●平成23(行ケ)10390 審決取消請求事件 実用新案権「室内芳香器」

 本日は、『平成23(行ケ)10390 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟「室内芳香器」平成24年7月25日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120813154926.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の無効審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(本件考案1の容易想到性に係る判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 高部眞規子、裁判官 井上泰人、裁判官 齋藤巌)は、


『3 取消事由1(本件考案1の容易想到性に係る判断の誤り)について

(1) 相違点1について

 本件考案1と引用考案との相違点1は,造花に関して,本件考案1では,「ソラの木の皮で作製した」ものであるのに対して,引用考案は,花弁部を複数集めた集合体で構成された濾紙からなる揮散体からなる点である。


(2) ソラフラワーの周知性について

 周知例には,ソラフラワーとリフレッシャーオイルの画像の説明文として,「植物繊維で作った花にバラの香りを染み込ませて」及び「ローズの香りの花ポプリ。ソラという植物の茎をスライスして作った花に,オイルを染み込ませています。ほかにヒヤシンスやシクラメンも。」との記載がある。それによれば,ユーザーが,ソラフラワーに芳香剤を染み込ませて使うものであることが理解できる。また,そもそも,ソラフラワーにリフレッシャーオイルを別売しているということは,当該オイルをソラフラワーに染み込ませて使い切った後に,改めて追加で当該オイルを入手できるように販売しているものである。よって,周知例には,本件審決が認定した,「造花であるソラフラワーと芳香剤とを別体として販売し,ユーザーがソラフラワーに芳香剤を染み込ませて使うもの」であることが記載されている。


 周知例は,株式会社主婦と生活社が一般の主婦を対象として出版した雑誌「Saison de かおん」にソラフラワーという商品の概要や用途が紹介されているというものであるところ,室内芳香器やソラフラワーのユーザーである主婦を対象とした雑誌に掲載された事項については,本件考案の属する技術分野の出願時の技術水準にあるものを全て自らの知識とすることができる当業者としても,ユーザーのニーズや商品の評価などには相当な関心を払うはずである。そうすると,当業者は,ユーザー向けの雑誌に掲載された事項についても,当然,自らの知識としているものと考えられ,そこに掲載された事項は,当業者にとっても周知な事項といって差し支えない。


 よって,周知例の上記記載をもって,そこに紹介されたソラフラワーも,当業者に周知のものということができる。


(3) 容易想到性について

ア 引用例には,本件考案1の「造花」に相当する揮散体は,「その材質として,上記の溶液を保持でき,かつ,溶液中の有効成分(揮散成分)を揮散させることができるものであればいずれのものでも使用でき」と記載され,その具体例として,「樹脂,パルプ等の有機材料やガラス等の無機材料の多孔性材料」を用いることができることが記載されている(【0010】)。


 引用例には,ソラの木の皮等の天然素材については明記されていないが,ソラの木の皮等の天然素材も,造花に吸収された液体芳香剤をゆっくり揮散させることができ,芳香の揮散を長時間安定的に持続できるという作用効果を有することは明らかであり,上記のとおり,ソラフラワーは,従来周知の造花である。そうすると,ソラの木の皮等の天然素材が記載されていないとしても,引用考案における花弁部の集合体である揮散体に代えて,ソラフラワーを適用することができる。


 イ このように,引用考案の「揮散体」を,これと同様の作用・機能を有する周知のソラフラワーに置き換える動機は十分に存在し,それを阻害する要因も存在しないから,相違点1に係る構成は,きわめて容易に想到できるものである。


 そして,本件考案1が奏する作用効果,すなわち,ソラの木の皮で作製されたものを用いることにより,造花に吸収された液体芳香剤をゆっくり揮散させることができ,芳香の揮散を長時間安定的に持続できるという作用効果も,引用考案等から予測できる範囲内のものにすぎず,格別のものとは認められない。


ウ よって,本件考案1は,引用考案及び周知例に基づき,きわめて容易に想到し得るものである。


(4) 原告の主張について

ア 原告は,引用例は,造花の材質として,数多くの例を挙げながら,従来周知の天然素材については一つも挙げていないことを理由に,ソラを含む天然素材を引用考案の造花に適用できないとする阻害要因が存在する旨主張する。


 確かに,引用例(【0010】)には,揮散体の材質として,ソラを含む天然素材について明示されていないが,「揮散体は,その材質として,上記の溶液を保持でき,かつ,溶液中の有効成分(揮散成分)を揮散させることができるものであればいずれのものでも使用でき」るとした上で,紙や布を例示しているにすぎないから,それ以外の材質を何ら排除するものではない。そして,従来周知のソラを含む天然素材も,造花に吸収された液体芳香剤をゆっくり揮散させることができ,芳香の揮散を長時間安定的に持続できるという作用効果を有するもので,「溶液を保持でき,かつ,溶液中の有効成分(揮散成分)を揮散させることができる」ものであるから,天然素材が例示されていないことをもって阻害事由があるとはいえない。


イ 原告は,本件考案1の時間に関する観念は,視覚の面だけでなく嗅覚の面でも考慮しているのに対して,引用考案は,視覚の面に限定される点で相違すると主張する。


 しかしながら,引用考案の揮散器でも,揮散体に芳香剤を吸収させることによって,揮散体から香気を発するもので,揮散体内への吸収の度合いが進むにつれて,揮散体から発する香気が強くなることは明らかである。また,引用例の記載,すなわち,「着色部の形状(模様)は,揮散体に供給される溶液の量に応じて流動的に面積が変化し,また,時間の経過によって大きくなる」「吸液の速度と揮発の速度とを適宜調整することで,揮散体に付与される模様を決定することができる」(【0022】【0023】)から,時間に関する観念が視覚の面でも考慮されていることも明らかである。


 なお,周知例のソラフラワーも,一般的な天然ポプリと同様,植物の花や茎等を乾燥させて香料を染み込ませることによって,香気をゆっくりと揮散させて長く楽しむものであるから,嗅覚の面での時間に関する観念を有するものである。


(5) 小括

 よって,取消事由1は,理由がない。』


 と判示されました。