●平成24(行ケ)10262 審決取消請求事件 特許権「ガラス溶融物を形

 本日は、『平成24(行ケ)10262 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ガラス溶融物を形成する方法」平成25年3月21日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130326101424.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容され、拒絶審決が取り消された事案です。


 本件では、取消事由2(対比・判断の誤り:純化段階温度)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 古谷健二郎)は、


『2 取消事由2(対比・判断の誤り:純化段階温度)について


 審決による本願発明と引用発明との間の一致点の認定に誤りがないことは上記のとおりであり,これによれば,本願発明と引用発明はいずれも,溶融段階,純化(清澄)段階,均質化段階を有するガラス溶融物を形成する方法に関するもので,技術分野が共通するものであり,また,溶融物が1700℃を超える温度に加熱され,純化(清澄)段階における温度が1850℃である点でも共通するものといえる。


 しかし,本願発明の解決しようとする課題は,ガラスを溶融し,純化しかつ均質化する方法を,白金からなる構成部分を使用する場合でも酸素リボイルが防止されるように構成することである(本願明細書である本件出願の公開特許公報(甲7)【0004】)のに対して,引用発明の解決しようとする課題は,溶解に高温度(特に1700℃以上)を要するガラスを,不純物や泡・異物等の無い高品質なガラスとして製造する技術を提供することであり(甲1【0006】),本願発明と引用発明とでは,解決しようとする課題が相違する。


 また,引用発明は,上記のとおり,粗溶解したガラスを高周波誘導直接加熱により直接加熱して,溶解・均質化・清澄するものであるが,清澄は,ガラス中に発生する誘導電流に伴う強制対流混合によりなされるものであり(甲1【0013】),一種の物理的清澄と解される(乙4)。引用文献1には,溶融ガラスに清澄剤を添加して清澄ガスを発生させて清澄すること,すなわち化学的清澄(甲4,乙4)については記載も示唆もない。引用文献1は,物理的清澄を行う引用発明において化学的清澄を併用する動機付けがあることを示すものとはいえない。


 また,引用発明は,1850℃で清澄が行われるものであるが,以下のとおり,このような高温において化学的清澄を行うことが通常のこととはいえず,また,このような高温で使用できる清澄剤が知られているともいえない。


 引用文献4には,清澄剤としてFe2O3,SnO2等を用いることが記載されているが(【0012】,【0013】),清澄は1200〜1500℃で行われている(【0018】)。


 特開平11−21147号公報(甲5)には,清澄剤としてFe2O3等を用いることが記載され,1600℃を超える温度でも清澄剤としての効果が発揮されることが示唆されているといえるが(【0013】〜【0015】),それでも高々1600℃を超える温度であり,実施例では1600℃で溶融しているにすぎない。特開平10−45422号公報(甲6)には,清澄剤としてFe2O3,SnO2等を用いることが記載され(【0025】),処理の対象となる無アルカリガラスは,粘度が102ポイズ以下となる温度が1770℃以下であることが記載されている(【0029】)ものの,実施例では1500〜1600℃で溶解しているにすぎない。


 また,甲4〜6に記載の各清澄剤が,1850℃での清澄においても清澄剤として使用できることが当業者にとって自明のことともいえない。


 以上のとおり,1850℃という高温において化学的清澄を行うことが通常のこととはいえず,また,このような高温で使用できる清澄剤が知られているともいえない以上,1850℃という高温において物理的清澄が行われる引用発明において,化学的清澄を併用する動機付けがあるとはいえない。


 以上のとおりであるから,引用発明において,引用文献4に記載されるFe2O3,SnO2等を清澄剤として用いる化学的清澄を併用して,「溶融物内に少なくとも0.5重量%の割合を有する高い電子価段階を持つ多価のイオンが存在する」ものとすることは,当業者が容易に想到し得ることとはいえない。


 被告は,溶融ガラスを清澄する際に,清澄剤を添加することは化学的清澄として当業者にとって周知であり,物理的清澄と化学的清澄とは相乗的効果が期待できることから,1850℃で物理的清澄を行う引用発明において,清澄剤として引用文献4の「Fe2O3」を0.01〜2.0重量%添加して化学的清澄を行うことは,当業者が容易になし得ることであると主張する。


 しかし,化学的清澄が当業者にとって周知であるとしても,上記のとおり,1850℃という高温において化学的清澄を行うことが通常のこととはいえず,また,このような高温で使用できる清澄剤が知られているともいえない以上,1850℃という高温において物理的清澄が行われる引用発明において,化学的清澄方法を併用する動機付けがあるとはいえない。


 以上の趣旨で,原告主張の取消事由2には理由がある。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。