●平成23(ワ)10590 特許権侵害差止等請求事件「家具の脚取付構造」

 本日も、『平成23(ワ)10590 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「家具の脚取付構造」平成25年7月16日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130719154502.pdf)について取り上げます。


 本件では、構成要件Cに対応する被告製品の構成及びその構成要件充足性についての自白が成立したなどの原告の主張についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康、裁判官 西田昌吾)は、


『(4)構成要件Cに対応する被告製品の構成及びその構成要件充足性について

 自白が成立したなどの原告の主張について

 これに対し,原告は,構成要件Cに対応する被告製品の構成及びその構成要件充足性については自白が成立しており,被告らがこれを争う主張をすることは禁反言の法理に反して許されない旨主張するが,以下の理由により採用できない。


ア証拠(各項末尾に掲記),弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば,原告と被告ら間の紛争及び本件訴訟につき,以下の経過が認められる。


(ア)原告は,かねてから商品名をワンタッチテーブルとする着脱自在の脚を備えたテーブル(以下「原告製品」という。)を販売している。原告製品は,本件特許発明の構成要件A,D〜Hを充足するが,被告製品同様,テーブル本体に有底円錐台形状の嵌合突起を備え,脚部上端の被固定部に備えられた嵌合孔へ挿嵌させた際,嵌合突起の外周面と嵌合孔の内周面とは接触せず,被告製品と同程度の隙間ができる。しかし,原告は,かかる挿嵌状態も本件特許発明の「緊密に挿嵌」(構成要件C)に当たると考えており,原告製品を本件特許発明の実施品であると認識していた。


 被告ジャパンレントオールは,平成16年から平成19年にかけ,原告から原告製品を購入し,自社の賃貸事業に供していた。ところが,被告ジャパンレントオールと本店所在地及び代表取締役を同じくするジャパンイベントプロダクツ(平成19年5月21日設立)は,平成20年ころから,被告製品を販売するようになり,被告ジャパンレントオールも,原告製品ではなく,被告製品を賃貸事業で用いるようになった。被告ジャパンイベントプロダクツは,被告ジャパンレントオールの賃貸事業を通じて蓄積した知識や経験などを商品開発に活用する方針をとっており,被告製品の嵌合突起8及び嵌合孔10の形状は,原告製品の形状に依拠したものであった。
(甲6,9)


(イ)原告は,平成23年8月19日に提起した本件訴訟において,被告製品の構成を前記第3の1【原告の主張】(1)のとおり,すなわち,被告製品の有底円錐台形状の嵌合突起8を「有底短筒状の嵌合突起8」と,嵌合突起8を嵌合孔10に挿嵌させた際,嵌合突起の外周面と嵌合孔の内周面とは接触せず,隙間ができる状態であったにもかかわらず,これを「緊密に挿嵌」と表現した上,被告製品が本件特許発明の構成要件B及びCを充足する旨主張した。これに対し,被告らは,平成23年12月9日の第1回弁論準備手続期日において,被告製品につき,被告製品の有底円錐台形状の嵌合突起8を「有底短円錐筒状の下方膨出部80」と,上記挿嵌の状態を「(下方膨出部80を)緊密に挿嵌させる嵌合孔10」と特定した上,被告製品は構成要件A及びDからHまでを充足しないと主張する一方,構成要件B及びCの充足性について積極的に争う主張をしなかった。


 また,被告らは,乙1発明に基づき,本件特許発明は新規性又は進歩性を欠き,特許庁の審判において無効とされるべきものである旨の抗弁を主張した。この点,乙1発明の膨出部(5)と凹所(12)は,本件特許発明の嵌合突起8と嵌合孔10と同様,膨出部(5)が凹所(12)に挿嵌できるとはされているものの,乙1文献に,膨出部5の形状や挿嵌時の状態を限定する記載はなかった。しかし,原告は,被告らの乙1発明に基づく無効論への反論として,構成要件E及び構成要件Hが相違し,かつ,当該相違点に係る構成が当業者にとって容易想到でない旨の主張をする一方,「有底短筒状の嵌合突起8」(構成要件B)及び「緊密に挿嵌」(構成要件C)について相違しているとは主張しなかった。また,被告らは,乙2発明や乙3発明に基づく無効論も展開したが,やはりいずれの当事者からも,「有底短筒状の嵌合突起8」(構成要件B)及び「緊密に挿嵌」(構成要件C)が相違点として主張されることはなかった。


 このように本件訴訟は,属否論においても,無効論においても,「有底短筒状の嵌合突起8」(構成要件B)及び「緊密に挿嵌」(構成要件C)が明示的な争点となることのないまま,平成24年7月9日,損害論の審理をすることなく口頭弁論が終結され,同年9月13日に判決言渡期日が指定された。(甲12,乙1)


(ウ)被告ジャパンレントオールは,本件訴訟と平行して,平成23年12月23日,特許庁に本件特許発明の無効審判を請求したところ,特許庁は,平成24年8月14日付けの審決において,本件特許発明と乙1発明との対比において,本件特許発明の嵌合突起が「有底短筒状」であり,嵌合孔が「嵌合突起8を緊密に挿嵌させる」ものであり,スリットの伸びる方向が「筒の径方向」であるのに対し,乙1発明は嵌合突起が「短筒状」でなく,嵌合孔が「嵌合突起を緊密に挿嵌させる」ものでない点を相違点1と認定した(原告は,同手続において,これを相違点と主張していたわけではなかった。)。そして,特許庁は,他に認定した相違点に係る構成に到達することは当業者が容易に想到し得たとする一方,相違点1に係る構成については,乙1発明の膨出部(5)(本件特許発明の「嵌合突起8」に相当)と凹所12(本件特許発明の「嵌合孔10」に相当)が,支脚(3)の回転を支障なくするための機能を要求されておらず,他にも両者が相互に「緊密に挿嵌させる」ことを示唆する記載は乙1文献になく,他の刊行物にもその旨の示唆はないことから,当業者が到達することは容易ではないとし,相違点1を根拠として,乙1発明に基づく容易想到性の主張を排斥した。この審決は,被告ジャパンレントオールによる他の無効理由の主張も排斥し,無効審判請求不成立を結論とするものであった。(甲12)


