●平成23(行ケ)10446 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政

 本日は、『平成23(行ケ)10446 商標登録取消決定取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成24年11月29日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121204110020.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標登録の異議申立てによる取消決定の取消を求めた商標登録取消決定取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、商標法4条1項11号における商標の類否判断と指定役務の類否判断についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子、裁判官 小田真治)は、


『当裁判所は,本件商標と引用商標は類似し,それぞれの指定役務も類似するから,本件商標は商標法4条1項11号に該当するとした決定に誤りはないものと判断する。その理由の詳細は,次のとおりである。


1商標の類否判断の誤り(取消事由1)について

(1)商標の類否判断

 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり最判昭和43年2月27日・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである最判昭和38年12月5日・民集17巻12号1621頁,最判平成5年9月10日・民集47巻7号5009頁,最判平成20年9月8日・裁判集民事228号561頁参照)。


 上記の観点から,本件商標と引用商標の類否を判断する。


(2)本件商標の特徴部分

 本件商標は,「BDO」を大文字により表記した部分と「BancoDeOro」と表記した部分とからなる商標である。「BDO」部分は,「BancoDeOro」部分と対比して,概ね2倍の太さで表記され,「B」の文字は下側のふくらみの部分のみ「D」と接触し,また,「O」の文字は,「D」の文字に重なるように配置され,かつ黄色で目立つように彩色されている。他方,本件商標の他の文字は,すべて青色に彩色されている。


 また,「BancoDeOro」の部分は,原告の設立準拠法であるフィリピン法では,ユニバーサルバンク(商業銀行業務・投資銀行業務・証券業務のほか,リース・ファクタリングなど一切の金融業務ができる銀行)を指す語であり,取引者,需要者は,同部分については,役務の内容それ自体を指すものと認識,理解するものと解される。これに対して,「BDO」部分は,それ自体では,何らの観念も有しない。


 さらに,取引の実情等についてみると,原告は,「BDORemit(Japan)」(Remitは送金を指す。)との構成からなる登録第5310534号商標の商標登録を受けたが,その商標登録取消決定取消請求訴訟が当裁判所に係属中である(当裁判所に顕著な事実)こと,原告のウェブサイトでは,「BDO」部分のみを表示している部分があること(甲14),原告は商号を従前の「バンコデオロユニバンク」から「ビーディーオーユニバンク」に変更していることを考慮すると,原告においては,「BancoDeOro」部分については,役務の出所表示として機能するような態様で使用していないことが推認される。


 以上のとおり,「BDO」部分が,それぞれの文字が接触又は重なるように配置されて,デザイン上の特徴を備えており,「O」の文字が黄色で目立つように彩色されていること,原告では,「BDO」部分を共通のロゴとして統一的に用いていること,その他の事実経緯に照らすならば,本件商標中における取引者,需要者の注意を喚起させる特徴部分は,「BDO」部分であると解すべきである。


(3)本件商標と引用商標の類否判断

 本件商標は,「ビーディーオー」の称呼を生じる。本件商標は,「BDO」部分からは特定の観念を生じることはない(なお,「BancoDeOro」部分を併せると,取引者,需要者において,フィリピン法の下でのユニバーサルバンクを連想させるが,それは,役務の内容を説明したものと認識,理解される。)。引用商標は,いずれもその構成文字に相応して「ビーディーオー」の称呼を生じ,特定の観念を生じない。


 本件商標の特徴部分である「BDO」と引用商標とを対比すると,「ビーディーオー」との称呼において共通し,外観において「BDO」部分において共通し,観念においては,比較することができない。



(4)小括

 以上のとおりであり,本件商標と引用商標とは類似する。


2指定役務の類否判断の誤り(取消事由2)

(1)指定役務の類否判断

 商標法4条1項11号にいう指定役務が類似のものであるかどうかは,これらの役務が通常同一営業主体により提供されている等の事情により,それらの役務に同一又は類似の商標を使用するときには同一営業主体の提供に係る役務と誤認されるおそれがあると認められるか否かによって決するのが相当である。


(2)本件商標と引用商標の指定役務の類否

 本件商標の指定役務(第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,外国為替取引,信用状に関する業務,送金・振込事務の取扱い,その他の銀行業務」)は,いずれも銀行によって提供される代表的な役務である。


 他方,引用商標の指定役務中,第36類の「金融及び財務に関する事項についての助言」,「金融及び財務に関する研究」,「資金の貸し付けに関する助言」,「会社への資金の貸し付けに関する助言」及び「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供」については,監査法人や金融・財務に関するコンサルティング会社等が扱うものの,銀行も,自らあるいは関連会社を通じてこれらの業務を提供することがあることが認められる(丙1,2)。


 そうすると,これらの役務はいずれも銀行によって提供されることがあるという点において,本件商標と引用商標が用いられた場合に,その役務の出所についての混同を生じるおそれがあると認められるとするのが相当である。


(3)原告の主張について

 原告は,本件商標の商標権者である原告はフィリピン法上の銀行であり,引用商標は監査法人等が使用権者となっている点を前提とするならば,本件商標と引用商標の指定役務は類似しない旨を主張する。しかし,仮に,そのような主張を前提にしたとしても,原告において「BDO」部分のロゴを共通とし,かつ,単に役務内容等の説明部分を付加した他の商標登録出願の実情等を総合考慮すると,本件商標と引用商標が用いられた場合に,役務の出所について混同を生じるおそれがあるとの前記判断を左右するものとはいえない。

 原告の主張は,採用できない。


(4)小括

 以上のとおり,本件商標と引用商標の指定役務とは類似すると認められるから,これと同趣旨の決定には違法はない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。