●平成22(行ケ)10121 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟(1)

 本日は、『平成22(行ケ)10121 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「納豆食品」平成23年03月10日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110311113619.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、まず、取消事由1(本願発明の認定の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 本多知成、裁判官 荒井章光)は、


『1 取消事由1(本願発明の認定の誤り)について

(1) 本願発明を一体的に認定しなかった誤りについて

特許法36条は,特許出願をする者が提出すべき書類の記載事項等について定めるものであるところ,同条2項は,「願書には,明細書,特許請求の範囲,必要な図面及び要約書を添付しなければならない。」と規定し,さらに,同5項は,特許請求の範囲について,「各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定している。


 したがって,各請求項には,特許出願人自身が自らの決定に基づいて選択した事項が当該出願により保護を求める発明を特定するための事項として記載されているものであって,各請求項に記載された発明は,それぞれ個別に特定された発明として,審査の対象となることが予定されているのである。


 そうすると,特許要件の審査において,そのように各請求項ごとに個別に特定された発明を複数の請求項を一体とした発明として把握し,これを審査の対象とすることは,上記特許法36条の文理に反するものであって,もとより特許法にそのような審査を義務付ける規定もない。しかも,出願人において,そもそも複数の請求項を一体とした発明として審査の対象としたいのであれば,同条5項の規定に従い,複数の請求項に記載していた各構成を一体として,1つの請求項にまとめて記載すれば足りたものである。


 以上からすると,本願発明1ないし4は,いずれも納豆製品に係る発明を特定したものであるが,原告が保護を求めようとする発明を「各請求項ごとに」特定したものであるから,技術的にみて相互に関係するものであったとしても,審査に当たり,これらを一体不可分のものとして取り扱うことは許されず,本願発明1について審査を行った手続に誤りはない。


イ なお,本件審決は,別紙審決書において,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の発明について「本願発明1」と,また,同請求項1ないし4の発明を総称して「本願発明」とそれぞれ略称しているが,かかる方法は,その判断内容を正確に伝達する方法として慣用されているところであって,「本願発明1」という用語自体が原告提出の出願書類に記載されていなかったからといって,そのような慣用が否定されるべき理由はない。


(2) 補正指導を行わなかった点について

ア 特許出願においては,出願人が自らの決定に基づいて,特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを,各請求項ごとに記載しなければならないのであるから,自ら定めた請求項の記載が本来の意図と異なったとしても,それは,出願人の責任によるものというほかはない。


 特許法50条は,審査官に対し,特許出願について拒絶理由があれば,出願人に通知し,意見を述べる機会を与えるように求めているから,特許出願について,特許性に係る不備,すなわち拒絶理由がある場合には,これを指摘する義務を負うものというべきであるが,出願人の本来の意図と,請求項の記載との間に齟齬がないことは予定されているものであって,仮に,その間に齟齬があったとしても,それは,前記のとおり,本来,出願人の自己責任において処置されるべき問題であるから,審査官がその間に齟齬があるか否かを調査し,齟齬がある場合に,そのような出願の不備・欠陥を指摘する義務まで負うものではない。


イ 本件出願について,審査官は,拒絶理由通知を発し,本願発明の特許性に係る不備については,これを指摘しているから,特許法により定められた義務を果たしているところ,原告は,その通知に対して意見を述べ,通知された拒絶理由や拒絶査定を解消するため,自らの自由意思及び責任により,補正を行う機会を有していたのである。しかも,本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし4の各記載それ自体は,いずれも特許法及び同法施行規則の定める形式的要件を充足するものであった。


 以上からすると,本件出願について,審査官が適切な補正指導を行わなかったとして,その対応を非難する原告の主張は失当というほかない。』

 と判示されました。