●平成22(行ケ)10122 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「オキサ

 本日は、『平成22(行ケ)10122 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」平成23年01月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110131155400.pdf)について取り上げます。


 本件は、無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、進歩性の判断における数値範囲における意義についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第3部 裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 齊木教朗、裁判官 武宮英子)は、


『(4) 数値範囲における意義について

 原告は,数値限定発明において容易想到性でないとされるためには,数値範囲の全般において効果が顕著に優れているとの臨界的意義が示されることを要すると解されるが,本件発明1は,そのような効果が示されていないので,本件発明1が容易想到でなかったとした審決の判断には誤りがあると主張する。


 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり採用できない。


 すなわち,一般に,当該発明の容易想到性の有無を判断するに当たっては,当該発明と特定の先行発明とを対比し,当該発明の先行発明と相違する構成を明らかにして,出願時の技術水準を前提として,当業者であれば,相違点に係る当該発明の構成に到達することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くのが合理的である。


 そして,発明の相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かの検討は,当該発明と先行発明との間における技術分野における関連性の程度,解決課題の共通性の程度,作用効果の共通性の程度等を総合して考慮すべきである。


 この点は,当該発明の相違点に係る構成が,数値範囲で限定した構成を含む発明である場合においても,その判断手法において,何ら異なることはなく,当該発明の技術的意義,課題解決の内容,作用効果等について,他の相違点に係る構成等も含めて総合的に考慮すべきであることはいうまでもない。


 本件において,本件明細書の【発明の詳細な説明】には,「現在,オキサリプラティヌムは,・・・凍結乾燥物として,注射用水または等張性5%ぶどう糖溶液と共にバイアルに入れて,前臨床および臨床試験用に入手でき,投与は注入により静脈内に行われる」が,比較的複雑で高価な製造方法(凍結乾燥)であり,再構成手段には熟練と注意を要すること,溶液を突発的に再構成する際などに誤って0.9%NaCl溶液を使用し,製品の急速な分解を引き起こす危険性があることが記載された上,「製品の誤用のあらゆる危険性を避け,・・・直ぐ使用でき,さらに,使用前には,承認された基準に従って許容可能な期間医薬的に安定なままであり,凍結乾燥より容易且つ安価に製造でき,再構成した凍結乾燥物と同等な化学的純度(異性化の不存在)および治療活性を示す,オキサリプラティヌム注射液を得るための研究が行われた。これが,この発明の目的である。」との解決課題が示され,「腸管外経路投与用の用量形態として,有効成分のpHがそれぞれ充分限定された範囲内にあり,有効成分が酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まないオキサリプラティヌム水溶液を用いることにより,達成できることを示すことができた。特に,約1mg/mlより低い濃度のオキサリプラティヌム水溶液は,充分安定でないことが見出された。」,「好ましくは,オキサリプラティヌムの水中濃度は約2mg/mlであり,溶液のpHは平均約5.3である。」と記載され,実施例3に,2mg/mlの濃度のオキサリプラティヌム水溶液に関する安定性試験において,50℃で3か月以上貯蔵した後においても,回収したオキサリプラティヌムの百分率と要求される値より少ない不純物のそれから考えて,医薬的に許容される安定性が示されたとの結果が記載されていること,また,上記(1) のとおり,甲10,11には,本件発明1で特定されたpH範囲を外れたpHを有するオキサリプラティヌム水溶液の安定性が優れていないことが示されていること等を総合考慮すると,当業者にとって,本件発明1の限定された数値範囲において,上記の課題を解決する顕著な作用効果が示されていると解することができる。


 したがって,本件発明1における「pHが4.5ないし6」との数値範囲で示された構成について,当業者が,容易に想到することができないとした審決に誤りはない。


(5) 以上のとおり,本件発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたことを前提とする原告の主張は理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。