●平成15(ワ)7126 不正競争行為差止等請求「ミーリングチャック事件

 昨日および一昨日取り上げた、●『平成22(ワ)47569 著作権侵害差止等請求事件 著作権 民事訴訟「大道芸研究会」平成24年12月27日 東京地方裁判所(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130107090126.pdf)では、著作権侵害以外に一般不法行為により損害賠償ついて請求され、双方とも棄却されましたが、本日は、不正競争防止法に基づく請求は認められないものの、民法709条の一般不法行為に基づく損害賠償請求等が認められた、●『平成15(ワ)7126 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟「ミーリングチャック事件」平成16年11月09日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/8217E88B87D869744925701B000BA368.pdf)について取り上げます。


 なお、本事件については、別冊ジュリストの「商標・意匠・不正競争判例百選」の「111 商品形態の模倣等の不法行為[ミーリングチャック事件]」に掲載されていますので、興味のある方はそちらの論評を参考にして下さい。


  つまり、大阪地裁(第21民事部 裁判長裁判官 小松一雄、裁判官 中平健、裁判官 大濱寿美)は、


『1 争点(1)(不正競争防止法に基づく請求)について

(1) 争点(1)ア(原告製ミーリングチャックの形態は原告の商品等表示として周知性を有するか)について


 ・・・省略・・・


イ(ア) 商品の形態は、通常、主として、その商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるためなどの目的から適宜選択されるものであり、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではない。


 しかし、商品の形態が他の同種商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品の形態について強力な宣伝広告等が行われて大量に販売されたような場合には、商品の形態が特定の者の商品であることを示す商品等表示として需要者の間で広く認識されることがあり得、その場合には、商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示として保護されることがあると解される。


 一方、商品形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びついている場合において、当該形態を保護することがその機能ないし効果を奏し得る商品そのものの独占的・排他的支配を招来するような場合には、自由競争のもたらす公衆の利益を阻害することになるから、そのような形態にまで不正競争防止法2条1項1号による保護が及ぶものではないと解するのが相当である。


 そこで、前記アの認定事実を基礎として、原告製ミーリングチャックの形態が原告の商品等表示として周知であるといえるか否かについて検討する。


 ・・・省略・・・


 しかしながら、前述のように、商品形態は本来は商品の出所を表示することを目的として選択されるものではなく、原告製ミーリングチャックにおいては、商品の出所を表示する商標として「NIKKEN」商標が必ず製品に付されていることに加え、構成<ア>ないし<オ>のそれぞれも、技術的機能に関連して選択されたものであり、これらの組合せ全体としてみても、必ずしも形態的に同種製品と比べて際だった特徴として捉え難いものであり、また、原告においても、格別に原告製ミーリングチャックのチャック部の特徴を宣伝広告の対象にしてきた事実もうかがわれない。そして、ミーリングチャックの取引実情においても、その形態を見て取引するというものでもない。


 これらの事実を総合すれば、原告製ミーリングチャックの商品形態が商品の出所を表示するものとして需要者ないし取引者の間で広く認識されるに至っていると認定することは困難であるといわざるを得ない。前述のとおり、原告の提出した証拠の中には、原告製ミーリングチャックを扱い、あるいは使用している多くの企業関係者が、原告製ミーリングチャックの形態的な特徴を指摘しているが、この事実は、原告製ミーリングチャックと他社製品のミーリングチャックとの形態上の違いを多くの需要者、取引者が認識していることの裏付けであるとはいえても、原告製ミーリングチャックの商品形態が原告の商品の出所を示す商品等表示として周知性を有することまで直ちに肯定させるに足りるものではない。


 よって、争点(1)アに関する原告の主張は採用の限りでない(なお、念のために争点(1)イ及びウについて、次項以下で検討する。)。


 ・・・省略・・・


(9) 争点(2)キ(被告会社の行為は全体として不法行為を構成するか)について


ア 前記(2)ないし(8)の認定事実を総合すれば、次のようにいうことができる。


 被告会社は、既にその品質や性能が高く評価されていた原告製品を輸出する営業活動を長年にわたり行ってきたものであり、NHE社やHPI社と共に、そのような原告製品の取扱業者として、取引先から認識されていた。


 しかるに、被告会社が、原告製ミーリングチャックと酷似する被告製ミーリングチャックを米国にてHPI社を通じて販売したことを理由として原告が被告会社との取引を中止したことにより、被告会社は原告製品を取り扱うことが困難となった。そのため、被告会社は、DSP社に被告製品の製造を依頼した。


 被告会社は、DSP社に製造を依頼するに当たり、その必然性が認められないにもかかわらず、原告製品に酷似した被告製品の製造を依頼した。また、原告製品のコード番号と被告製品のコード番号(独自のものと、原告製品のコード番号末尾に「HPI」の文字を付記したにすぎないものがある。)を受発注及び納品において混在させて用いた。被告会社カタログやHPIカタログには、原告製品の写真や原告カタログに掲載された写真を利用した。さらに、原告製品を発注した顧客に対し、被告製品を混交させて納品するなどした。


