●平成22(行ケ)10158 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日も、『平成22(行ケ)10158 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーの抗高血圧組合わせ」平成23年06月14日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110616120941.pdf)について取り上げます。


 本件では、取消理由4(本件出願に係る発明の内容の認定及び新規性・進歩性の判断を誤った違法)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、裁判官 田邉実)は、


『4 取消理由4(本件出願に係る発明の内容の認定及び新規性・進歩性の判断を誤った違法)について


 ・・・省略・・・


(4) 本願発明12における「固定された」の意義

 本件補正前の請求項12の「固定された」という用語は,出願時において特定の事項を意味する技術用語として本願発明の技術分野で当業者が使用する用語ではなく,また,本願明細書において何らかの定義がなされているものでもない。


 そこで,まず,本願明細書に記載された事項を検討するに,前記のとおり,本願明細書には,AT1レセプターアンタゴニストであるバルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカー(CCB)という公知の2種の医薬を組み合わせて使用することが技術内容として記載されている。そして,本願明細書には,これら2種の医薬を組み合わせて使用する効果として,「相乗的治療効果だけでなく,効果の驚くべき延長および治療的処置のより広い種類のような,組合わせ処置により得られる更なる利点をもたら」すこと(段落【0012】),及び,「更なる利点は,本発明に従って組合わせる個々の医薬の少ない用量が,例えば,少なくするだけでなく,適用頻度もすくなくするために必要な用量の減少に使用でき,または副作用の発症の低下に使用できる」こと(段落【0014】)が記載されている。


 本願明細書に記載されている事項が公知の2種の医薬を組み合わせて使用することをその技術内容とする点については,本件補正前及び本件補正後のいずれにおいても,2種の医薬を組み合わせた組成物についての発明が特許を受けようとする発明として特許請求の範囲に記載されていることからも理解できる。すなわち,本件補正前においては,請求項1〜8で,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカーの医薬的組合せ組成物を,糖尿病又は糖尿病患者における高血圧の処置又は予防,糖尿病性腎障害の進行の遅延又は糖尿病患者における蛋白尿の低減に使用する発明を特許請求し,請求項9〜11で,バルサルタン及び非DHPから選択されるカルシウムチャンネルブロッカーを含む医薬的組合せ組成物を特許請求し,請求項12〜14で,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカーを含む固定された医薬的組合せ組成物を特許請求しており,いずれの発明においても,有効成分はバルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカーという2種の医薬の組合せである(甲5)。また,本件補正後においても,請求項1〜6で,バルサルタン及びアムロジピンの医薬的組合せ組成物を,糖尿病又は糖尿病患者における高血圧の処置又は予防,糖尿病性腎障害の進行の遅延又は糖尿病患者における蛋白尿の低減に使用する発明を特許請求し,請求項7〜10で,バルサルタン及びアムロジピンを含む医薬的組合せ組成物を特許請求しており,いずれの発明においても,有効成分はバルサルタン及びアムロジピンという2種の医薬を組み合わせた組成物である(甲8)。


 そして,医薬は,適用量が少ないと目的とする効能が得られなかったり,過剰に使用した場合,所期の効能よりも副作用の方が増大する場合があることは広く知られており,その使用にあたっては用量が定められている。すなわち,医薬にはその使用にあたり最適な量が存在するところ,前記のとおり,本願明細書には,2種の医薬を組み合わせて使用することが記載されていることから,医薬を組み合わせて使用することによる効果の発現にあたっては,組合せ医薬中の2種の医薬の配合量や配合割合(配合比)にも適切な値が存在するということができる。このように,2種の医薬を組み合わせて使用する場合においては,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が,その発明の実施にあたり重要な技術的要素となるから,本願明細書に記載された技術内容を特許請求の範囲に技術思想として表現しようとした場合において,「医薬的組合せ組成物」を「固定された」なる一義的に明らかでない用語で特定しようとするときのその「固定された」とは,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)に固定されていることを意味するものということはできても,これを超えて,2種の医薬が別個に存在したとして,これを2回に分けて逐次投与するのか,それとも,2種の医薬を混合して1回で投与するのかの限定が規定されたものと解することはできない。


(5) 本願発明12と引用発明の対比・判断

 ニフェジピンはカルシウムチャンネルブロッカーの一種である。また,例えば,特開平2−191号公報(乙7)に「本発明によれば,用語『薬理学的に許容されうる不活性な坦体または希釈剤』は活性成分と混合するとき,投与をいっそう適当とする無毒の物質である。経口的投与に意図する組成物は,・・・ナトリウムカルボキシメチルセルロース,・・・のような坦体または希釈剤を包含する。」(6頁右上欄12行〜左下欄4行)と記載されているように,CMC-Naが医薬的に許容される担体の一種であることは,周知の事項である。そして,前記のとおり,引用発明は,ラットの体重1kg 当たり,バルサルタン3mg 及びニフェジピン1mg を併用投与する医薬なので,バルサルタンとニフェジピンを分離したまま順次投与したか,バルサルタンとニフェジピンを混合させて1回で投与したかにかかわらず,組成物中のバルサルタン及びニフェジピンの配合量並びにこれら薬剤の配合比が本件補正前請求項12で規定する「固定され」ている医薬組成物ということができる。すなわち,引用発明は,バルサルタンとカルシウムチャンネルブロッカーを医薬的に許容される担体とともに含み,前記(4)で認定した意味にとどまる趣旨での固定された医薬的
組合せ組成物である。


