●昭和51(オ)923「パロディ・モンタージュ写真事件」最高裁判所第三

 本日は、先日取り上げた、●『平成24(ネ)10027 著作権侵害差止等請求控訴事件 著作権 民事訴訟 平成24年8月8日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120810141349.pdf)の中で引用された最高裁判決の一つである、●『昭和51(オ)923 損害賠償 昭和55年03月28日「パロディ・モンタージュ写真事件」最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻し 東京高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121451062181.pdf)について取り上げます。


 本最高裁の内容は以下の通りです。


『         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人竹澤哲夫、同千葉憲雄、同望月千世子の上告理由第三点について
 一 原審は、
 (一) 上告人は、自ら撮影して創作しその著作権を取得したカラー写真を原判決添附写真(1)のような縦約三〇センチメートル、横約三七センチメートルのカラー写真としたうえ、昭和四二年一月一日付株式会社D発行の写真集「SKI’67第四集」に複製掲載して発表したほか、その後右複製写真における左側部分約五分の一を切除し残部をやや拡大して縦横約三七センチメートルの写真にしたうえ、上告人の氏名を表示しないでE社発行の昭和四三年度用広告カレンダーに複製掲載したところ、被上告人は、右カレンダーに掲載された写真を利用し、その左側部分の一部約三分の一(後記「F」掲載分)又は六分の一(後記「G」掲載分)を切除してこれを白黒の写真に複製したうえ、その右上にH株式会社の広告写真から複製した自動車スノータイヤの写真を配して合成して原判決添附写真(2)のような白黒写真(以下「本件モンタージユ写真」という。)を作成し、これを昭和四五年一月ころ発行した自作の写真集「F」に掲載して発表したほか、株式会社Iにおいて発行した「G」同年六月四日号にも掲載して発表した、


 (二) (ア) 本件モンタージユ写真は、上告人が創作して複製した前記各写真(以下「本件写真」という。)とは別個の、そのパロデイというべき被上告人の創作にかかる被上告人自身の著作物であるから、旧著作権法(明治三二年法律第三九号、以下単に「法」という。)三〇条一項第二にいう「自己ノ著作物」に該当し、(イ) 本件写真は、本件モンタージユ写真の素材として利用されたものであるが、このような利用は右規定にいう「節録引用」に該当し、(ウ) 本件モンタージユ写真の作成はその目的が本件写真を批判し世相を風刺することにあったためその作成には本件写真の一部を引用することが必要であり、かつ、前記のような引用の仕方が美術上の表現形式として今日社会的に受けいれられているフオト・モンタージユの技法に従ったものとして客観的に正当視されるものであったから、他人の著作物の自由利用として許されるべきものと考えられ、右引用にあたり本件写真の一部が改変されたことも、本件モンタージユ写真作成の右目的からみて必要かつ妥当なものであったということができ、原著作者たる上告人の受忍すべき限度を超えるものとは考えられないから、その同一性保持権を侵害するものとはいえず、したがって、被上告人の前記本件写真の利用は右規定にいう「正当ノ範囲」を逸脱するものではない、


 (三) なお、被上告人が素材として利用した前記カレンダーに掲載された写真には上告人の氏名の表示がなかったのであるから、被上告人は、これをその出所を明示することなく利用することを許諾されていたものというべきである、との趣旨の認定判断をし、上告人の被上告人に対する著作者人格権侵害を理由とする慰藉料支払の請求を棄却すべきものであるとしたことが原判文に照らし明らかである。


 二 そこで、所論にかんがみ、原審の判断の当否について検討する。


 法三〇条一項第二は、すでに発行された他人の著作物を正当の範囲内において自由に自己の著作物中に節録引用することを容認しているが、ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきであり、更に、法一八条三項の規定によれば、引用される側の著作物の著作者人格権を侵害するような態様でする引用は許されないことが明らかである。

