726101104.pdf)について取り上げます。


 本件は、損害賠償請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、争点(1)(著作権著作隣接権及び著作者人格権侵害の成否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 西村康夫、裁判官 森川さつき)、


『1争点(1)(著作権著作隣接権及び著作者人格権侵害の成否)

(1)ア著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。


 そして,当該作品等が「創作的」に表現されたものであるというためには,厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできないというべきである。


イまた,著作権侵害を主張するためには,当該作品等の全体において上記意味における表現上の創作性があるのみでは足りず,侵害を主張する部分に思想又は感情の創作的表現があり,当該部分が著作物性を有することが必要となる。


 本件において,原告らは,本件映像部分の放送により,本件ファッションショーの?個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング,?着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,?装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート,?舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,?舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け,?これら化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネート,?モデルの出演順序及び背景に流される映像に係る著作権が侵害された旨主張するものであるから,上記?〜?の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,侵害を主張する趣旨であると解される。したがって,上記?〜?の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,著作物性が認められることが必要となる。


ウ原告らがどのような権利につき侵害を主張する趣旨であるかについては明確ではない点があるが,本件番組の放送により,原告会社の著作権公衆送信権著作権法23条1項)及び著作隣接権(放送権・同法92条1項)(いずれも,原告会社が原告Aから譲渡を受けたと主張するもの。)並びに原告Aの著作者及び実演家としての氏名表示権(著作者としての氏名表示権につき同法19条1項,実演家としての氏名表示権につき同法90条の2第1項)が侵害されたと主張する趣旨であると解される。


 このうち,公衆送信権侵害が認められるためには,「その著作物について」公衆送信が行われることを要するのであるから(同法23条1項),上記公衆送信は,当該著作物の創作的表現を感得できる態様で行われていることを要するものと解するのが相当である。そして,当該著作物の創作的表現を感得できない態様で公衆送信が行われている場合には,当該著作物について公衆送信が行われていると評価することができないとともに,「その著作物の公衆への提供若しくは提示」(同法19条1項)がされているものと評価することもできないから,公衆送信権侵害及び著作者としての氏名表示権の侵害は,いずれも認められないものというべきである。


エ以上を前提に,まず,公衆送信権及び著作者としての氏名表示権の侵害の成否について検討する。


(2)公衆送信権著作権法23条1項),氏名表示権(同法19条1項)侵害の成否


ア?個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリングについて


(ア) 本件映像部分の各場面におけるモデルの化粧及び髪型は,別紙映像目録添付の各写真のとおりであり,「Iline1着目」は下ろした髪全体を後ろに流した髪型,「Anna1着目」及び「Anna2着目」は緩やかにカールを付けた髪を下ろした髪型,「Izabella2着目」は耳上の髪をまとめ,耳下の髪にカールを付けて下ろした髪型,「Tamra2着目」は全体に強めにカールを付けて下ろした髪型であり,また,いずれのモデルにも,アイシャドーやアイライン,口紅等を用いて華やかな化粧が施されているものということができる。


(イ) しかし,上記化粧及び髪型は,いずれも一般的なものというべきであり,作成者の個性が創作的に表現されているものとは認め難い。


 また,本件映像部分における各場面は,約2秒ないし9秒間のごく短いものである上,動くモデルを様々な角度から撮影したものであることから,各モデルの顔及び髪型が映る時間は極めて短いものであるということができる。これに加えて,本件映像部分は,暗い室内において,局所的に強い照明を当てながら撮影されたものであるため,本件映像部分から,各モデルの化粧及び髪型の細部を見て取ることは困難であるというべきであり,原告らが主張するような,細部におけるアイラインの引き方やまつ毛の流し方,目元,唇等における微妙な色の工夫等(甲4〜甲7)を看取することはできないものである。そうすると,仮にこれらの点に創作性が認められるとしても,本件映像部分において,上記創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものとは認められない。


(ウ)したがって,これらの点には著作物性がなく,また,仮に著作物性が認められる点があるとしても,これが本件映像部分において公衆送信されているものとは認められない。


 ・・・省略・・・



(3)小括

 以上によれば,本件ファッションショーのうち,本件映像部分に表れた点に著作物性は認められず,又は本件映像部分において,その創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものと認められないから,本件映像部分を放送することが,原告会社の著作権公衆送信権著作権法23条1項)又は原告Aの著作者人格権(氏名表示権・同法19条1項)を侵害するものとは認められない。



(4)放送権(著作権法92条1項),実演家としての氏名表示権(同法90条の2第1項)侵害の成否


放送権及び実演家としての氏名表示権侵害が認められるためには,「その実演」を放送し,又は公衆に提供・提示する場合であることを要するところ(著作権法92条1項,90条の2第1項),「実演」とは,「著作物を,演劇的に演じ,舞い,演奏し,歌い,口演し,朗詠し,又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」をいうものとされる(同法2条1項3号)。



イ原告らの主張する「実演」の内容は明確ではないが,モデルの動作,ポーズ等が実演に当たると主張するものであるとすれば,上記動作等が著作物に当たらないことは前記(2)ウのとおりであるから,モデルが上記動作やポーズを取ることは,「著作物を…演ずる」ことに当たらず,「実演」には当たらない。


 また,原告らが,本件ファッションショーを「実演」として主張するものであるとしても,原告らは,本件ファッションショーが「シティとリゾートのパーティースタイル(都会的な女性のドレスアップコーディネートとリゾートラグジュアリーパーティースタイル)」をコンセプトとするものであること,安価なブランドを用いて高級感を演出したものであること等を主張するのみで,本件ファッションショーが「実演」に当たる理由につき,前記第3の1の「原告らの主張」(1)イの?ないし?の点が著作物に当たること以外に具体的主張をするものではない。そして,本件ファッションショーのうち,上記?ないし?の点に,背景写真を除いていずれも著作物性が認められないことは前記(2)でみたとおりである。また,背景写真に著作物性が認められるとしても,その展示が「著作物を…演ずる」ことに当たるものではない。したがって,これらの点により,本件ファッションショーが「著作物を…演ずる」ものに当たるものとは認められない。


ウ本件ファッションショーの,本件映像部分に表れている部分以外の具体的内容については明らかではなく,本件各証拠及び弁論の全趣旨を総合しても,本件ファッションショーが「これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を有するもの」に当たるものとは認められない。


エ以上によれば,本件ファッションショーの一部である本件映像部分を放送することが,「その実演」を公衆に提供し,又は放送する場合に当たるものとは認められないから,本件映像部分の放送が,原告会社の放送権又は原告Aの実演家としての氏名表示権を侵害するものとは認められない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。