●平成22(行ケ)10173 審決取消請求事件 特許権「着色漆喰組成物の

 本日は、『平成22(行ケ)10173 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「着色漆喰組成物の着色安定化方法」平成23年01月11日 知的財産高等裁判所』 (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110112101905.pdf)について取り上げます。


 本件は、特許無効審判の棄却審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由2(本件発明1の容易想到性についての判断の誤り)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 高部眞規子、裁判官 井 上泰人)は、


『2 取消事由2(本件発明1の容易想到性についての判断の誤り)について

(1) 前記1(2)イ及びウに説示したとおり,引用例1には,消石灰に酸化チタン(無機白色顔料)を配合することや,消石灰に無機着色顔料を配合することについては記載があるものの,これに加えて,無機着色顔料を消石灰に配合した場合に,これに加えて無機白色顔料も配合する旨の記載があるとはいえず,これを示唆する記載もない。


 また,引用例1に記載の実施例は,いずれも消石灰等に酸化チタンを配合したものに限定されているから,当該実施例において色むら等が認められなかった旨の記載があるとしても,消石灰等に無機着色顔料を配合したものについて,その着色安定化のために更に無機白色顔料に配合することについては示唆ないし動機付けがあるとはいえない。


(2) 引用例2は,漆喰塗材の標準的な調合比等について記載した一般的な文献であるが,そこには,漆喰の材料として顔料も挙げられているものの,無機白色顔料又は無機着色顔料といった特定はなく,したがって,着色安定化のために漆喰の材料である石灰にこれらを配合することについては示唆も動機付けもない。


(3) 引用例4は,微粒子の液体中での分散に関係する主要因子や微粒子間相互作用の機構から,高分子の界面活性剤吸着が分散に有効であることや,顔料の分散に関する電荷安定化理論としてDLVO理論があり,電荷反発とファンデルワールス力とで分散安定性が決まることについて記載した一般的な文献であるが,そこには,分散される顔料が複数あった場合やその他の成分の影響に関しては何ら記載がない。


 したがって,引用発明1に関して,無機白色顔料を更に追加することで着色安定化を図ることについて示唆又は動機付けを有するものではない。


(4) 引用例5は,二酸化チタン,石膏,水及びセメントを混合してpH8以上のスラリーとすることで,建築物の壁面等の塗材として光触媒用の二酸化チタンの凝集を抑えて分散性を良好にできる方法の発明を記載しているが,これは,pH値を調整して二酸化チタンの等電点(pH6)から離すことで分散性を高めるものであり,二酸化チタンと消石灰の配合により無機着色顔料の分散性を向上させることについては何ら示唆ないし動機付けがない。


(5) 以上によれば,引用例1,引用例2,引用例4及び引用例5には,いずれも,無機着色顔料と消石灰とを配合した場合に,その着色安定化のために更に無機白色顔料に配合することについて示唆も動機付けもない。


 したがって,これらの各引用例の記載によっては,当業者は,漆喰の着色安定化を図るために,もとより白色の石灰と無機白色顔料を組み合わせて組成した白色成分に無機着色顔料等を加えることを容易に想到することができるものではない。


(6) 以上に加えて,本件明細書によれば,本件発明1に係る漆喰組成物は,顔料として着色顔料のみを石灰に混ぜた漆喰組成物との比較によっても,施工時や乾燥時の着色顔料の分離による色むら(色分かれ)を有意に抑制できることが確かめられたものである(【0072】〜【0093】,【0095】)。他方,引用例1には,引用発明1において消石灰等に酸化チタンを配合した場合について,色むら等が認められない旨の記載があるにとどまる(【0069】【0084】)。したがって,本件発明1は,引用発明1からは当業者が予測し得ない作用効果を有しているものと認められる。


(7) よって,引用発明1に基づき又は引用発明1に引用発明2を組み合わせ若しくは引用発明1に引用発明4及び引用発明5を組み合わせたとしても,当業者は,相違点について本件発明1に係る構成を容易に想到することができなかったものというべきである。


(8) 以上に対して,原告は,隠蔽力が強くかつ明度の高い色彩を所望する場合には体質顔料(石灰石)ではなく酸化チタンを選択しなければならない旨を主張する。


 しかしながら,前記のとおり,引用発明及び本件発明が漆喰の材料としているのは体質顔料(石灰石)ではないから,原告の主張は,前提を欠くものである。


 よって,原告の上記主張は,採用できない。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。