 そこで、原審の確定した前記事実に基づいて本件写真と本件モンタージユ写真とを対照して見ると、本件写真は、遠方に雪をかぶった山々が左右に連なり、その手前に雪におおわれた広い下り斜面が開けている山岳の風景及び右側の雪の斜面をあたかもスノータイヤの痕跡のようなシユプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーを俯瞰するような位置で撮影した画像で構成された点に特徴があると認められるカラーの写真であるのに対し、本件モンタージユ写真は、その左側のスキーヤーのいない風景部分の一部を省いたものの右上側で右シユプールの起点にあたる雪の斜面上縁に巨大なスノータイヤの写真を右斜面の背後に連なる山々の一部を隠しタイヤの上部が画面の外にはみ出すように重ね、これを白黒の写真に複写して作成した合成写真であるから、本件モンタージユ写真は、カラーの本件写真の一部を切除し、これに本件写真にないスノータイヤの写真を合成し、これを白黒の写真とした点において、本件写真に改変を加えて利用し作成されたものであるということができる。


 ところで、本件写真は、右のように本件モンタージユ写真に取り込み利用されているのであるが、利用されている本件写真の部分(以下「本件写真部分」という。)は、右改変の結果としてその外面的な表現形式の点において本件写真自体と同一ではなくなったものの、本件写真の本質的な特徴を形成する雪の斜面を前記のようなシユプールを描いて滑降して来た六名のスキーヤーの部分及び山岳風景部分中、前者についてはその全部及び後者についてはなおその特徴をとどめるに足りる部分からなるものであるから、本件写真における表現形式上の本質的な特徴は、本件写真部分自体によってもこれを感得することができるものである。そして、本件モンタージユ写真は、これを一瞥しただけで本件写真部分にスノータイヤの写真を付加することにより作成されたものであることを看取しうるものであるから、前記のようにシユプールを右タイヤの痕跡に見立て、シユプールの起点にあたる部分に巨大なスノータイヤ一個を配することによって本件写真部分とタイヤとが相合して非現実的な世界を表現し、現実的な世界を表現する本件写真とは別個の思想、感情を表現するに至っているものであると見るとしても、なお本件モンタージユ写真から本件写真における本質的な特徴自体を直接感得することは十分できるものである。そうすると、本件写真の本質的な特徴は、本件写真部分が本件モンタージユ写真のなかに一体的に取り込み利用されている状態においてもそれ自体を直接感得しうるものであることが明らかであるから、被上告人のした前記のような本件写真の利用は、上告人が本件写真の著作者として保有する本件写真についての同一性保持権を侵害する改変であるといわなければならない。


 のみならず、すでに述べたところからすれば、本件モンタージユ写真に取り込み利用されている本件写真部分は、本件モンタージユ写真の表現形式上前説示のように従たるものとして引用されているということはできないから、本件写真が本件モンタージユ写真中に法三〇条一項第二にいう意味で引用されているということもできないものである。そして、このことは、原審の確定した前示の事実、すなわち、本件モンタージユ写真作成の目的が本件写真を批判し世相を風刺することにあったためその作成には本件写真の一部を引用することが必要であり、かつ、本件モンタージユ写真は、美術上の表現形式として今日社会的に受けいれられているフオト・モンタージユの技法に従ったものである、との事実によっても動かされるものではない。


 そうすると、被上告人による本件モンタージユ写真の発行は、上告人の同意がない限り、上告人が本件写真の著作者として保有する著作者人格権を侵害するものであるといわなければならない。


 なお、自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾なくして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られるのであり、したがって、上告人の同意がない限り、本件モンタージユ写真の作成にあたりなされた本件写真の前記改変利用をもって正当とすることはできないし、また、例えば、本件写真部分とスノータイヤの写真とを合成した奇抜な表現形式の点に着目して本件モンタージユ写真に創作性を肯定し、本件モンタージユ写真を一個の著作物であるとみることができるとしても、本件モンタージユ写真のなかに本件写真の表現形式における本質的な特徴を直接感得することができること前記のとおりである以上、本件モンタージユ写真は本件写真をその表現形式に改変を加えて利用するものであって、本件写真の同一性を害するものであるとするに妨げないものである。


