●平成23(行ケ)10087 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟

 本日は、『平成23(行ケ)10087 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「Select HORECA」平成23年07月21日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110725163711.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由(本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 障泄批チ規子、裁判官 齋藤巌)は、


『1 取消事由(本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした判断の誤り)について

?A 商標の類否判断

 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。


 しかるところ,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものである最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。


 そこで,以上説示した見地から本願商標と引用商標との類否について検討する。

?B 本願商標について

 本願商標は,装飾的な5つの星形図形とともに,左右の下部両角がやや丸みを帯びた青色の四角形内に,コック帽を模した図形の左右に2個ずつ星形図形を配し,その下に「Select」の欧文字と弧を白抜きで表し,さらに該文字の下部に黄色で「HORECA」の欧文字を記載した構成からなるものである。上記構成において,コック帽を模した図形,その左右の星形図形,「Select」の文字及び弧は,青色の四角形のほぼ中央部にいずれも白抜きでまとまりよく配置されているのに対し,「HORECA」の文字は,青色の四角形の下部に,本願商標の上段に配置された装飾的な星形図形と同色の黄色で記載されていること,「Select」の文字は,イタリック体で記載されているのに対し,「HORECA」の文字は,ローマン体で記載され,かつ,「Select」の文字幅に比して1.5倍程度横に長く記載されていることからすると,外観上,「HORECA」の文字部分は,他の部分に比して,見る者も注意をより引くものであるといえる。


 また,「Select」の文字は,「選ぶ,えり抜きの,上等の」等の意味を有する語であるから(乙3の1〜3),本願商標を付して販売に供する商品が「選ばれた商品」,「上等な商品」であるとの意味合いを持たせるものではあるが,「Select」という文字自体が自他商品の識別のために格別の意義を有するものとはいえない。

 これらのことからすると,本願商標のうち,「HORECA」の文字部分は,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,本願商標のうち,「HORECA」の部分だけを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。

 したがって,本願商標からは,「Select HORECA」のみならず,「HORECA」の部分からも,称呼,観念を生じ得るものというべきである。

?C 引用商標について
 他方,引用商標は,「HORECA」の欧文字と「ホレカ」の片仮名文字を上下2段に記載した構成からなるものである。したがって,引用商標からは,「ホレカ」との称呼が生ずるものである。

?D 本願商標と引用商標との類否

ア 本願商標のうち「HORECA」の部分からは,引用商標と同じ「ホレカ」の称呼が生じる。

 また,「HORECA」は,飲食業界のいわゆる業界用語として,「ホテル,レストラン,カフェ等のサービス業種」を指す造語であり,一般的な外国語辞典や国語辞書等には収録されていない(甲9の1〜13,乙4の1〜18)。後記のとおり,本願商標に係る指定商品の取引者,需要者は,飲食業に携わる者に限定されるのではなく,広く一般の消費者を含むものであるから,本願商標に係る指定商品の取引者,需要者が本願商標に接した場合に,特定の観念を有するものとは認められない。よって,本願商標の「HORECA」の部分からも,引用商標からも,特定の観念が生じるとはいえない。

 本願商標と引用商標とは,全体としてその外観そのものは類似するものではないが,上記のとおり,同一の称呼が生じる。

 そして,1個の商標から2個以上の称呼,観念を生じる場合には,その1つの称呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきであるから(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照),本件商標から生じる称呼の1つである「HORECA」と引用商標とが同一である以上,本願商標は,引用商標と類似するものである。

イ 取引の実情(原告の主張)について

 原告は,本願商標が使用されているメトロ店舗は事前に会員登録をした飲食店等の食品事業者のみを対象とした卸売専業店であることを前提として,本願商標に接する取引者,需要者は,「HORECA」又は「ホレカ」の用語に通じた飲食業に携わる者であるから,本願商標からは,メトログループのプライベートブランドである「ホレカセレクト」の称呼のみが生ずるとか,当該プライベートブランドの観念が生ずるなどと主張する。

 しかしながら,本願商標に係る指定商品は,別紙商標目録のとおり,あて名印刷機,印字用インクリボン等の事務用品や,幼児用紙おしめ,家庭用食品包装フィルム等のいわゆる日用品であり,これらの商品の取引者,需要者がメトロ店舗を利用する飲食業に携わる者に限定されるものでないことは明らかである。商標登録出願は,その商標を使用する商品又は役務を指定して行われるものであり(商標法6条1項),本願商標に係る指定商品の取引者,需要者については,飲食業に携わる者に限定されるのではなく,広く一般の消費者を含むものと想定される以上,現在のメトロ店舗の販売形態が原告が主張するとおりであったとしても,本願商標と引用商標との類否を検討するに当たり,メトロ店舗を利用する飲食業に携わる者だけをその判断基準とすることはできない。

 そして,本願商標に係る指定商品の取引者,需要者である一般の消費者において,本願商標について,メトログループのプライベートブランドである「ホレカセレクト」との称呼のみを生ずるとか,当該プライベートブランドの観念のみが生ずるなどの事実を認めるに足りる証拠はない。

?E 商品の類否

 本願商標に係る指定商品と引用商標に係る指定商品とが同一又は類似の商品であることは,当事者間に争いがない。

?F 商標法4条1項11号該当性について

 以上のとおり,本願商標と引用商標は,類似し,本願商標に係る指定商品と引用商標に係る指定商品とが同一又は類似の商品であるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するものと認めるのが相当である。

2 結論

 以上の次第であるから,原告主張の取消事由には理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。