●平成23(行ケ)10142審決取消請求事件 特許権「電子レンジのマイク

 本日は、『平成23(行ケ)10142審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「電子レンジのマイクロ波を利用し,陶磁器に熱交換の機能性を持たせ,調理,加熱,解凍を行う技術」平成24年1月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120202163903.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容され、審決が取り消された事案です。


 本件では、引用発明を組み合わせて進歩性を判断する際の動機付けの有無が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 池下朗、裁判官 武宮英子)は、


『イ判断

 上記ア認定の事実によれば,引用発明の内容及び引用刊行物2の記載は,それぞれ,以下のとおりといえる。すなわち,

 引用発明は,セラミック製の調理容器で調理を行うときは,芋等が内部加熱され水分が蒸発するとともに風味が著しく損なわれるという従来の問題点に鑑み,フェライト材(マイクロ波を吸収して発熱し,赤外線を放射する。)とセラミック材(マイクロ波を透過する。)とが併存するように被調理物加熱層14を構成し,フェライト材におけるマイクロ波の吸収に起因した外部加熱と,セラミック材におけるマイクロ波の透過に起因した誘電加熱とを併用するものである。


 引用刊行物2には,調理品等の味覚が損なわない新たな解凍技術として開発された発明であること,解凍又は加熱するときにその組成の違う物資が混在しているなかでマイクロ波を直接,照射すると解凍又は加熱すべき素材は全体が均一な温度による解凍又は加熱が困難であり,解凍又は加熱後の温度むらの原因は油脂部分等にマイクロ波が集中的に吸収されるなどして,全体に均一な温度の解凍又は加熱ができないこと,そこで,磁性体シートにおけるキュリー温度相当の外部加熱のみによって素材を加熱するため,磁性体シートを透過したマイクロ波をアルミ箔等の遮断層で反射することによって,素材にマイクロ波が直接当たらないように遮断することが記載され,さらに,段落【0013】には,磁性体シートは,マイクロ波の吸収による発熱の機能を担うのであってマイクロ波の遮断までも担うものではないこと,マイクロ波の遮断機能を担うのはアルミ箔等であることが示されている。


 以上によれば,引用発明は,調理品等の味覚が損なわれるのを防止するためフェライト材とセラミック材とが併存するように被調理物加熱層14を構成し,マイクロ波の外部加熱と赤外線の誘電加熱とを併用加熱することによって,課題を解決するものであるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,素材に対し,均一な温度による解凍又は加熱を実現するため,マイクロ波を対象物に直接照射させないようにアルミ箔などで遮断して,外部加熱のみによって素材を加熱するものである。


 すなわち,引用発明は,素材を内外から加熱することに発明の特徴があるのに対して,引用刊行物2記載の技術は,マイクロ波の素材への直接照射を遮断することに発明の特徴があり,両発明は,解決課題及び解決手段において,大きく異なる。引用発明においては,外部加熱のみによって加熱を行わなければならない必然性も動機付けもないから,引用発明を出発点として,引用刊行物2記載の技術事項を適用することによって,本願発明に至ることが容易であるとする理由は存在しない。


 したがって,審決が,引用刊行物2記載の示唆に基づいて,引用発明の内部加熱のための被調理物加熱層14を透過するマイクロ波の一部が透過しないように被調理物加熱層14のセラミック材をなくし,フェライト粉によってマイクロ波を遮蔽するようなすことは当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことを前提に,本願発明の相違点Aに係る構成に至ることが容易であるとした判断は,前提を欠くものであり,誤りというべきである。


(2)小括

 以上のとおり,原告ら主張の取消事由2(本願発明の相違点Aに係る容易想到性判断の誤り)には理由があり,審決の結論に影響を及ぼすものであるから,その余の争点について判断するまでもなく,審決は取り消すべきものである。被告は,他にも縷々反論するが,いずれも採用の限りでない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。