●平成21(行ヒ)217 審決取消請求事件 最高裁判所第三小法廷

 本日は、『平成21(行ヒ)217 審決取消請求事件 平成23年12月20日 最高裁判所第三小法廷(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111220111305.pdf)』について取り上げます。

 本最高裁判決の内容は、次の通りです。


『               主 文

 原判決を破棄する。

 被上告人の請求を棄却する。

 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
                理 由

 上告代理人網野友康ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について


1 本件は,被上告人が有する後記商標登録につき,上告人が,商標法50条1項に基づき,指定役務のうち第35類に属する「広告,経営の診断及び指導,市場調査,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,広告用具の貸与」(以下「本件対象役務」という。)についての不使用を理由に,本件対象役務に係る商標登録の取消しの審判を請求したところ,特許庁が本件対象役務に係る商標登録を取り消すべき旨の審決をしたことから,被上告人が同審決の取消しを求める事案である。


 被上告人は,本件対象役務のうち,「商品の販売に関する情報の提供」(以下「本件指定役務」という。)についての登録商標の使用をしていると主張して争っている。


2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,ゲームソフトの企画,制作,販売等を業とする株式会社であり,別紙商標登録目録記載1の構成から成る標章につき,指定役務を商標法施行令別表第1(平成13年政令第265号による改正前のもの。以下「政令別表」という。)第35類及び第41類の区分に属する同目録記載2のとおりとする登録第4548297号の登録商標(平成13年1月22日商標登録出願,平成14年3月1日商標権の設定の登録。以下,この登録商標を「本件商標」といい,その商標登録を「本件商標登録」という。)の商標権者である。


(2) 被上告人は,自社のウェブサイトにおいて,自社が開発したゲームソフトを紹介するのに併せて,本件商標を表示して,平成16年10月12日,自社が開発に携わりAが販売するゲームソフトにつき,その発売日,プレイヤー人数,価格等を表示し,また,平成17年1月23日,自社が開発したゲームソフトに用いられた楽曲を収録したBの販売する音楽CDにつき,その内容,仕様,価格,発売日,購入方法等を表示した(以下,これらの商品を「本件各商品」といい,これらの表示行為を「本件各行為」という。)。利用者は,上記ウェブサイトを介して,本件各商品を販売する上記の各会社のウェブサイトを閲覧し,同ウェブサイトにおいて本件各商品を購入することができるようになっていた。


(3) 上告人は,平成19年3月15日,商標法50条1項に基づき,本件対象役務に係る本件商標登録を取り消すことについて審判を請求し,同年4月4日にその旨の予告登録がされた。上記審判の請求につき,特許庁において,取消2007−300303号事件として審理された結果,平成20年9月26日,上記予告登録前3年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件対象役務のいずれかについての本件商標の使用をしていたことは証明されておらず,その使用をしていないことについて正当な理由があることが明らかにされていないとして,本件対象役務に係る本件商標登録を取り消すべき旨の審決がされた(以下,この審決を「本件審決」という。)。


 3 原審において,被上告人は本件指定役務の使用として前記2(2)の事情を主張したところ,原審は,被上告人は,本件各行為により,前記予告登録前3年以内に日本国内において本件指定役務についての本件商標の使用をしていたと認められるから,本件対象役務のいずれかについての本件商標の使用をしていたことの証明がないとした本件審決は誤りであるとして,本件審決の取消しを求める被上告人の請求を認容した。


4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。


(1) 商標登録出願は,商標の使用をする商品又は役務を,商標法施行令で定める商品及び役務の区分に従って指定してしなければならないとされているところ(商標法6条1項,2項),商標法施行令は,同区分を,「千九百六十七年七月十四日にストックホルムで及び千九百七十七年五月十三日にジュネーヴで改正され並びに千九百七十九年十月二日に修正された標章の登録のための商品及びサービスの国際分類に関する千九百五十七年六月十五日のニース協定」1条に規定する国際分類(以下,単に「国際分類」という。)に従って定めるとともに,各区分に,その属する商品又は役務の内容を理解するための目安となる名称を付し(同令1条,別表),商標法施行規則は,上記各区分に属する商品又は役務を,国際分類に即し,かつ,各区分内において更に細分類をして定めている(商標法施行令1条,商標法施行規則6条,別表)。また,特許庁は,商標登録出願の審査などに当たり商品又は役務の類否を検討する際の基準としてまとめている類似商品・役務審査基準において,互いに類似する商品又は役務を同一の類似群に属するものとして定めている。


