●平成24(行ケ)10052 審決取消請求事件 特許権「光沢黒色系の包装

 本日は、『平成24(行ケ)10052 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「光沢黒色系の包装用容器」平成25年1月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130205092315.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の無効審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、サポート要件及び実施可能要件についての判断が参考になるかと思います。


 特に、数日前(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20130205)に取り上げた、実施可能要件を充足していると判断された『平成24(行ケ)10020 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「発光装置」平成25年1月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130201142246.pdf)と比較すると面白いのではないかとも思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、裁判官 古谷健二郎)は、


『審決は,第1次判決の拘束力が及ばない構成に関するサポート要件及び実施可能要件の充足性の有無を判断したので,この判断の違法をいう取消事由1について検討する。

1 本件明細書(甲1)には,本件発明1及び2の課題や昇温結晶化温度及び結晶化熱量に関して,次の記載がある。


 ・・・省略・・・


2 本件発明2の特許請求の範囲において,昇温結晶化温度が128度以上,かつ,結晶化熱量が20mJ/mg以上という数値範囲は,いずれもシート層,すなわち,容器成形前の状態における物性値を規定したものと認められる。これに対し,本件明細書においては,上記1で認定したとおり,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値は,いずれも容器成形後の容器切り出し片を対象として測定されたものであり,明細書において,特許請求の範囲に記載された容器成形前のシート層に関する記載は認められない。



 このように,本件明細書には,昇温結晶化温度及び結晶化熱量について,特許請求の範囲に記載された「シート層」の数値範囲を満たすことによって課題の解決が可能であることを示す直接的な実施例等の記載がなく,これとは異なる測定対象に係る数値しか記載されていないところ,本件明細書の比較例2(上記1の【表2】)には,容器成形後の容器切り出し片について,昇温結晶化温度が127度,結晶化熱量が19mJ/mgの場合であっても容器側面の光沢がないと記載されている,すなわち,特許請求の範囲で構成する数値範囲から,容器成形によって,昇温結晶化温度が1 度,結晶化熱量が1mJ/mg外れただけでも課題が解決できないことになるのであるから,本件発明2が本件明細書に記載されている,あるいは,本件発明2の「光沢」黒色系容器が本件明細書に実施可能に記載されているというためには,昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値について,容器成形前のシート層と容器成形後の容器切り出し片との間で,当業者が通常採用する条件であればこれらの物性値が不変であるか,当業者が通常なし得る操作によりこれらの物性値の変化を正確に制御し得るか,あるいは,これらの物性値が変化しないような成形方法や条件が本件明細書に記載される必要があるというべきである。


 そこで検討するに,PETを主成分とするシートから容器を成形するには,本件明細書の段落【0013】にも記載されるように,一般的に熱成形法が用いられるところ,原告提出に係る実験結果報告書には,成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値が全く変化しないものもある(甲37の1及び3,38の2及び4。ただし,この報告書では成形条件は明らかにされていない。)。これに対し,原告提出に係る実験結果報告書であっても,成形前後で結晶化熱量が1mJ/mg低下するもの(甲37の2及び4)や,昇温結晶化温度が1度上昇し,結晶化熱量も2mJ/mg上昇するもの(甲38の1及び3)もあるし,被告提出に係る実験結果報告書(甲14,15,20,22)には,成形前後で,昇温結晶化温度が5度以上低下,結晶化熱量も5mJ/mg以上低下するものが複数記載されている。


 これらの記載を総合すると,成形前後で昇温結晶化温度及び結晶化熱量の物性値がほとんど変化しない場合もあれば,成形後に大きく低下する場合もあると認めるのが相当であり,当業者が通常採用する成形条件の下において,これらの物性値が不変であるとは認められない。これに加えて,加熱時間が長くなるほどこれらの物性値がより大きく低下することを示す実験結果報告書の記載(甲65,68)や,容器深さが深くなるほどこれらの物性値がより大きく低下する傾向を示す実験結果報告書の記載(甲22)に照らすと,成形温度のみならず,成形時間や延伸の程度によっても,上記の物性値は変化するものと認められるのであって,当業者であっても,それらの物性値の変化を正確に予測したり,制御したりすることは容易ではないと認められる。さらに,上記の物性値が変化しないような成形方法や条件について,本件明細書には記載も示唆も認めない。


 以上のとおりであるから,本件発明2は,技術常識を参酌しても,発明の詳細な説明によりサポートされているとは認められず,特許法36条6項1号の要件を満たさない。


 また,本件明細書に,成形条件による上記の物性値の制御について記載や示唆がないことからすると,当業者といえども,本件発明2に係る光沢黒色系の包装用容器を製造することは容易ではないというべきであるから,本件発明2は,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項の要件を満たさない。


3 原告は,熱成形の際に,成形時間を短時間に設定すること,あるいは,シートの温度を約70〜100度とすることは技術常識であり,そうであれば,成形前後において,昇温結晶化温度及び結晶化熱量は同等である旨主張する。


 しかしながら,原告主張の技術常識を認めるに足りるに的確な証拠はなく,また,原告の知財チーム作成に係る甲68の実験結果報告書において,加熱時間4秒間で,シート表面温度が98度の場合に,結晶化熱量が2mJ/mg上昇する旨の実験結果の記載があることに照らすと,原告主張の成形条件が採用されているからといって,昇温結晶化温度及び結晶化熱量が不変であるとまでは認められない。


 原告は,昇温結晶化温度及び結晶化熱量が成形により低下するとすれば,低下が予想される分だけ昇温結晶化温度及び結晶化熱量の数値が大きい多層シートを用いて容器を形成すればよく,本件発明2はサポート要件と実施可能要件を充足する旨主張する。このような原告の主張は,当業者がこれらの物性値の変化を正確に予測したり,制御したりすることができることを前提とするものというべきところ,当業者であっても,そのような予測や制御が容易でないことは,上記2で説示したとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。



4 本件発明1についての原告の主張は,本件発明2に係る主張を引用するものであるから,上記1〜3で説示したのと同様の理由により,原告の主張は理由がない。


 以上のとおりで,取消事由1は理由がない。


第6 結論

 取消事由1で説示した理由から,本件発明1及び2につきサポート要件及び実施可能要件の違反が存する以上,容易推考性の存否に係る取消事由2について判断するまでもなく,本件発明1及び2を無効とした審決の結論に誤りはない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。