●平成22(ワ)5012 特許権侵害差止等請求事件「固定式消火設備」

 本日は、『平成22(ワ)5012 特許権侵害差止等請求事件「固定式消火設備」平成23年9月22日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110927134242.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、争点(1)ア(本件特許発明は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるか)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判官 西田昌吾)は、

『2争点(1)ア(本件特許発明は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるか)について


(1)乙1発明と本件特許発明との対比

 乙1発明と本件特許発明とが次の相違点1及び2の点について相違し,その余の点について一致していることは当事者間で争いがない。


(相違点1)

 本件特許発明は,「水平送出管部の複数の各箇所の上下に分岐管」を設けているのに対し,乙1発明は,「2本の水平送出管部を上下2段に設け,その2本の水平送出管部の複数の各箇所の上に分岐管」を設けている点で相違している。

(相違点2)

 水平送出管部について,本件特許発明は,「格納箱内の消火薬剤貯蔵容器より上方に平面視で格納箱奥行方向に対して斜交するように斜め方向にかつ側面視で水平に配設」しているのに対し,乙1発明は,「格納箱内の消火薬剤貯蔵容器より上方に平面視で格納箱奥行方向に対して斜交しないで上下に2段に並行して設けて,かつ側面視で水平に配設」している点で相違している。


(2)容易想到性

 以下のとおり,少なくとも相違点2に関する本件特許発明の構成は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると認めることができないから,この点に関する被告らの主張は採用することができない。

ア本件明細書の記載

本件明細書には,以下のとおり記載されている。


 ・・・省略・・・


 これらの記載によれば,本件特許発明が解決しようとする課題は,給油取扱所における固定式消火設備の設置場所について選択の自由度を高めることにあり,これを解決するための手段が相違点2に係る構成要件Fの構成であり,これにより選択弁以降の配管取り出しを格納箱の三側方のいずれの方向からも行うことができるという作用効果を奏するという技術的意義があると認めることができる。


イこれに対し,乙1発明に係る乙1文献には,相違点2に係る上記アの課題について記載や示唆はない。被告らが引用する文献(乙2,6ないし8,12及び13)についても同様である(なお,乙6,7について,本件特許出願前の刊行物であるかどうかは不明であり,乙8は,本件特許出願後である平成21年6月に頒布されたものである。)。


 また,乙12,13には,「限られた空間に対して部材を斜めに配置」することが開示されている。しかし,乙12は「室内に洗濯物を干すときに使用する物干し竿」の配置に係るものであって,固定式消火設備における水平送出管部の配置を対象とするものではなく,乙13は「巨大コイルを構成する10本の電線の結線部分(コネクター)」の配置に関するものであって,固定式消火設備における水平送出管部の配置を対象とするものではない。


 本件特許発明は,前記アのとおり,「格納箱内における多数の分岐管及び選択弁の取付法や配置法に工夫を凝らすことにより,多数の分岐管の全ての選択弁以降の配管取り出し方向の拡大化を図れ,給油取扱所内への格納箱の設置場所の選択自由度を拡げることのできる固定式消火設備を提供すること」(段落【0005】)を課題とし,当該課題を解決するために,水平送出管部を「平面視で格納箱奥行方向に対して斜交するように斜め方向にかつ側面視で水平に配設」(段落【0006】)するものであって,単に,限られた空間に部材を斜めに配置するだけのものではない。

 すなわち,前記アのとおり「水平送出管部の複数箇所の各箇所の上下に分岐管を設ける」ことと,水平送出管部を「平面視で格納箱奥行方向に対して斜交するように斜め方向にかつ側面視で水平に配設」する(段落【0006】)こととが技術的に関連し,有機的に機能し合うことによって,複数の分岐管の全ての選択弁以降の配管取り出しが,格納箱の左側,右側,後ろ側のいずれの方向からも行うことができるとする作用効果を奏するものである。


ウ被告らは,消火薬剤貯蔵容器の数を乙1発明の2つから本件特許発明の1つに変更すると格納箱の幅方向寸法が短くなり,所定の数の選択弁を並べることができなくなるから,これを解決するために水平送出管部を奥行き方向に斜交させることは,当業者にとって単なる設計事項にすぎないなどと主張する。

 しかし,幅方向寸法が短くなった場合に,設置することのできる選択弁の数が減少する問題を解決するという課題は,本件特許発明の課題ではないし,被告らが引用する各文献にも記載や示唆はない。この点に関する被告らの主張は,本件特許発明が前提とせず,乙1発明等においても記載や示唆のない課題を独自に設定した上,本件特許発明は乙1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとするものであり,論理付けの前提を誤っているというほかない。


 また,仮に被告らの主張する課題を前提としたとしても,水平送出管部を奥行き方向に斜交させることによって設置できる選択弁の数が必ずしも増えないとする原告の主張を排斥することのできる証拠もない。このことからしても,本件特許発明は乙1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいうことはできない。

 本件特許発明の課題を前提として,当業者が乙1文献に接したとしても,これを解決するための構成としての相違点2に係る構成要件Fについて記載や示唆は見当たらない。


エ限られた部材を斜めに配置することにより長い部材を収納することは様々な分野で一般に考えられてきたことであるとする主張も,前同様に,前提となる課題の設定を誤るものであり,採用することができない。

オよって,この点に関する被告らの主張は,いずれも採用することができない。』

 と判示されました。