 そうすると,商標法施行規則別表において定められた商品又は役務の意義は,商標法施行令別表の区分に付された名称,商標法施行規則別表において当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質,国際分類を構成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明,類似商品・役務審査基準における類似群の同一性などを参酌して解釈するのが相当であるということができる。


(2) 本件指定役務は,本件商標登録出願時に施行されていた商標法施行規則別表(平成13年経済産業省令第202号による改正前のもの。以下「省令別表」という。)第35類3に定める「商品の販売に関する情報の提供」を意味するものと解されるので,上記(1)に説示したところを踏まえて,省令別表第35類3に定める「商品の販売に関する情報の提供」の意義について検討する。


 政令別表第35類は,その名称を「広告,事業の管理又は運営及び事務処理」とするものであるところ,上記区分に属するものとされた省令別表第35類に定められた役務の内容や性質に加え,本件商標登録の出願時に用いられていた国際分類(第7版)を構成する類別表注釈が,第35類に属する役務について,「商業に従事する企業の運営若しくは管理に関する援助又は商業若しくは工業に従事する企業の事業若しくは商業機能の管理に関する援助を主たる目的とするもの」を含むとしていること,「商品の販売に関する情報の提供」は,省令別表第35類中の同区分に属する役務を1から11までに分類して定めているうちの3において,「経営の診断及び指導」,「市場調査」及び「ホテルの事業の管理」と並べて定められ,類似商品・役務審査基準においても,これらと同一の類似群に属するとされていることからすれば,「商品の販売に関する情報の提供」は,「経営の診断及び指導」,「市場調査」及び「ホテルの事業の管理」と同様に,商業等に従事する企業の管理,運営等を援助する性質を有する役務であるといえる。このことに,「商品の販売に関する情報の提供」という文言を併せて考慮すれば,省令別表第35類3に定める「商品の販売に関する情報の提供」とは,商業等に従事する企業に対して,その管理,運営等を援助するための情報を提供する役務であると解するのが相当である。そうすると,商業等に従事する企業に対し,商品の販売実績に関する情報,商品販売に係る統計分析に関する情報などを提供することがこれに該当すると解されるのであって,商品の最終需要者である消費者に対し商品を紹介することなどは,「商品の販売に関する情報の提供」には当たらないというべきである。


(3) なお,本件商標登録の出願時に用いられていた前記国際分類を構成する類別表注釈では,第35類に属する役務について,平成9年1月1日に発効した改訂によって,「他人の便宜のために各種商品を揃え(運搬を除く。),顧客がこれらの商品を見,かつ,購入するための便宜を図ること」が同類に属する役務に含まれる旨の記載が追加されており,その後,平成18年法律第55号により,商標の使用対象となる役務として「小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が追加されて(商標法2条2項),これに伴い,商標法施行令別表第35類に小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供の役務が追加され,商標法施行規則別表第35類にも,接客,カタログを通じた商品選択の便宜を図ることなど商品の最終需要者である消費者に対して便益を提供する役務が商標の使用対象となる役務として認められるようになったなどの経緯がある。しかしながら,本件商標登録の出願時には,上記の法令の改正はいまだ行われていなかったのであって,上記の経緯を考慮しても,本件商標登録の出願時に,消費者に対して便益を提供する役務が,上記の法令の改正等がされる以前から定められている省令別表第35類3の「商品の販売に関する情報の提供」に含まれていたものと解する余地はないというべきである。


(4) そこで,本件各行為について検討すると,前記事実関係によれば,本件各行為は,被上告人のウェブサイトにおいて,被上告人が開発したゲームソフトを紹介するのに併せて,他社の販売する本件各商品を消費者に対して紹介するものにすぎず,商業等に従事する企業に対して,その管理,運営等を援助するための情報を提供するものとはいえない。したがって,本件各行為により,被上告人が本件指定役務についての本件商標の使用をしていたということはできない。


5 以上と異なる見解の下に本件審決に違法があるとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件対象役務のいずれかについての本件商標の使用をしていたこと又はその使用をしていないことについて正当な理由があることはうかがわれないから,本件対象役務に係る本件商標登録を取り消すこととした本件審決に違法はない。その取消しを求める被上告人の本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべきである。


 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官 岡部喜代子 裁判官 寺田逸郎)』