●平成22(行ケ)10357 審決取消請求事件 特許権「ゴルフボール」

 本日は、『平成22(行ケ)10357 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「ゴルフボール」平成23年07月19日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110721084231.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が認容された事案です。


 本件では、本願発明の容易想到性の有無についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、裁判官 田邉実)は、

『4 本願発明の容易想到性の有無

(1) 審決は,「・・・ソリッドコアと,熱可塑性樹脂を主材とする材料で形成されている中間層と,中間層の硬度より高い,熱可塑性樹脂を主材とする材料で形成されているカバーとの3層構造からなるスリーピースソリッドゴルフボールである引用発明において,ソリッドコアの中心硬度をショアD硬度で38より大きいものとする(上記(2)参照。)とともに,ショートアイアンでの打撃時のスピン量を増加させるために,前記カバーにはディンプル加工を行うことなく,熱可塑性水系ウレタン樹脂粉末を用いた厚さ300〜650μmの該カバーより低い硬度の塗膜(ショアD硬度38)を形成し,該塗膜上にディンプル加工を行うようにする(上記(1)参照。)ことは,当業者が,引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に想到し得たことである。」(6頁13行〜23行)とした。


 しかし,前記2のとおり,引用発明は,良好な飛び性能及び耐久性と良好な打感及びコントロール性とを同時に満足し得るゴルフボールを提供することを目的とし,コア表面硬度をコア中心硬度よりも高くしコアの硬度分布を適正化すると共に,中間層硬度をコア表面硬度より高く,カバー硬度を中間層硬度より高く構成して,ゴルフボールにおける最適の硬度分布を得ようとするものであるから,引用発明に引用例2に記載された事項を適用した場合,すなわち,引用発明のカバーに,該カバーより低い硬度の塗膜(ショアD硬度38)を形成した場合,塗膜形成前と塗膜形成後では,ボール全体の硬度分布は明らかに異なり(引用発明では,ボールのもっとも外側に位置するカバーの硬度が最も高く,次いで中間硬度,コア表面硬度,コア中心硬度の順に硬度が高く,これを最適の硬度分布としているのに対し,引用例2では,ボールのもっとも外側に位置する塗膜よりも,その内側の外装カバーの方が硬度が高いことになる。),塗膜形成前において最適化されていたボール全体の硬度分布は,塗膜形成後においても最適化されているとはいえなくなり,その結果,引用発明の上記目的は実現できないことになる。


 そして,塗膜形成後において引用発明の上記目的を実現しようとすると,改めてボール全体の硬度分布の最適化(再最適化)することになり,それによって,コア,中間層及びカバーの硬度は変更されるから,再最適化後のゴルフボールの構成は,本願発明と同様の構成になるとはいえない。


 そうすると,本願発明は,当業者が引用発明,引用例2に記載された事項及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。


(2) なお,引用発明のカバーに該カバーより低い硬度の塗膜(ショアD硬度38)を形成しても,引用発明が元々有する特性はそのまま維持されたままで,塗膜を形成したことによる効果が追加されるだけであれば,硬度分布の再最適化を行う必要はないことになるが,前記のとおり,引用発明のカバーに該カバーより低い硬度の塗膜(ショアD硬度38)を形成することにより,引用発明が最適とした硬度分布が変化してしまう以上,引用発明が元々有する特性はそのまま維持されたままで,塗膜を形成したことによる効果が追加されるだけとは考えられないし,再最適化を行う必要がないということもできない。


(3) 被告は,「引用例2は,外層カバーが最も固い従来のゴルフボールの表面に厚さ200μmの低硬度の塗膜を形成するといった改良を試みるものであるから,引用発明のゴルフボールの最外層,すなわちカバーが最も高硬度であることが,引用例2に記載された事項を適用することを妨げる理由とはならない」旨主張するが,前記のとおり,引用発明のカバーに,該カバーより低い硬度の塗膜(ショアD硬度38)を形成した場合,当該ゴルフボールの硬度分布は引用発明が最適とした硬度分布とは異なるものとなり,その結果,引用発明の目的は実現できなくなるのであるから,引用発明に引用例2に記載された事項を採用することを妨げる理由を否定できない。被告の上記主張は採用することができない。』

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。