●平成19(ワ)24698 損害賠償等請求事件(2)

 本日も、『平成19(ワ)24698 損害賠償等請求事件 平成23年05月26日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110610142701.pdf)について取り上げます。


 本件では、争点2(原告プログラムは職務著作か)についての判断も参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(民事第47部 裁判長裁判官 阿部正幸、裁判官 山門優、裁判官 柵木澄子)は、

『2 争点2(原告プログラムは職務著作か)について

(1)前記当事者間に争いのない事実等に加え,証拠(甲2,9〜11,30〜33,36,37,39,甲40の1〜3,甲41〜46,48,甲49の1〜5)及び弁論の全趣旨によれば,原告プログラムの開発に至る経緯について,次の事実が認められる。


ア 原告は,測量ソフトウェアの販売及び賃貸,測量請負,測量機器販売,測量機器の賃貸等を行う会社である。


イ 原告は,昭和61年ころまでに,「おまかせ君」,「べんり屋さん」,「らくらくさん」などの名称の測量業務用ソフトウェアを制作し,これらのソフトウェアを販売ないしリースしたり,同ソフトウェアを用いて測量業務を行ったりしていた。原告は,その後も,「おまかせ君プロ」の改良版である「スーパーおまかせ君プロ」を制作するなどし,これらのソフトウェアを用いた測量業務,同ソフトウェアの販売,リースなどの業務を続けた。


ウ 被告Bは,平成12年4月1日,原告に入社し,測量業務に従事するとともに,ソフトウェアのプログラムのチェック・修正業務,顧客相談窓口業務,ソフトウェアのプログラム作成業務などを担当した。


 被告Bは,平成14年10月ころ以降は,原告のソフト開発部長として,ソフトウェア開発業務に従事した。


エ 原告は,平成15年7月ころ以降,被告Bに対し,その職務として,上記「おまかせ君プロ」のバージョンアップ版である「おまかせ君プロVer2.0」(旧原告ソフト)の開発業務を行わせ,被告Bは,平成16年4月ころ,同ソフトを完成し,これを原告に提出した。


 さらに,原告は,被告Bに対し,平成16年6月ころ以降,その職務として,旧原告ソフトのバージョンアップ版である原告ソフトの開発を行わせ,被告Bは,平成17年5月ころ,同ソフトを完成し,これを原告に提出した。


 被告Bは,上記ソフトウェアの開発業務に従事するため,平成15年7月以後は,測量現場の業務に従事する機会が大きく減少し,多くの時間を上記ソフトウェアの開発業務に費やした。


 また,被告Bは,旧原告ソフト及び原告ソフトの開発に当たり,原告に対し,各ソフトのテーマ,開発日程表,ソフトの機能一覧表等を記載した設計計画書(甲41,45)を提出して原告代表者の承認を得たほか,原告の社内会議等において,上記ソフトウェアの開発の進行状況について随時報告するなどした。


オ 原告は,旧原告ソフト及び原告ソフトが完成すると,原告においてこれらのソフトウェアを新たに制作したものであるとして,その事実を顧客に宣伝し,これらのソフトウェアを販売ないしリースするなどした。


(2) これに対し,被告らは,原告ソフト及び旧原告ソフトの開発業務は,被告Bが,深夜や休日など,通常業務の枠を超えた時間で行ったものであるから,これらのソフトウェアのプログラムは被告Bが職務上作成したものではなく,個人的に作成したものであり,原告も同プログラムの著作権が被告Bに帰属することを認めていた旨主張する。


 しかしながら,被告Bが原告ソフトの開発業務のすべて,ないし大部分を勤務時間外に行ったことを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。仮に,被告Bが原告ソフト等の開発業務の一部を勤務時間外に行ったことがあったとしても,前掲(1)の証拠に照らすならば,そのことをもって原告ソフト等を被告Bが個人的に作成したものと認めることはできない。なお,証拠(甲28の17・2頁,乙5)によれば,被告Bは,原告ソフトのソースコードに「制作/著作 B おまかせ君プロVer2.0〜」と記載したほか,原告ソフトの利用者が同ソフトのメイン画面の下部の「CSS OmakasekunProVer2.50」という表示部分に触れると,「おまかせ君プロ Ver2.0〜制作/著作 B」という表示がされるように原告ソフトを作成したことが認められるが,上記認定の事実経過に加え,これらの記載や表示は,原告ソフトの利用者等において外見上容易に認識することができるものではないことなどを考慮すると,このような事実があることをもって,原告において上記記載等の存在を認識し,被告Bに原告プログラムの著作権が帰属することを承諾していたと認めることはできない。


(3) 上記事実関係によれば,原告プログラムは,法人である原告の発意に基づき,当時原告の従業員としてソフトウェアのプログラムの開発業務に従事していた被告Bが,その職務として作成したものであるといえる。


 また,原告プログラムが作成された当時,原告において,契約,勤務規則その他に,著作権法15条2項の適用を排して従業員個人をプログラムの著作者とする旨の定めがあったことを認めるに足りる証拠はない。


 したがって,原告プログラムは,著作権法15条2項の各要件を満たすものであり,その著作者は原告であると認められる。』


 と判示されました。