 そうすると,本願発明12と引用発明は,バルサルタン及びカルシウムチャンネルブロッカー(引用発明においてはニフェジピン)を医薬的に許容される坦体(引用発明においてはCMC-Na)とともに含む医薬的組合せ組成物であって,個々の医薬の配合量や2種の医薬の配合割合が特定の数値(又は数値範囲)が固定された(引用発明においてはバルサルタンをラットの体重1kg 当たり3mg 及びニフェジピンをラットの体重1kg 当たり1mg 含有するよう固定され,かつ,バルサルタンとニフェジピンの配合比が3:1に固定された)医薬的組合せ組成物で一致し,両者に相違点はない。


 したがって,本願発明12と引用発明が同一であるとした審決の判断に誤りはない。


(6) 原告の主張について

ア 原告は,単位投与形とは「処置対象に対する単位用量として適した物理的に分離した単位」という意味内容の確立した用語であって(甲27〜30),治療効果を生じるように計算された「所定量の」成分が錠剤や容器などに「封入」されているものであり,「固定された組合せ」とは,「一つの組み合わせ単位投与形で一緒に」投与される場合について,単に一緒に投与されるだけでなく,さらに,2成分の組合せが固定された単位投与形として一緒に投与されるというものをいい,「固定された医薬的組合わせ」とは,「単位投与形」の一態様であって,投与されるべき量の2成分の組合せが動かないように,ひとまとまりの製剤にされた形態という意味と解すべきと主張する。


イ しかし,「単位投与形」とは,例えば,特表平6−501024号公報(乙5)に「経口施薬のための単位投与形態例えばシロップ,エリキシル,及び懸濁液(この場合,各投与単位例えば茶さじ一杯,テーブルスプーン一杯は,本発明において用いられるインドールカルバゾール化合物の予め決定された量を含む)は,薬学的に許容され得る担体例えば注射用無菌水,USPによるもの,又は通常の食塩水によるものであってよい。」(9頁左上欄7行〜13行)と記載されているように,液剤にあっては,「茶さじ一杯」,「テーブルスプーン一杯」という所定量の成分が計量された状態で物理的に分離されている液剤までも意味するものであり,この物理的に分離された液剤は,必ずしも,容器などに封入されている必要はない(すなわち,茶さじ一杯の液剤がひとまとまりの製剤という形態を有する必要はない)と解するのが相当である。


 なお,原告は,「単位投与形」の要件として「封入」が必要であると主張し,甲27〜30をその根拠とするが,これら甲号証のほか乙4〜7の各種文献のいずれにも,「単位投与形」を容器への「封入」を要件として説明するものは存在しない。甲27(特表2002−505874号公報)には,原告が援用するように,「本明細書で使用される単位投与形とはヒトおよび動物被験体に好適な物理的に分離した単位を指し,当技術分野で公知のようにして個々に封入される。」との記載があるが,ここでいう「単位投与形」との用語を,「所定量の」成分が容器などに「封入」されたものしているのは,そこにも記載されているように,甲27の明細書に特有の定義付けによるものであって,これが,当業者に広く使われている事項を指すものということはできない。また,液剤においては,前記のとおり,「茶さじ一杯」,「テーブルスプーン一杯」という所定量の成分が計量された状態で物理的に分離されているものを含むと解されることは,乙5(特表平6−501024号公報)の他にも,乙4(特表平9−508382号公報)に「シロップ剤,エリキシル剤,および懸濁液剤などの経口投与用流動性単位投与形態」,乙6(特表平5−503721号公報)に「エリキシル,シロップ,及び懸濁液のような液体の単位投与形態」,乙7(特開平2−191号公報)に「固体および液体の経口単位投与形態,例えば,錠剤,……および懸濁液……を包含する。」と,液体の製剤を単位投与形の1種として列記しており,これら液剤について単位投与形という場合に,必ず,所定量の成分が計量された状態でアンプルなどの気密容器に封入されていると解することは不自然である。

 よって,「単位投与形」に関する原告の上記主張は採用することができない。


ウ また,原告は,本願明細書の段落【0029】を根拠に,「固定された医薬的組合わせ」とは,「単位投与形」の一態様であると主張する。


 しかし,本願発明における「固定された」の意義は前記のとおりであって,「固定された医薬的組合せ」と「単位投与形」は,それぞれ,医薬を異なる観点で特定する概念であり,「固定された医薬的組合せ」であっても必ずしも「単位投与形」に含まれないもの(例えば,「テーブルスプーン一杯」を計量する前の組合せ組成物)が存在する。また,本件補正前の請求項12には「単位投与形」なる技術思想は明記されていない。そうしてみると,本願明細書の段落【0029】に「単位投与形はまた固定された組合せであり得る。」との記載があるとしても,この記載をもって,「固定された医薬的組合せ」とは,投与されるべき量の2成分の組合せが動かないようにひとまとまりの製剤にされた形態の意であると解することはできない。原告の上記主張は採用することができない。』

 と判示されました。

 詳細は、本判決文を参照して下さい。