●平成23(行ケ)10034 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「身体位

本日は、『平成23(行ケ)10034 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「身体位置感覚/運動感覚装置及び方法」平成23年12月8日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111209164319.pdf)について取り上げます。


本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由1(審判手続の違法)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 障泄批チ規子、裁判官 齋藤巌)は、


『1 取消事由1(審判手続の違法)について

(1) 原告らは,特許法の法文上,審判請求時の補正について,新たな拒絶理由を発見し,独立特許要件を欠く補正として却下するときには,請求人に拒絶理由通知を発して意見書を提出する機会を与える必要がないとされているが,このような手続は,出願人から意見を述べる機会を奪うだけでなく,補正や分割出願の権利をも奪うものであり,極めて不当であるから,審判請求時の補正が審判請求前の補正の内容を含む場合には,原則に戻り,出願人に対し,意見書の提出機会を与えなければならないと主張する。


(2) 確かに,本件特許出願に係る本件審判手続において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合は,出願人に拒絶理由を通知し,意見書の提出機会を与えるのが原則である(法159条2項,50条)。


 しかし,法159条2項は,出願人に対する拒絶理由の通知を要しない場合を規定する法50条ただし書について,平成20年法律第16号による改正前の特許法17条の2第1項4号(拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求の日から30日以内にするとき)の場合において法53条1項により当該補正について却下決定する場合を含むものと読み替える旨規定している。また,法159条1項は,拒絶不服審判においては,決定をもって補正を却下すべき事由を規定する法53条1項について,平成20年法律第16号による改正前の特許法17条の2第1項4号の場合を含むものと読み替える旨規定しているのであって,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内にされた補正による発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない場合にも当該補正は却下されることとなる(法17条の2第5項,特許法126条4項参照)。その結果,法文上,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内にされた補正による発明について,独立して特許を受けることができないものとして当該補正を却下するときには,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合であっても,出願人に対して拒絶理由を通知することは求められていないこととなる。また,法163条1項,2項は,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内に補正があったときに行われる審査官による前置審査において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも,法50条ただし書や53条1項について,それぞれ上記同様の読替えをする旨規定している。


(3) しかるところ,本件特許出願の経緯をみると,原告らは,平成15年8月12日に本件特許出願をしたが,当初の特許請求の範囲には,「突出部が支持部材に摺動的に取り付けられている」との記載はなく(甲5),平成18年2月28日付け手続補正により,請求項9に「突出部の少なくとも一つは,支持部材に摺動的に取り付けられている」との構成が記載された(甲6)。平成20年4月9日付け拒絶理由通知には,「引用例には,突出部を摺動的に取り付けることが記載されている」旨記載されていたが(甲12,乙1),原告らは,同年7月11日付け手続補正により,請求項1について,上記同様「突出部の少なくとも一つは,支持部材に摺動的に取り付けられている」との構成に補正し(甲9),同年8月8日付けで拒絶査定を受けた後で(甲13,乙2),本件補正により,本件補正発明の構成とした(甲7)。その後,特許庁審査官は,平成21年2月9日付けで,「引用例記載のものにおいて,新たに引用する周知例2に記載されているように,突起を摺動可能に位置決めし,突起に周知の形状を採用し,本件補正発明とすることは,当業者が容易に想到し得ることである」旨記載した前置報告書を作成した(甲8)。原告らに対しては,平成22年1月18日付けで同報告書の内容を示した審尋が行われ(甲8),原告らは,同年7月20日付けで回答書を提出したが(甲14),新たに周知例2を引用したことについて,改めて拒絶理由通知が発せられることはなく,同年9月27日に本件審決がされた。本件審決では,相違点2に係る判断に際し,周知例2を引用して,「下面に突出部を有する履物の突出部の位置変更手段として,支持部材の底面に形成されたトラックに摺動的に取り付けられるとともに,トラックに沿ってどこにでも選択的に位置決めされてトラックに締結されるように構成することは,従来から広く行われている」旨判断している。


 以上のとおり,前置報告書や本件審判において周知例2が引用されたのは,本件補正により,請求項1について,「突出部の少なくとも一つは,支持部材の底面に形成されたトラックに摺動的に取り付けられるともに,トラックに沿ってどこにでも選択的に位置決めされてトラックに締結される」との構成に減縮された結果であるところ,原告らは,平成18年2月28日付け補正による「突出部の少なくとも一つは,支持部材に摺動的に取り付けられている」との構成(請求項9)について,平成20年4月9日付けで拒絶理由通知がされた後も,実質的に同様の構成(請求項1)で特許を受けようとし続け,拒絶査定を受けた結果,初めて本件補正によりその構成を減縮したものである。


(4) 以上の経緯に鑑みると,本件審判手続において,周知例2について新たに拒絶理由通知をしないまま本件審決に至ったことが,原告らに対して不当なものであったということもできない。


(5) 小括


 よって,取消事由1は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。