●平成22(ネ)10076 商標権侵害差止等請求控訴事件 商標権 民事訴

 本日は、『平成22(ネ)10076 商標権侵害差止等請求控訴事件 商標権 民事訴訟 平成24年2月14日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120216101709.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標権侵害差止等請求控訴事件で、その控訴が棄却された事案です。


 本件では、インターネットショッピングモールの運営者の責任についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、


『(3) 検討

ア 本件における被告サイトのように,ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し,これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において,上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは,商標権者は,直接に上記展示を行っている出店者に対し,商標権侵害を理由に,ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが,そのほかに,ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって,その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは,その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。


 けだし,(1)本件における被告サイト(楽天市場)のように,ウェブページを利用して多くの出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は,販売者・購入者の双方にとって便利であり,社会的にも有益な方法である上,ウェブページに表示される商品の多くは,第三者の商標権を侵害するものではないから,本件のような商品の販売方法は,基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること,(2)仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても,出店者が先使用権者であったり,商標権者から使用許諾を受けていたり,並行輸入品であったりすること等もあり得ることから,上記出品がなされたからといって,ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと,(3)しかし,商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり,ウェブページの運営者であっても,出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識,認容するに至ったときは,同法違反の幇助犯となる可能性があること,(4)ウェブページの運営者は,出店者との間で出店契約を締結していて,上記ウェブページの運営により,出店料やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること,(5)さらにウェブページの運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツの削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり,これらを併せ考えれば,ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解されるからである。


 もっとも商標法は,その第37条で侵害とみなす行為を法定しているが,商標権は「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」権利であり(同法25条),商標権者は「自己の商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる」(同法36条1項)のであるから,侵害者が商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず,社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり,商標法が,間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって,商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はないというべきである。


イ そこで以上の見地に立って本件をみるに,一審被告は,前記(1)のようなシステムを有するインターネットショッピングモールを運営しており,出店者から出店料・システム利用料等の営業利益を取得していたが,前記(2)イの番号1,2の展示については,展示日から削除日まで18日を要しているが,一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは代理人弁護士が発した内容証明郵便が到達した平成21年4月20日であり,同日に削除されたことになる。また,前記(2)イの番号3〜8の展示については,展示日から削除日まで約80日を要しているが,一審被告が確実に本件商標権侵害を知ったと認められるのは本訴訴状が送達された平成21年10月20日であり,同日から削除日までの日数は8日である。さらに,前記(2)ウの番号9〜12の展示については,展示から削除までに要した日数は6日である。


 以上によれば,ウェブサイトを運営する一審被告としては,商標権侵害の事実を知ったときから8日以内という合理的期間内にこれを是正したと認めるのが相当である。


(4) 以上によれば,本件の事実関係の下では,一審被告による「楽天市場」の運営が一審原告の本件商標権を違法に侵害したとまでいうことはできないということになる。』

 と判示されました。