●平成21(ワ)23445 特許権侵害差止請求事件「オープン式発酵処理装

 本日は、『平成21(ワ)23445 特許権侵害差止請求事件 特許権「オープン式発酵処理装置並びに発酵処理法」平成25年1月31日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130205141716.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、争点5(原告日環エンジニアリング及び原告キシエンジニアリングの損害の発生及び損害額)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史、裁判官 石神有吾)は、


『5 争点5(原告日環エンジニアリング及び原告キシエンジニアリングの損害の発生及び損害額)について


(1) 原告日環エンジニアリングについて

ア 独占的通常実施権の成否等


(ア)a 証拠(甲8の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,?原告キシエンジニアリングと原告日環エンジニアリングは,平成15年7月18日,同日付け独占的通常実施権許諾契約書(甲8の1)を作成したこと,?上記契約書には,原告キシエンジニアリングが,原告日環エンジニアリングに対し,本件特許権1の特許発明を実施するための通常実施権を許諾する(2条1項),原告キシエンジニアリングは,「本契約」が有効に存続するまでの間,第三者に対して本件特許権1の特許発明についての実施権の許諾をしないものとする(2条2項),実施権の範囲は,地域を日本国内,期間を本件特許権1の存続期間が満了するまでの間,内容を特許発明の全部とする(3条),実施の対価は無償とする(4条)などの記載があることが認められる。


 この点に関し被告は,上記契約書は,原本の印影がいずれも不鮮明であり,用紙自体も真新しく,およそ平成15年に作成された書類とは思えず,本件訴訟のために作成された可能性も否定できない旨主張するが,上記契約書の原本には,被告の主張するような不自然な点はうかがわれず,上記主張は採用することができない。


b 前記aの認定事実によれば,原告日環エンジニアリングは,平成15年7月18日,原告キシエンジニアリングから,同日付け独占的通常実施権許諾契約書(甲8の1)をもって,本件特許権1の全部につき,無償で,地域を日本国内,期間を本件特許権1の存続期間が満了するまでの間とする独占的通常実施権(本件独占的通常実施権1)の許諾を受けたことが認められる。


c これに対し被告は,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日付けでその旨の登録がされていることからすると,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の独占的通常実施権者であるとはいえないし,また,晃伸製機が同年9月5日に本件発明1を改良した発明の特許出願をしていることからすると(乙58),晃伸製機は本件発明1を利用していることは明らかであるから,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の実施について事実上独占しているということもできない旨主張する。


 確かに,証拠(甲1,10,55)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日に,晃伸製機を通常実施権者として,「範囲」を「地域日本国内,期間本契約の締結の日から本件特許権の存続期間満了まで 内容 全部」とし,「対価の額」を「無償」とする通常実施権の設定登録が経由されたことが認められる。


 一方で,前掲証拠によれば,原告キシエンジニアリングと原告日環エンジニアリングが平成15年7月18付け独占的通常実施権許諾契約書(甲8の1)を作成した当時の両原告の代表取締役社長であったBは,平成17年3月25日に晃伸製機に上記通常実施権の設定がされた当時も,引き続き原告日環エンジニアリングの代表取締役に在職し,上記通常実施権の設定及びその設定登録を了承していたことが認められる。


 そして,特許法77条4項は,専用実施権者は,特許権者の承諾を得た場合には,他人に通常実施権を許諾することができる旨規定しており,同規定は,専用実施権者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても専用実施権を有することに影響を及ぼすものではないことを前提としているものと解されるものであり,かかる規定の趣旨に鑑みれば,特許権者が独占的通常実施権を許諾した後に,その独占的通常実施権者の了承を得て,第三者に通常実施権を設定した場合には,通常実施権が設定されたからといって直ちに当該独占的通常実施権者の地位に影響を及ぼすものではないというべきである。


 また,本件においては,原告キシエンジニアリングが原告日環エンジニアリング及び晃伸製機以外の第三者に本件特許権1の実施権を許諾していることをうかがわせる証拠はなく,また,晃伸製機が本件特許権1の特許発明の実施品を現実に販売していることを認めるに足りる証拠もないことに照らすならば,晃伸製機に対する上記通常実施権の設定によって,原告日環エンジニアリングによる本件独占的通常実施権1に基づく本件特許権1の実施についての事実上の独占が損なわれたものということはできない。

 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。


(イ)以上のとおり,原告日環エンジニアリングは,本件特許権1について本件独占的通常実施権1を有するものである。


 ところで,独占的通常実施権者が当該独占的通常実施権に基づいて許諾を受けた特許権を独占的に実施し得る地位は法的保護に値する利益であるといえるから,故意又は過失により上記利益を侵害する行為は不法構成を構成し,独占的通常実施権者は,その侵害者に対し,自己が被った損害について不法行為に基づく損害賠償を求めることができるというべきである。


 そして,独占的通常実施権者は,登録によって公示がされていない点などで専用実施権者とは異なるが,その実施権に基づいて特許権を独占的に実施して利益を上げることができる点においては専用実施権者と実質的に異なるものではなく,損害については基本的に専用実施権者と同様の地位にあるということができるから,独占的通常実施権者については,特許法102条1項又は2項を類推適用することができると解するのが相当である。


 そこで,以上を前提に,原告日環エンジニアリングの損害の発生及び損害額について検討する。


特許法102条1項の類推適用に基づく損害額
(ア) 損害の発生


 ・・・省略・・・


c 以上によれば,被告による前記aのロ号装置合計2基の販売は,故意又は過失により原告日環エンジニアリングの本件独占的通常実施権1を侵害するものとして不法行為を構成し,原告日環エンジニアリングは,被告の上記不法行為により,本件発明1の実施品等のロ号装置と代替可能性のある競合品の販売による得べかりし利益相当の損害を被ったものと認められる。


 ・・・省略・・・


 そして,特許法102条1項は,侵害者の侵害行為がなければ権利者が自己の物を販売することができたことによる得べかりし利益(逸失利益)の損害額の算定方式を定めた規定であって,侵害者の侵害行為(特許権の実施行為)がなかったという仮定を前提とした損害額の算定方式を定めた規定であるのに対し,同条3項は,侵害者の特許権の実施行為があったことを前提として権利者が受けるべき実施料相当額の損害額の算定方式を定めた規定であって,両者は前提を異にする損害額の算定方式であり,一つの侵害行為について同条1項に基づく損害賠償請求権と同条3項に基づく損害賠償請求権とが単純に並立すると解すると,権利者側に逸失利益を超える額についてまで損害賠償を認めることとなり,妥当でないというべきであるから,原告日環エンジニアリングの上記損害賠償請求権(同条1項の類推適用に基づく損害額の損害賠償請求)と原告キシエンジニアリングの上記損害賠償請求権(同条3項に基づく損害額の損害賠償請求)とは,その重複する限度で,いわゆる不真正連帯債権の関係に立つものと解するのが相当である。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。