(エ)当裁判所は,原告から特許庁の上記審決の写しが提出され,弁論再開の申出があったことを踏まえ,平成24年9月13日,弁論を再開した。原告は,弁論再開後の同年11月13日の第6回弁論準備手続期日において,上記審決において認定された相違点1を,本件特許発明と乙1発明との相違点として初めて主張し,当該相違点に係る構成が容易想到でない理由についても,上記審決の判断を援用した。


 これに対し,被告らは,平成24年12月13日の第7回弁論準備手続期日において,上記相違点1が,本件特許発明と乙1発明との相違点であることを争い,また,仮に相違していても,設計事項に過ぎず,当業者であれば容易に想到できる旨主張すると共に,原告の新たな主張は,「緊密に挿嵌」を,嵌合突起8が嵌合孔10に挿嵌された際,被固定部5の上面と内側面が,固定部4に緊密に接触していることを意味すると解するものであるが,そうであれば,被告製品は「緊密に挿嵌」を充足しない旨主張した(原告が「緊密に挿嵌」の解釈について,属否論と無効論とで異なる主張をすることは禁反言の法理から許されないとも主張した。)。


 その後,原告は,同年5月24日の第10回弁論準備手続期日において,「緊密に挿嵌」の解釈及び被告製品の充足性について主張を追加すると共に,被告製品が「緊密に挿嵌」の構成を備えていることには自白が成立し,構成要件B及びCを充足することも争いがなかったのであり,被告らがこれと矛盾する主張をすることは禁反言の法理から許されない旨主張するに至った。


イ検討

 原告は,被告製品の構成について,原告が被告製品の構成を前記第3の1【原告の主張】(1)のとおりに主張したのに対し,被告らも構成要件Cに対応する構成として「(下方膨出部80を)緊密に挿嵌させる嵌合孔10」と主張し,構成要件Cの充足性を争わなかったのであるから,被告製品が「緊密に挿嵌」との構成を備えていることには自白が成立している上,構成要件Cを充足することも争いがなかったのであり,これを後日争うことは禁反言の法理に反して許されない旨主張する。


 しかし,自白(民事訴訟法179条)は,具体的な事実について成立するものであり,ある事実を前提とした抽象的な評価について成立するものではない。この点,被告製品の構成に係る原告及び被告らの主張に係る「緊密に挿嵌」との文言は,嵌合突起8(下方膨出部80)を嵌合孔10に挿嵌させたときの状態を評価したものであり,事実そのものではない。


 また,前記ア認定の事実経過からしても,原告は,本件訴訟において,被告製品が原告製品と同様,有底短円錐状の嵌合突起8を嵌合孔10に挿嵌させた際,嵌合突起の外周面と嵌合孔の内周面とは接触せず,隙間ができることを念頭に置きつつ,このような状態も「緊密に挿嵌」に該当するとの認識のもと,被告製品の構成について「緊密に挿嵌」との文言を用いて特定したのに対し,被告らも,原告製品に依拠した形状を備える被告製品を販売等してきた経過もあり,原告と同一の認識のもとで,上記状態を「緊密に挿嵌」と表現したものといえるから,やはり「緊密に挿嵌」は事実そのものを摘示したというより,上記のような物理的な状態を評価したものである。そのため,かかる抽象的な評価の前提となっている嵌合突起8や嵌合孔10の形状等の事実関係について自白が成立したと見る余地はあるものの,挿嵌時の状態が「緊密に挿嵌」と表現されるべきものとの点について自白が成立したとはいえないし,ましてや構成要件Cの一部である「緊密に挿嵌」を充足するとの点について自白が成立したともいえない。


 また,原告の主張は,被告らが弁論再開前には争っていなかった「緊密に挿嵌」(構成要件C)の充足性を争うことにつき,自白の成否にかかわらず,禁反言の法理に反して許されない趣旨とも考えられるが,この主張も採用できない。すなわち,被告らは,弁論再開前において,構成要件Cの充足性を積極的に争う主張をしなかったとはいえ,その充足性を明示的に認めていたわけではないから,これを後日争ったとしても矛盾した主張をしたとは言い難い。


 加えて,原告は,当初「緊密に挿嵌」の解釈について,嵌合突起の外周面と嵌合孔の内周面との接触の有無及び程度を特段限定するものではないことを前提とした主張をしていたが,弁論再開後においては,本件特許発明が進歩性を欠くとの判断を回避するため,「緊密に挿嵌」の意義を限定的に解釈するに至ったものである。つまり,被告らが「緊密に挿嵌」の充足性を積極的に争うに至ったのは,「緊密に挿嵌」の解釈に関し,原告が従前の主張と異なる新しい主張をしたためであり,十分に合理的な事情があったといえるから,被告らにおいて,禁反言の法理など信義則に反する訴訟活動を行ったとはいえない。


 したがって,被告製品の構成及び構成要件Cの充足性に係る被告らの主張は,そもそも事実に係る自白を撤回するものではなく,禁反言の法理など信義則に反するものでもなく,この点に関する原告の主張は採用できない。


(5)小括

 したがって,被告製品は,本件特許発明の技術的範囲に属するとは認められない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。