●平成22(ワ)4461商標権侵害差止等事件「Monchouchou/モンシュシュ」

 本日も、『平成22(ワ)4461 商標権侵害差止等請求事件「Monchouchou/モンシュシュ平成23年06月30日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110706101915.pdf)について取り上げます。

 本件では、争点3(被告標章4は商標として使用されているか)および争点4(被告標章2ないし4は,被告の著名な略称を普通に用いられる方法で表示したものか)についてについての判断が参考になるかと思います。

 つまり、大阪地裁(第26民事部 裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 達野ゆき、裁判官 西田昌吾)は、

『5争点6(原告の損害の発生の有無)について

(1)登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても,当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず,登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは,得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである最高裁平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。


 そして,被告は,本件商標について,顧客吸引力が全く認められず,被告商品の売上げに全く寄与していないことが明らかであるから,原告には損害が生じていないと主張するので,以下検討する。


(2)本件商標の顧客吸引力

 本件商標が付されたバレンタイン用チョコレート(原告商品)は,ビアンクールが販売するバレンタイン用チョコレートの主力商品であり(甲72〜94),売上げの6割前後を占めていたと認められる(甲96,113)。そして,ビアンクールのバレンタイン商戦時期の売上げは,原告商品の販売が開始された昭和61年こそ3107万9000円であったものの,昭和62年は1億2508万円,昭和63年は1億8029万7000円と増加しており,平成元年から本件商標の使用が中断される直前の平成16年までの間,少ない年(平成12年,13年)でも1億7000万円を超え,多い年(平成3年)では3億1000万円を超えていたものである(甲96)。これは,被告商品のうちチョコレート(バレンタイン商戦時期のみ販売)の売上げが,平成18年度(当年8月〜翌年7月。以下同じ。)において32万4996円,平成19年度において353万7346円,平成20年度において1063万5000円,平成21年度において3741万0834円であったことや(乙213),被告の年間売上げが,被告や被告商品がメディアで頻繁に紹介され,新たに3店舗がオープンするなど(甲3),業績が伸びていた平成18年度でさえ,4億円程度であったことと比較しても,十分多額であるといえる。


 また,証拠(甲71〜95)によると,本件商標は,原告商品の包装やそのパンフレットに使用され,しかも,比較的目立つ位置に表示され,原告商品の購入者の注意は,本件商標に自然と注がれることが認められる。

 確かに,本件商標の使用が中断された平成17年及び平成18年に,ビアンクールの売上げが減少した事実は認められず(甲113),原告商品の売上げに対する寄与が,本件商標の使用のみによるものであるとは考えられない。

 しかしながら,本件商標は,上述したとおり,本件訴訟提起以前から,原告商品を示すものとして使用されており,その使用態様や,売上げに照らすと,原告商品の売上げに本件商標の寄与がないとは認め難く,本件商標に顧客吸引力が全く認められないということはできない。

(3)被告商品の売上げへの寄与

 前記1(1)のとおり,被告各標章は,チョコレートを含む洋菓子である被告商品の包装,被告各店舗の表示,被告商品ないし被告の宣伝広告など,被告商品の販売にあたって広く使用されていることが認められる。そうすると,本件商標に類似する被告各標章を使用することが,被告商品の売上げに全く寄与していないことが明らかであるとはいえない。

(4)以上のとおりであるから,被告の抗弁は採用できない。


6争点7(原告の請求は権利濫用か)について

(1)登録商標の商標権者であっても,登録商標の商標権の侵害を主張することが,客観的に公正な競争秩序を乱す場合は,権利の濫用に当たり許されないというべきである最高裁平成2年7月20日第二小法廷判決・民集44巻5号876頁参照)。


 そして,被告は,?原告の権利行使が速やかに行われなかったこと,?「モンシュシュ」は一般に被告の店舗名として認知されていること,?原告が被告各標章にフリーライドしていることなどを理由に,原告の請求が権利濫用であると主張する。

 しかしながら,上記?の事実が認められないことについては,これまで述べたところであるので,以下,上記?,?の点について検討する。

(2)権利行使時期(上記?)について

 本件訴訟前において,原告と被告が交渉を行ったのは,平成21年5月以降であるところ(争いがない。),被告は,原告は,平成16年末には被告の存在を知り,遅くとも,平成18年には権利行使が可能であったと主張する。

 しかしながら,上記被告の主張を認めるに足りる証拠はない。また,平成18年に,原告の権利行使が可能になったとしても,実際の権利行使までには3年ほどしか経過していないのであり,この程度の期間経過をもって,権利行使が遅延したということも困難である。そして,被告に係る業務拡大,売上増,消費者の信頼形成が,短期間のうちに行われたからといって,それ以前に権利行使を行う必要があり,それ以後に行われた権利行使が濫用的なものであるということはできない。

(2)本件商標の使用状況(上記?)について

 原告は,本件商標について,昭和56年8月31日に登録を受け,昭和61年から平成16年まで継続使用していたところ,平成17年及び平成18年に使用を中断し,平成19年から使用を再開している(前提事実(2),(3),前記5(2))。

 もっとも,バレンタイン商戦時期に商品を販売するためには,前年の3月ころから準備を行う必要があると認められるから(甲115),平成19年のバレンタイン商戦時期に原告商品を販売するにあたり,原告は,平成18年3月ころには,本件商標の使用再開を決定していたと考えられる。

 そして,平成18年というと,被告が,同年1月に,従業員を大幅に増やして,新たに開設した工場での製造を開始し,同年3月に,現在の本店(被告店舗1)に移転し,洋菓子の販売を本格的に開始した時期であるが(甲3),このころ,被告各標章に,原告によるフリーライドが行われるほどの知名度があったとは認められない。

(4)以上のとおりであるから,被告の権利濫用の抗弁には理由がない。』

 と判示されました。


 なお、ここで引用している最高裁事件は、

●『平成6(オ)1102 商標権侵害禁止等 商標権 民事訴訟小僧寿し事件」平成9年03月11日 最高裁判所第三小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121158716569.pdf)

●『昭和60(オ)1576 商標権侵害排除等参加 商標権 民事訴訟「ポパイ商標権侵害事件」平成2年07月20日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121117944057.pdf

の2つです。