 被告会社は、以上の行為を、顧客に対して原告製品と被告製品とが異なることを明確に説明することなく行っており、原告と被告会社の取引終了後も従前の販売方法と異なったものとしたわけではなかった。そのため、顧客の中には、コード番号の変更は認識しながら、原告製品を発注するつもりで被告製品のコード番号を使用した後、使用する段階等で被告製品が納入されていることに気付く者、製品に明確なHPIの表示がないため発注どおりの原告製品と認識し、原告に対して原告製品として外径が異なることを理由に返品する者がいた。


 被告製品はその品質及び性能において原告製品に及ばないものであり、したがって、原告製品と誤認したまま使用した顧客の中に、原告製品の性能が低下したと誤解した者が存在したであろうことは容易に推測できるところである。


イ ところで、不正競争防止法は、公正かつ自由な営業活動を中心とした競業秩序を破壊する不正ないし不公正な行為のうちから一定の類型を「不正競争」として、その防止及び損害賠償の措置等について規定している(同法1条参照)。


 しかし、競業秩序を破壊する不正ないし不公正な行為は、必ずしも不正競争防止法の規定する各類型の不正競争行為に限られるわけではない。同法の規定する不正競争行為に該当しなくても、業者の行う一連の営業活動行為の態様が、全体として、公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法で行われ、行為者に害意が存在するような場合には、かかる営業活動行為が全体として違法と評価され、民法上の不法行為を構成することもあり得るものと解するのが相当である。


 これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、被告会社の行為は、形態の酷似した製品の製造、コード番号の混同使用、原告製品であるかのごときカタログの作成及び使用、原告製品と被告製品の混交等により、品質及び性能において一定の評価を得ていた原告製品の評価を低下させるものであったということができ、このような行為は、全体としてみたときに、公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為であると評価できるから、民法上の不法行為を構成するものと認めるのが相当である。


(10) 以下、上記の争点に関する被告らの主張について検討する。

ア 被告らは、被告製品が原告製品に類似あるいは酷似することについて、いずれも技術的機能に由来するから、その製造等が違法となることはないと主張する。


 しかし、ミーリングチャック及びドリルチャックなど、製造者ごとに独自の形態を製作し得る部分についてまで酷似する必然性はないし、コレット類もすべての形態が一致するわけではないから(他社製品においてわずかながらの相違点が認められる。)、被告会社の販売活動における態様いかんによっては、このような原告製品の酷似製品を製造をすることは、不法行為の違法性を基礎付ける一要因となり得るものというべきである。


 なお、被告らは、被告製品はDSP社によって製造されたものであって、被告会社も被告Aも無関係である旨主張するが、被告製品が他に取り扱われている事情について証する証拠はなく、かえって、上記酷似製品の製造が被告Aの考案、指示によってなされた旨述べるDの証言書(甲16)等が存在するところであり、この点に関する前記認定を覆すに足りる証拠はない。


イ 被告らは、コード番号は製品の分類にすぎず、概ね製品の規格や寸法を示すものであることからすれば、コード番号の類似や、被告製品に原告製コード番号を使用することが、違法となることはないと主張する。


 確かに、コード番号が対応する刃物の規格や製品自体の寸法等を示すものであることからすれば、これが同一であったり、製造者によって異なる部分が一部異なったりしていても、直ちに違法ということはできないが、上記のとおり、被告らは、これを原告製品の受発注・納入時に混交させる方法で用いていたのであり、そのような場合には、顧客の予期しない被告製品を混交させるに当たり顧客の誤解を導く要因ともなっていたのであるから、そのような使用方法を行うに当たっては、他の行為との関係でこれが違法性を認める一要因となり得るというべきである。


ウ 被告らは、カタログに他社製品を撮影した写真や、他社製品の写真を利用した写真を使用することが違法となることはないと主張する。


 しかし、この行為もまた、顧客の誤解を導く一要因となったことを考えるならば、単なる写真利用行為ということはできない。


 なお、被告らは、写真利用行為について関与を否定し、被告会社従業員Bの判断による旨主張する。しかし、カタログという、取引先に対して取扱製品を披露する重要な文書について、一従業員の判断で被写体が被告製品ではない写真を使用するとは考えられないから、被告らの主張は極めて不自然というほかなく、その他上記認定を覆すに足りる証拠はない。


エ 被告らは、原告製品と被告製品を混交させる場合には、その旨顧客に説明し、その了解を得ていたと主張し、またNHE社の行為は被告らとは無関係であると主張する。


 しかしながら、被告らが顧客に対し、原告製品と被告製品を混交させたことを説明したことを証する的確な証拠はなく、かえって、被告製品のコード番号や製造元としてHPIとの表記をしていた顧客が、後日納入品(被告製品のコード番号で送付され、包装箱のラベルやデザインには「HPI」の文字が記載されていた。)が規格外商品である旨のクレームを述べるときに、原告の現地法人に対して通知返品した事実、被告製品が混交されたことを知った後NHE社などにクレームを述べた事実などからすれば、被告らは、被告製品や被告製品のコード番号について適切な説明をせず、これを原告製品や原告製品のコード番号を示すものとの顧客の誤解をそのまま放置し、かつ利用していたというべきである。


