●平成23年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件 特許権「高

 本日は、『平成23年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「高強度部品の製造方法と高強度部品」 平成24年2月6日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120206151452.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取り消しを求めた審決取消請求事件で、その請求が認容され、審決が取り消された事案です。


 本件では、取消事由1,2,4(引用発明の認定の当否,一致点の認定の当否,相違点の看過の有無,看過された相違点が想到容易といえるか)についての判断が参考になるかと思います。

 
 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、裁判官 古谷健二郎)は、


『3 取消事由1,2,4(引用発明の認定の当否,一致点の認定の当否,相違点の看過の有無,看過された相違点が想到容易といえるか)について


 取消事由2,4は,取消事由1を前提とするものであって,これらの取消事由は相互に関連することから,まとめて検討することとする。


(1) 上記2のとおり,刊行物1記載の発明は,加熱状態の鋼板をプレス成形により急冷・焼入れし,その後に加工するという従来技術においては,焼入れにより硬度が上昇してその後の加工が困難になるなどといった問題点があったことから,これを解消するために,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させる,すなわち,加工が必要な部位の焼入れ硬度を低下させ,その部位の加工を容易にすること(【請求項1】,第1実施形態に係る発明)を中心的な技術的思想とするものである。そして,プレス成形に引き続き成形品が冷却され硬化する前に成形型内で加工を行うという構成(【請求項9】,第4実施形態に係る発明)についても,【請求項9】が【請求項1】を全部引用していることに加え,「第9の発明では,第1の発明の効果に加えて…」(段落【0012】),「本実施の形態(判決注:第4実施形態)においては,第1実施形態における効果…に加えて,下記に記載した効果を奏することができる。」(段落【0076】)などの記載があることに照らすと,成形型内で加工を行うに当たっても,焼入れの際,部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工することが前提となっているものと認められる。


 このように,刊行物1においては,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を成形型内で加工する技術が密接に関連したひとまとまりの技術として開示されているというべきであるから,そこから鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出し引用発明の技術的思想として認定することは許されない。


 しかるに,審決は,引用発明として,鋼板の部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却し,得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させて剛性低下部を形成し,その剛性低下部を加工するという上記の技術事項に触れることをせずに,したがってこれを結び付けることなく,単に成形型内で加工する技術のみを抜き出して認定したものであって,審決の引用発明の認定には誤りがある。これに伴い,審決には,成形型内で加工する点を一致点として認定するに当たり,これと関連する相違点として,本願発明は,「成形後に金型中にて冷却して焼入れを行い高強度の部品を製造する際に,…剪断加工を施す」のに対して,引用発明では,「成形品形状部位ごとに冷却速度を異ならせて冷却」する点,「得られる焼入れ硬度を部位ごとに変化させ,剛性低下部を形成」する点,「剛性低下部にピアス加工を施す」点を看過した誤りがある。


(2) そこで,上記の誤りが審決の結論に影響を及ぼすかどうかについて検討するに,上記(1)で説示したとおり,刊行物1記載の引用発明は,焼入れ硬度を低下させた部位を設けることで加工を容易にすることを中心的な技術的思想としているのであって,これを前提として成形型内で加工を行う技術事項も開示されているにとどまると理解すべきであるから,これらの技術事項を切り離して,成形型内で加工を行う技術事項のみを抜き出しそこにのみ着眼して,看過された相違点に係る本願発明の構成とすることができるかの視点に基づく判断は,容易推考性判断の手法として許されない。

 
 したがって,上記の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。


(3) なお,原告は,取消事由1(1)として,審決が引用発明について「高強度」プレス成形品であると認定したことは誤りであると主張する。


 しかしながら,本願発明にいう「高強度」の部品は,焼入れにより強度を向上させた部品であると認められるところ,引用発明も,焼入れにより強度を向上させる従来技術を前提として,加工を行う部位についてのみ焼入れ硬度を低下させるのであるから,全体としての成形品は「高強度」であると認められる。


第6 結論

 以上のとおりで,取消事由3について判断するまでもなく,刊行物1を主たる引用例として本願発明の容易推考性を肯定した審決は誤りであって,取り消されるべきものである。よって,主文のとおり判決する』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。