●平成24(行ケ)10449 審決取消請求事件 意匠権「遊技用表示装置」

 本日も、『平成24(行ケ)10449 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟「遊技用表示装置」平成25年6月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130702085301.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消事由3(創作容易性判断の誤り)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 中村恭、裁判官 中武由紀)は、


『3 取消事由3(創作容易性判断の誤り)について


(1) 意匠部分の位置等につき

 審決は,本件登録意匠部分の位置を「発光部が視認できるように構成された正面側のカバー部分として、遊技機用表示灯の正面上方の広範囲を占める部分」と認定した上で,「発光部を遊技機用表示灯の観察されやすい位置に設けることは当然のことで、例えば、甲1意匠、甲2意匠及び甲5意匠に見られるように、この物品分野において従来より普通に行われていることであるから、本件登録意匠の部分を、発光体正面の大部分を占める大きさ及び範囲のものとして遊技機用表示灯の正面やや上寄りの位置に設けたことに特段の創作はない。」とした。これに対して,原告は,審決が本件登録意匠部分と上記各引用意匠との用途及び機能の差異を見誤り,位置等の創作性を否定したことに誤りがある旨を主張する。


 しかしながら,遊技機用表示灯の発光部を遊技機表示灯の観察されやすい位置に設けることは審決が例示する各引用意匠を待つまでもなく自明なことであり,審決がそれら意匠を引用したのは念のためのことである。その上,審決は,発光により伝達されるのが文字,数字等若しくはイルミネーション表示であるかそれ以外であるかはともかく,発光表示機能を有する部位を遊技機用表示灯の観察されやすい位置に設けられている例の限りで甲1意匠,甲2意匠及び甲5意匠を引用したものであるところ,観察されやすい位置がどこであるかはその発光表示されるものが数値等のデータ若しくはイルミネーションであるかそれ以外のものであるかに左右されるものではなく,これら意匠の引用に不適当な点はない。そして,発光部の位置等が定まればそのカバーの位置等もそれに応じて自然と導かれるのであるから,発光部を観察されやすい位置に設けることを遊技機表示灯の物品分野において普通に行われていることと認定した上で,観察されやすいとの観点から遊技機用表示灯における本件登録意匠部分の位置等に創作性がないとした趣旨の審決に誤りはない。


 以上から,原告の上記主張は理由がない。


(2) 物品の共通性につき

 原告は,?機能,?形態及び?転用可能性の点からみて,甲3意匠の表示面と本件登録意匠部分,又は,甲3意匠と本件登録意匠部分に係る遊技機用表示灯は物品を共通にしない旨を主張する。


ア ?機能の点について

 原告は,アナログ表示装置である甲3意匠の表示面(71)のカラーレンズ(74)は点灯機能を有するランプ(73)のカバーであるのに対し,本件登録意匠部分は,データやイルミネーション演出機能を有する遊技機用表示灯のカバーであり両者の機能が異なる趣旨の主張をしていると解される。


 しかしながら,表示部に表示されるものが数値等のデータ若しくはイルミネーションであるかそれ以外であるかが,遊技機用表示灯という物品分野における表示部が有すべき用途又は機能に変更をもたらすものではなく,その関係でそのカバーに対する用途又は機能にも変更をもたらすものではない。のみならず,甲3意匠に係る公報に「【0054】・・・・・アナログ表示部51は、・・・・・取付面72に対して所定の傾斜をもって2つの表示面71が設けられている。2つの表示面71には、それぞれ4つずつランプ73が配置されており、各ランプ73は長方形のカラーレンズ74に覆われている。カラーレンズ74は色付きの透明なプラスチック樹脂でできたものである。・・・・・【0055】・・・・・たとえば遊技者の持点が1000点に達した場合に図6の実線で示す2つのランプ73を点灯表示させるための表示制御信号がアナログ表示部51に入力される。これにより、実線で示す2つのランプ73が点灯状態となる。さらに遊技者の持点が、たとえば2000点,3000点,…に達するごとに、図6の矢印に示す方向で左右の表示面71においてランプ73が1つずつ点灯状態となる。」との記載があり,甲3意匠と本件登録意匠部分に係る遊技機用表示灯の用途及び機能は情報表示という面で同等である。したがって,両者が用途又は機能の点において物品の共通性が失われることはない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。


イ ?形態の点について

 原告は,甲3意匠に係る表示装置と本件登録意匠部分に係る遊技機用表示灯の形態が異なる旨を主張する。


 しかしながら,形態を対比すべきなのは,甲3意匠に係る表示面(71)と本件登録意匠部分であるところ,原告の主張は,単に,甲3意匠における表示装置の部分と本件登録意匠部分における表示装置のみを対比し,両者の形態が異なるというものである。審決が甲3意匠と対比して本件登録意匠部分の形態についての創作容易性を判断した手法に誤りはない。


 したがって,原告の上記主張は理由がない。


ウ ?転用可能性の点について

 原告は,甲3意匠に係る表示装置と本件登録意匠部分に係る遊技機用表示灯が転用可能性の点において異なる旨を主張する。


 しかしながら,意匠とは,物品の形状等であって,視覚を通じて美感を起こさせるものであって(意匠法2条1項),その用途又は機能もその美感に影響するか否かの限度で参酌されるにすぎないものであるところ,物品が独立の部品として転用可能であるか否かは物品の美感に影響しないものであり,転用の可否により物品の共通性が失われることはない。 
 

 したがって,原告の上記主張は理由がない。


以上のとおりであるから,原告の上記各主張は,いずれも理由がない。


(3) 創作性判断手法について

 原告は,審決が本件登録意匠部分の個々の部分を分断してそれぞれに創作性を判断した誤りがある旨を主張する。


 しかしながら,全体的な創作性を判断するに当たり,まず部分の構成の創作性を判断する分析的手法をとることは当然にされるべきことであって,この点に係る原告の主張は失当である。


 確かに,意匠は,部分的な構成が他の構成部分と有機的に結合して全体的に美感を生み出すものであるところ,創作性のないありふれた態様のみをまとめあげたものが,その構成部分との組み合わせや関連において全体として新規な美感を形成する場合もあり得る。


 しかしながら,審決は,構成【A】〜【E】の個々の創作性の有無等の判断を踏まえた上で,本件登録意匠部分の全体の創作性の判断を加え,なお創作容易性が認められると判断したのであり(審決7頁9〜14行目),原告の上記主張は,審決を正解しないものであり,失当である。



(4) 創作容易性について

 原告は,本件登録意匠部分は,従来例の遊技機用表示装置の表示面に左右の視認可能性の向上を図る創作をしたのであり,創作容易性はない旨を主張する。


 ・・・省略・・・


 したがって,本件登録意匠部分と甲3意匠の表示面(71)とは,その視認可能性という面において用途又は機能を同じくするものというほかない。審決が本件登録意匠部分を甲3意匠の表示面(71)の形状を基にわずかな微差が加えられたものとして創作容易性を認めた点に誤りはない。


 原告の上記主張は理由がない。


(5) 小括

 以上のほか原告が主張する点も,審決の認定判断を誤りとするに足りない。

 よって,取消事由3は理由がない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。