●平成24(ワ)13494 著作者人格権等侵害行為差止等請求事件 著作権

 本日は、『平成24(ワ)13494 著作者人格権等侵害行為差止等請求事件 著作権 民事訴訟 平成25年6月28日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130708153731.pdf)について取り上げます。


 本件は、著作者人格権等侵害行為差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、まず、争点(1)(原告各文書の著作物性)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(所民事第29部 裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 小川雅敏、裁判官 森川さつき)は、


『1争点(1)(原告各文書の著作物性)

(1)著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。


 そして,当該作品等が「創作的」に表現されたものであるというためには,厳密な意味で作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,当該作品の性質等に照らし,その表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできないというべきである。


(2)以上を前提に,原告各文書の著作物性について検討する。

ア原告文書1

(ア)前記前提事実(2)アのとおり,原告文書1は,原告が,南洋株式会社(通知人)の代理人として,平成23年10月4日,被告Y1に宛てて送付した通知書であり,表題,日付等の記載の後に,通知人の代理人として通知を行う旨及び被告Y1の作成するブログ内に通知人に関し事実に反する内容の記事が掲載されている旨を記載し,上記記事のURLを表示し,さらに,上記記事の内容が事実に反し通知人の名誉・信用を著しく害し多大な損害が発生しているものである旨,上記記事の削除を求め,削除に応じない場合には仮処分申立てや損害賠償請求等の必要な法的措置をとらざるを得ない旨,以後問合せは通知人本人ではなく通知人代理人にされたい旨を記載したものである。


 上記原告文書1の本文部分は,上記URLの表示部分を含めても17行,URLの表示部分を除けば13行からなるものである。


(イ)原告文書1は,上記のとおり,前提となる事実関係を簡潔に摘示した上で,これに対する法的評価及び請求の内容等を短い表現で記載したものにすぎない。原告文書1の体裁,記載内容,記載順序,文章表現は,いずれも内容証明郵便による通知書として一般的にみられるものであり,ありふれたものというべきであるから,原告文書1において何らかの思想又は感情が表現されているとしても,上記思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められない。


 この点,原告は,原告文書1は,用語や言い回しを厳選し,最も適切な表現を慎重に吟味して作成されたものであり,作成者の個性が表れていると主張するが,原告の主張するような点を原告文書1から表現として感得することはできず,上記主張を採用することはできない。


(ウ)したがって,原告文書1に著作物性は認められない。


イ原告文書2について


(ア)前記前提事実(2)イのとおり,原告文書2は,原告が東京行政書士会会長宛てに提出した平成23年10月17日付けの苦情申告書であり,A4版5ページからなる文書である。原告文書2は,表題,日付等の記載の後に,苦情の趣旨及び苦情の理由を記載し,さらに「第3最後に」として,「申告者は,…多くの行政書士の方々が本当に真摯に依頼者のために業務に取り組まれていることをよく存じあげております。そのような中で,本件の苦情対象行政書士のごとく,行政書士法違反の非違行為を行う行政書士がごく少数でも存在することは,行政書士全体の社会的信用を貶めるものであり,適正に業務をされておられる大多数の行政書士の方々にも多大な悪影響を及ぼすものであると思います。」などと記載し,東京行政書士会に調査,対応を求める旨と,状況の改善がない場合には対象行政書士東京都知事に対する懲戒を申し立てる所存である旨などを記載したものである。


(イ)原告文書2は,上記のとおり,行政書士会に対する苦情申告書であり,その文書の性質上,当然に記載すべき項目(日付,申告者等の形式的記載事項や,申告すべき苦情の内容,事実関係の記載,上記事実関係の法的評価,非違行為に該当する考える理由等)を含むものであるということができる。


 しかし,苦情の内容,事実関係,その法的評価等に関する点については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,これらをどのような順序で,どのような表現により,どの程度記載するかについては,様々な可能性があるものというべきである。そうすると,原告文書2は,上記のとおり表現について様々な可能性がある中で,記載の順序や内容,文章表現を工夫したものということができるのであって,このような点に,作成者の個性の表出がみられるものというべきであり,思想又は感情を創作的に表現したものに当たるということができる。


(ウ)したがって,原告文書2には著作物性が認められる。


ウ原告文書3


(ア)前記前提事実(2)ウのとおり,原告文書3は,被告Y1が東京弁護士会に対し請求した原告の懲戒請求につき,原告が,平成23年11月16日,東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出した答弁書であり,事件番号,表題,日付等の形式的記載事項の表示の後に,請求の趣旨に対する答弁,懲戒請求に至る経緯及び理由に対する認否,被調査人(原告)の主張を記載したものである。被調査人(原告)の主張においては,同人が作成した「かなめくじ」に関するブログ記事が,請求者(被告Y1)の事務所(「かなめ行政書士事務所」)を指したものではないことなどを示す事情として,「かなめくじ」というキャラクターを制作した経緯(「かなめくじ」とは有機物的な気色悪いキャラクターであり,これを「くそキモキャラ」と呼ぶこと,「かなめくじ」とは,「蚊」と「なめくじ」を合体させたものであること,人に嫌悪感をもよおす生き物のうちから,制作が容易でシンプルなデザインであり,かつ,グッズ化に向きやすい形状・性質のものであって,動作や動きの再現が容易であるなどの条件を満たすものとして,軟体動物をモチーフに選んだ上で,これに蚊の羽を合体させることにしたこと,「蚊」と種々の軟体動物の名称を組み合わせてみた結果,語感の響き等から「かなめくじ」を選ぶに至ったことなど)が詳細に記載されている。


(イ)原告文書3は,上記のとおり,懲戒請求手続において東京弁護士会綱紀委員会宛てに提出された答弁書であり,その文書の性質上,当然に記載すべき項目(表題,日付等の形式的記載事項や,懲戒請求理由に対する認否等)を含むものであるということができる。


 しかし,これらのうち,懲戒請求に至る経緯及び理由に対する認否,被調査人(原告)の主張については,記載すべき内容が形式的かつ一律に定まるものではなく,どのような順序で,どのような表現により,どの程度記載するかにつき様々な可能性があり得ることは原告文書2と同様であるところ,原告文書3は,これらの点について工夫がみられ,特に被調査人(原告)の主張の内容及び表現はこの種文書において一般的なものとはいい難いものというべきである。そうすると,原告文書3には,作成者の個性が表現として表れているものとみることができる。


(ウ)したがって,原告文書3は思想又は感情を創作的に表現したものに当たり,著作物性が認められる。


(3)小括

 以上のとおり,原告文書1には著作物性が認められないから,原告文書1に係る原告の請求(被告各ブログにおける原告文書1を掲載して使用することの差止請求及び損害賠償請求)については,その余の点について検討するまでもなく理由がない。


 したがって,原告文書2及び3についてのみ,以下の争点につき検討する。』

 と判示されました。