 三 以上によれば、被上告人による本件モンタージユ写真の作成発行は、これについて上告人の同意があれば格別、これがない限り、上告人が本件写真の著作者として保有する著作者人格権を侵害しないものということはできないから、これと見解を異にし、本件モンタージユ写真は、法三〇条一項第二に基づき本件写真を引用したにすぎないものであって、右引用の目的、仕方においても不当の点が認められないから、右引用にあたり本件写真に変更が加えられたとしても、これにより上告人が本件写真につき保有する同一性保持権を侵害したことにはあたらないと判断し、被上告人による本件モンタージユ写真の発行は、上告人の著作者人格権の侵害にあたらないとしてその請求を棄却すべきものとした原判決は、結局、法三〇条一項第二の解釈を誤り、ひいては法一八条一項の解釈を誤った違法があり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。


 よって、その余の論旨についての判断を省略し、民訴法四〇七条に従い、裁判官環昌一の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 裁判官環昌一の補足意見は、次のとおりである。

 私は、以上に説示された当裁判所の見解が、一般にパロデイといわれている表現(その概念内容は必ずしも明確であるとはいいがたいと思われるが)のもつ意義や価値を故なく軽視したり否定することとなるものではないと考えるものである。しかしながら、一方において著作権を著作者の私権として保護すべきものとする要請と、他方において著作物が公共の財産としての一面をも有することに基づく社会的要請との調和をねらいとするものと考えられる著作権に関する実定法令(前記法三〇条一項第二の規定もその一例とみるべきものである。)に即して検討してみると、本件の場合のように、他人の著作物である写真(以下「原写真」という。)を目的としていわゆるフオト・モンタージユの技法によりパロデイ写真を作成するため、原写真の一部分をそのまま写真により複製して利用する場合には、写真というものの技術的性質から原写真のその部分をこれと寸分違わないかたちで取り込まざるをえないものであること、いわゆるパロデイの趣旨で原写真を取り込み利用するということは、必然的に原写真の外面的表現形式及び内面的表現形式にわたり多かれ少なかれ改変を加えるものであるとともに、写真が吾人の視覚に直接訴える表現媒体であるだけに、原写真を大きく取り込み利用するようなときには、原写真の完全性を損うものであるとの評価を免れることができず、しかも、右改変について原写真の著作者の同意を得ることは事の性質上不可能といってもよいと考えられること、他方、原写真の同一性がもはや完全に失われたと認められるほど細分された原写真の部分を利用してモンタージユしたのでは、恐らくそのパロデイとしての意義は著しく低くならざるをえないと思われること等の諸点を勘案すると、写真である原著作物を目的としてするフオト・モンタージユの技法によるパロデイといわれる表現には、前記のような写真の技術的性質及び写真が吾人の視覚に直接訴える表現媒体であることに起因して、原写真の著作者の著作者人格権、特にいわゆる同一性保持権との関連における宿命的な限界があると考えるほかはない。このような見地からすれば、本件モンタージユ写真は、右の限界を超えるものといわざるをえないものであり、その本件写真のパロデイとしての意義・価値を評価することはよいとしても、そのため、明文上の根拠なくして本件写真の著作者である上告人の著作者人格権を否定する結果となる解釈を採ることは、前述した実定法令の所期する調和を破るものであり、被上告人の一方に偏したものとして肯認しがたいところというべきである。また、このように解しても、本件において被上告人の意図するようなパロデイとしての表現の途が全く閉ざされるものとは考えられない(例えば、パロデイとしての表現上必要と考える範囲で本件写真の表現形式を模した写真を被上告人自ら撮影し、これにモンタージユの技法を施してするなどの方法が考えられよう。)から、上告人の一方に偏することとなるものでもないと思う。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    環       昌   一
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    横   井   大   三
 裁判官高辻正己は、退官のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官    環       昌   一』