●平成23(行ケ)10164 審決取消請求事件 特許権「電池式警報器」

 本日は、『平成23(行ケ)10164 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「電池式警報器」平成24年2月8日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120228133403.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、容易想到性および審決の相違点の認定,判断に誤りがあった場合についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知材高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 障泄批チ規子、裁判官 齋藤巌)は、


『(3) 容易想到性

ア 以上のとおり,本件発明1の表示灯手段が,確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅する構成であるのに対し,引用発明1の表示灯手段は,確認要求を受け付けて初めて点滅又は点灯し利用者に電圧低下を知らせるものであり,音と光からなる煙や一酸化炭素の警報パターンを用いて電圧低下をユーザに知らせるものである。


 しかるに,引用例1には,利用者からの要求の要否と電圧低下を利用者に示す態様とを電池交換が促されるように組み合わせること,又は,要求を待って電圧低下を利用者に示す表示灯手段と別途に要求を待たずに電圧低下を表示する手段を設けることにより電池交換が促されること等の動機付けの記載が見当たらない。


 そうすると,ユーザがテスト/サイレンスボタンを押し下げた場合に音と光からなる煙や一酸化炭素の警報パターンを用いて電圧低下をユーザに知らせるものであり,光のみにより電圧低下をユーザに知らせることや音に先行して光によって電圧低下をユーザに知らせることをそもそも予定していない引用発明1に,電圧低下を含む状態変化を光で報知する周知技術を適用したとしても,それによって,表示灯手段が確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅する本件発明1の構成に,容易に想到できるということはできない。


イ すなわち,引用発明1においては,確認要求を受け付けて初めて表示灯手段が利用者に電圧低下を示すことを踏まえれば,利用者からの要求の要否と電圧低下を利用者に示す態様とを電池交換が促されるように組み合わせること,又は,要求を待って電圧低下を利用者に示す表示灯手段を備えてもなおこれと別途に要求を待たずに電圧低下を表示する手段を設けることにより電池交換が促されること等により,引用発明1においても表示灯手段につき確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅することによって電池交換が促されることが論理付けられなければ,表示灯手段が確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅する本件発明の構成に,容易に想到できるということはできない。


 しかるに,引用例1には,上記の論理付けに必要な動機付けの記載が見当たらず,また,他にこのような動機付けの存在を認定する根拠も見当たらない。そうすると,仮に,引用例3,引用例2又は周知例1によって,利用者からの要求の要否と電圧低下を利用者に示す態様とを電池交換が促されるように組み合わせること,又は,引用発明1のように要求を待って電圧低下を利用者に示す表示灯手段を備えてもなおこれと別途に要求を待たずに電圧低下を表示する手段を設けることにより電池交換が促されること等が周知技術であると認定できたとしても,これらを引用発明1において適用することが動機付けられることはない。


ウ したがって,本件発明1が,引用発明1に基づいて容易に想到できるということはできない。


(4) 原告の主張について

ア 取消事由1−1(一致点及び相違点の認定の誤り)について

(ア) 原告は,本件発明の装置には,利用者が事前認識をしたか否かを判断する手段はなく,利用者は使用方法の限定を受けない旨主張する。

 確かに,前記のとおり,本件発明は,使用方法の限定を受けるものではないから,これを前提とした本件審決の相違点の認定,判断には誤りがある。


・ ・・省略・・・

(オ) 以上のとおり,本件審決は,本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあり,この点において,原告の上記主張には理由があるといわざるを得ない。

 しかしながら,特許無効審判を請求する場合における請求の理由は,特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定しなければならないところ(特許法131条2項),同法29条2項の規定に違反して特許されたことがその理由とされる場合に審判及び審決の対象となるのは,同条1項各号に掲げる特定の発明に基づいて容易に発明することができたか否かである。よって,審決に対する訴えにおいても,審判請求の理由(職権により審理した理由を含む。)における特定の引用例に記載された発明に基づいて容易に発明することができたか否かに関する審決の判断の違法性が,審理及び判断の対象となると解するべきである。また,そう解することにより,審決の取消しによる特許庁と裁判所における事件の往復を避け,特許の有効性に関する紛争の一回的解決にも資するものと解されるのである。したがって,対象となる発明と特定の引用例に記載された発明との一致点及び相違点についての審決の認定に誤りがある場合であっても,それが審決の結論に影響を及ぼさないときは,直ちにこれを取り消すべき違法があるとはいえない。


 これを本件についてみると,本件審決において,本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあることは,上記のとおりであるが,前記のとおり,本件発明は,引用発明1に基づいては容易に発明することができないものであり,上記認定の誤りは,結局審決の結論に影響を及ぼさないものであって,本件審決に取り消すべき違法があるとはいえない。』

 と判示されました。