●平成21(ワ)18507 特許権侵害差止等請求事件「幼児用補助便座」

 本日は、『平成21(ワ)18507 特許権侵害差止等請求事件 特許権 民事訴訟「幼児用補助便座」平成23年01月21日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110201151333.pdf)について取り上げます。


 本日は、特許権侵害差止等請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、東京地裁(判民事第46部 裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史、裁判官 石神有吾)は、


『2 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について

(1) 本件覚書の不争条項による主張制限の成否

ア被告は,本件特許には,無効理由(無効理由1ないし5)があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない旨主張する。


 これに対し原告は,原告と被告間で締結した本件覚書の4条は,被告が,本件特許の有効性について,原告と争わず,かつ,原告と争う第三者を援助しない旨の不争条項であり,同条項によって,被告は,本件特許の有効性を争う利益を放棄しているものといえるから,被告による特許法104条の3第1項に基づく上記主張は,本件覚書の4条に違反するものであって,その主張自体失当である旨主張する。


 そこで,まず,原告主張の本件覚書の4条(不争条項)の効力について検討する。


イ前記争いの事実等の(4)と証拠(甲4,乙16ないし20,検乙1)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。


(ア) 原告の代理人弁理士は,平成9年6月20日付け内容証明郵便(乙16)で,被告に対し,被告が当時製造販売していた商品名を「らくちんおまる」とする補助便座は本件特許に係る発明の技術的範囲に属し,被告による上記製造販売は本件特許権の侵害に当たるので,その製造販売の停止を求める旨の通知をした。


(イ) 被告の代理人弁理士は,平成9年7月7日付け内容証明郵便(乙17)で,原告の代理人弁理士に対し,「らくちんおまる」の後縁部は,本件出願前に公知の意匠登録第849312号公報に係る意匠,同意匠に係る市販の幼児用便器の補助便座,意匠登録第896994号意匠に係る市販の幼児用便器の補助便座と同じ構造,機能を有するので,本件特許権を侵害することはない旨の回答をした。


(ウ) 被告の代理人弁理士は,原告の代理人弁護士らに対し,平成10年5月15日付け内容証明郵便(乙18)で,「らくちんおまる」が本件特許に係る発明の技術的範囲に属さないことを疑問の余地がないものと確信し,本件特許の有効性に問題があると考えているが,無用な紛争を1日も早く終息したいため,「らくちんおまる」を設計変更したいと自由意思により考えたものであるので,設計変更前の従来品に関する販売数量,売上高及び具体的な販売停止日の通知の要求には応じられない旨の通知をした。


(エ) 原告と被告は,平成11年3月19日,本件覚書を締結した。その後,被告は,本件覚書の3条2項に従って,「らくちんおまる」の支脚のうち,後部2か所(後脚)を高くする設計変更(乙20)をした製品を原告に提出し,その承認を求め,原告は,同年4月7日付けで,その承認をするとともに,本件覚書の2条2項の和解金(消費税分を含めて,105万円)の支払を請求した。


 その後,被告は,原告に対し,上記和解金を支払った。


ウ本件覚書の4条は,被告を「甲」,原告を「乙」として,「第4条(不争合意) 甲は,本件特許権の有効性について,乙と争わず,かつ,乙と争う第三者を援助しない。」というものであって,被告が「本件特許権の有効性」について原告と争わない旨記載されている。


 しかるに,前記イの認定事実と本件覚書の各条項(甲4)を総合すれば,?原告と被告間において被告が平成9年当時製造及び販売していた「らくちんおまる」に関する本件特許権の侵害の有無をめぐる紛争があったところ,被告が上記「らくちんおまる」をめぐる紛争の早期解決のために,「らくちんおまる」の設計変更をすることを自発的に申し入れ,その後の原告と被告間の交渉の結果,被告が「らくちんおまる」の支脚のうち,後部2か所(後脚)を高くする設計変更をし,原告に和解金100万円(消費税は別途)を支払う内容の和解をし,その旨の本件覚書を締結するに至ったこと,?被告は,上記交渉の過程において,本件特許の有効性について一貫して争っており,平成10年5月15日付け内容証明郵便(乙18)においても,「らくちんおまる」が本件特許に係る発明の技術的範囲に属さないことに疑問の余地はなく,本件特許の有効性には問題があると考えているが,「無用な紛争を1日も早く終息したいため,「らくちんおまる」を設計変更したいと自由意思により考えた」旨の記載があることが認められる。


 上記認定事実によれば,本件覚書の4条において,被告が本件特許の有効性を争わない旨の規定を置いた趣旨は,あくまで「らくちんおまる」に関する本件特許権侵害の紛争を解決することを目的とするものであって,被告が製造販売する「らくちんおまる」とは別の製品について原告が本件特許権を行使する場合について,本件特許の有効性を争う利益を放棄したものではないと解するのが,当事者の合理的意思に合致するもの解される。


 そして,被告製品と「らくちんおまる」とを対比すると,「らくちんおまる」が上記設計変更により後部2か所の支脚(後脚)を高くした点を除いても,被告製品(検甲1)と「らくちんおまる」(検乙1,乙20)とでは,座面の形状,前部2か所の支脚の位置,後縁部の形状等が異なるものといえるから,被告製品は,「らくちんおまる」とは別の製品であるものと認められる(なお,「らくちんおまる」は,設計変更の前後において,側面視における周縁部の下部の後方の湾曲形状に変更はないが(乙20),設計変更後の「らくちんおまる」は,これを取り付ける便座の傾斜面の傾斜を上記湾曲形状によって吸収するのではなく,支脚のうち,後部2か所(後脚)を高くし,当該支脚を便座に接地させることによってそれと同じ効果を奏することを意図したものとうかがわれる。)。


 したがって,本件覚書の4条の効力は,原告が「らくちんおまる」とは別の製品である被告製品について本件特許権を行使する本件訴訟には及ばないというべきである。


エ以上によれば,被告による特許法104条の3第1項に基づく主張は,本件覚書の4条に違反するものであって,その主張自体失当であるとの原告の主張は,採用することができない。


ウ以上によれば,被告の無効理由5は,その前提を欠くものであって,理由がない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。