 そして、このような混交、顧客の誤解の放置・利用行為は、被告会社から輸入した製品を受発注するだけの営業活動を行うNHE社が単独で決定し得るものではない。NHE社の代表者は被告Aであることを考えれば、NHE社の行為は、少なくとも被告会社の指示にしたがったものというべきである。


オ 被告らは、被告製品が原告製品よりも品質において優れていると主張し、これを証するものとして乙第9号証(DSP社作成の試験結果報告書)、第12号証(DSP社代表取締役の宣誓供述書)、第18号証の1(ハードミリング社代表取締役の宣誓供述書)、同号証の2(AVNマスキン社の代表取締役の宣誓供述書)を提出する。しかし乙第9号証は、通常の製品試験の結果を記したものとしては、中立性・正確性に欠けるため信頼できない。また、乙第12号証、第18号証の1、2はいずれも被告製品の品質や性能の良さを述べるものであるが、本件で提出されている他の証拠(甲16、17、41、43、102、108等)と対比して、その内容を信用することはできない。


 被告らは、原告製品であっても苦情があり、また規格外のものがあることを主張し、その証拠として、乙第21号証の1(HPI社から被告会社に伝達した書簡)、同号証の2(インボイス)、第23号証(試験成績書)、第41号証の1(ツールシャンクの規格に関する書面)、同号証の2(試験成績書2通)を提出する。確かに、一般に工作機械部品のようなものでは、製造した製品に、ごくわずかではあるが規格外製品や不具合製品が生じ得ることは否定できないし、原告製品の中にもそのようなものが存在し得ることは否定できないところである。しかし、前記(8)に挙示した証拠で認定される被告製品の不具合は、通常許容され得る程度を超えているというべきであって、原告製品にも不具合製品等があることの指摘をすることによって、前記認定が左右されるものではない。


カ 被告らは、原告製品と似た形態を有する被告製品を取り扱うようになった理由として、原告が一方的に取引を中止してきたため、やむなく、原告製品に技術的機能に由来する部分において類似する被告製品を製造販売せざるを得なかったことを挙げる。


 しかしながら、前記(9)アで述べたとおり、被告製品は原告製品に酷似したものであり、また、前記(10)アで述べたとおり、製造者ごとに独自の形態を製作し得る部分についてまで酷似する必然性はないのであるから、たとえ原告が一方的に取引を中止したという事情が認められたとしても、被告製品を原告製品に酷似させることが是認されるものではない。しかも、原告が取引を中止した理由が被告製ミーリングチャックが原告製ミーリングチャックに酷似しているとの原告の指摘に対して被告らが誠意をもって対応しなかったことにあるというべきであるから、原告の指摘を受けた後も更に別製品で原告製品と酷似する被告製品を製造したり、原告製品に被告製品を混交させるなどして販売しようとしたりした被告会社、HPI社及びNHE社の営業活動は、悪質というほかない。


(11) なお、原告は、被告会社が原告製品の在庫処理をし、かつこれと同等及び優れた製品である被告製品を取り扱うことを記載した広告を配布したこと、NHE社が「NIKKEN」の文字を使用して営業活動を行っていること、などの事情に違法性が認められると主張する。しかしながら、原告製品を一部とはいえ扱っており、また社名に「NIKKEN」の文字があることからすれば、NHE社が「NIKKEN」の文字が記載された文書を利用して営業活動を行っていることを違法と評価することはできないし、その他の被告会社の行為と併せて考えても、これを違法性を認定する要因とすることもできない。また、取引が終了した場合に、その旨告知した上で在庫品を処理する旨及び今後はそれ以上の品質を有する新製品を販売する旨記載した広告等を取引先に配布するのは通常の取引経済活動の範囲内というべきであって、原告製品に関する虚偽事実の告知を行うなど、不正競争行為や不法行為と言いうる事情がない限り、それ自体をもって違法ということはできず、本件における被告会社の様々な行為と併せ考えたとしても、違法性の一要因として評価することはできない。


3 争点(3)(被告Aの責任)について

 証拠(甲15ないし17、20、91)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告Aは、被告製品を原告製品に酷似させること、被告製品のコード番号を原告製品のコード番号に酷似させたり、被告製品に原告製品のコード番号を使用したりすること、被告会社及びHPI社のカタログに原告製品の写真等を使用すること、原告製品と被告製品を混交させてすべて原告製品として販売することについて、被告会社の代表者というのみならず、自らも直接かつ積極的に関与していたことが認められる。


 したがって、被告Aは、被告会社の代表取締役として、その職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったものというべきであるから、商法266条ノ3に基づく損害賠償責任を負う。』

 と判示されています。