●平成24(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権「斑点防止方法」

 本日は、『平成24(行ケ)10335 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「斑点防止方法」平成25年6月6日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130607092913.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、相違点1及び相違点2の判断についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 新谷貴昭)は、


『3相違点1及び相違点2の判断について


(1)補正発明は,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する方法に関するもので,本願明細書の記載によれば,炭酸カルシウムが存在する製紙工程では,抄紙系,原料系,回収系に付着した微量スライムが炭酸カルシウムを凝集させ,紙に炭酸カルシウムを主体とする斑点が発生する(甲7【0003】【0008】)が,その斑点の発生を防止するために,原料系と回収系の双方の製紙工程水に,塩素系酸化剤とアンモニウム塩との反応物を添加するものである。それにより,微量スライムを除去し,系内全体にわたってスライムの付着を防止することで,微量スライムによる炭酸カルシウムの凝集を防ぎ,炭酸カルシウムを主体とする斑点の発生を防止することができる(【0009】)というものである。


 上記の斑点は,炭酸カルシウムを主体とするものであり,本願明細書の記載によれば,ニンヒドリン反応では陰性を示すもの(【0008】)であり,従来の炭酸カルシウムスケール防止剤やスライムコントロール剤では,その濃度を高くしたとしても十分に防止できないもの(【0004】【0010】表1)と認められる。


(2)上記2のとおり,引用発明は,パルプスラリー(製紙工程水)の濃原液における微生物を殺害し,生物汚染を阻害するための方法に関するもので,パルプスラリーの濃原液に,次亜塩素酸ナトリウム及び臭化アンモニウムを混合した混合物を添加することにより,微生物を殺害し,生物汚染を阻害するというものである。


 補正発明と引用発明とは,製紙工程水に,塩素系酸化剤とアンモニウム塩との反応物を添加する点で共通するものである。


 しかし,引用発明は,パルプスラリーの濃原液における微生物を殺害し,生物汚染を阻害するものであり,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止するものではない。


 刊行物1には,循環水における微生物の増殖は,紙シートの欠陥を引き起こすこと(【0002】【0003】)が記載されているが,その具体的な内容は明らかではなく,刊行物1の実施例の例6(【0039】〜【0041】,表6)においても,パルプスラリーの濃原液に各種の薬剤(生物殺生剤)を添加した場合における,微生物の生存計数が示されるのみである。刊行物1には,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,微量スライムが炭酸カルシウムを凝集させることにより,紙に炭酸カルシウムを主体とする斑点が発生すること,また,製紙工程水に上記一致する反応物を添加することにより,このような斑点を防止できることについては記載も示唆もない。したがって,刊行物1は,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止することを動機づけるものではない。


(3)甲2,3(周知例1,2)によれば,?填料としての炭酸カルシウム及び/又は古紙由来の炭酸カルシウムが存在する製紙工程は周知のものと認められ,また,?炭酸カルシウムが存在する製紙工程では,微生物が繁殖しやすいこと,?微生物の繁殖により,微生物を主体とし填料等を含むスライムデポジットが生成され,紙に斑点が発生する等の問題を生じること,?このような問題を防止するために,製紙工程水にスライムコントロール剤を添加し,微生物の繁殖を抑制し又は殺菌することは,いずれも周知の事項と認められる。


 しかし,上記の斑点は,微生物を主体とするスライムデポジットによるものであり,ニンヒドリン反応では陽性を示すもの(本願明細書【0008】,甲19)と考えられる。また,補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点が,従来のスライムコントロール剤では,その濃度を高くしたとしても十分に防止できず,上記反応物によれば防止できるものであることも考慮すれば,上記の斑点は,填料を含むものではあるものの,補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点とは異なるものと認めるのが相当である。


 周知例1,2にも,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,微量スライムが炭酸カルシウムを凝集させることにより,紙に炭酸カルシウムを主体とする斑点が発生すること,また,製紙工程水に上記反応物を添加することにより,このような斑点を防止できることについては記載も示唆もない。周知例1,2も,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止することを動機づけるものではない。


 以上のとおり,周知例1,2には,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,製紙工程水に上記反応物を添加することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止できることについて記載も示唆もない以上,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施することにより,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する動機づけは認められない。


(4)被告は,刊行物1には,引用発明における薬剤は,他の従来のスライムコントロール剤に比して,優れた殺生物力を有していることが記載されており,引用発明に炭酸カルシウムが存在する周知の製紙工程を適用すれば,微生物に起因するスライムの発生を効果的に抑制でき,結果として,炭酸カルシウムが取り込まれたスライムデポジットによる斑点の発生も効果的に防止できることは,刊行物1の記載に基づいて当業者が予期し得ることであるから,補正発明の効果は,当業者が予期し得ない格別顕著なものとはいえないと主張する。


 しかし,補正発明の効果は,本願明細書の記載によれば,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を効果的に防止して,高品質の紙を歩留り良く製造することができる(【0017】)ことと認められるところ,上記(3)のとおり,炭酸カルシウムを主体とする斑点と,スライムデポジットによる斑点とは,異なるものである。被告の主張は,炭酸カルシウムを主体とする斑点が,スライムデポジットによる斑点と同じものであることを前提とするものであり,前提において失当である。


 また,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,微量スライムが炭酸カルシウムを凝集させることにより,紙に炭酸カルシウムを主体とする斑点が発生することは,いずれの証拠にも記載も示唆もない。補正発明における炭酸カルシウムを主体とする斑点は,そもそも,その存在自体が知られておらず,また,その発生に微量スライムが関与していることも知られていない以上,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を効果的に防止して,高品質の紙を歩留り良く製造することができるという補正発明の効果は,当業者といえども予測できないものであることは明らかである。


(5)そうすると,引用発明に係る方法を,炭酸カルシウムが存在する製紙工程において実施し,紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する方法とすること,すなわち,引用発明において,「填料としての炭酸カルシウム及び/又は古紙由来の炭酸カルシウムが存在する製紙工程において」と特定するとともに(相違点1),「紙に発生する炭酸カルシウムを主体とする斑点を防止する方法において」及び「斑点防止方法」と特定すること(相違点2)は,当業者が容易に想到することとはいえない。


4小括

 以上によれば,「補正発明は,引用発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。」との審決の判断には誤りがある。取消事由1には理由があり,取消事由2も理由がある。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。