●平成20(ネ)10056 各損害賠償請求控訴事件 特許権「携帯電話機」

 本日は、『平成20(ネ)10056 各損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟「携帯電話機」平成22年10月25日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101108100906.pdf)について取り上げます。


 本件は、損害賠償請求控訴事件で、本件控訴が棄却された事案です。


 本件では、被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属するかについて(争点1)についての判断が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 清水節、裁判官 真辺朋子)は、

『1 当裁判所は,原判決が被控訴人製品における「暗号化された固定値」は本件発明の構成要件B2ないしB4にいう「番号識別子」に該当しないから本件発明の技術的範囲に属さないとしたのと異なり,同製品は上記構成要件のB2ないしB4要件における「番号識別子」は充足するもののB3要件における「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する」は充足しないから,結局,被控訴人製品は本件発明の技術的範囲に属さないと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。


 ・・・省略・・・


2 被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属するかについて(争点1)について

(1) 本件発明の構成要件とその分説(A1〜A2,B1〜B4,C),被控訴人製品(被告製品)の構成・動作に関する説明が原判決別紙の被告製品説明書記載のとおりであること,被控訴人製品(被告製品)が本件発明の構成要件A1,A2,B1及びCを充足することは,いずれも当事者間に争いがない。


(2)ア特許法70条は,その1項で「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲に基づいて定めなければならない」と,その2項で「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」等と規定しているので,以下,これを前提として,被控訴人製品の本件発明構成要件B2ないしB4充足性の有無を検討する。


イB2要件該当性の有無

(ア) 「番号識別子」の技術的意義


 ・・・省略・・・


c 上記記載によれば,本件発明の課題はコンテンツの著作権保護を図ることにあり(段落【0003】),本件発明は,メモリカード等の外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しが可能な携帯電話機において,外部記憶媒体に記録したデータが,その記録を行った携帯電話機の電話番号以外の電話機で利用されるのを禁止できるようにすることを目的とするものである(段落【0004】,【0023】)。そして,本件特許明細書に「番号識別子」を定義付ける記載はないが,特許請求の範囲には,「前記自局電話番号を識別するための番号識別子」との記載があり,また,本件特許明細書には,「請求項1記載の発明によれば,外部記憶媒体に記録されるデータには,自局電話番号に固有の番号識別子が関係付けられ,関係付けられた番号識別子が携帯電話機の自局電話番号に該当しない場合には,データの読出しが禁止される。」(段落【0006】)との記載がある。


 したがって,本件発明の特許請求の範囲に記載されている「番号識別子」の解釈としては,外部記憶媒体に記録したデータがその記録を行った携帯電話機の電話番号以外の電話機で利用されるのを禁止することを目的に,携帯電話機の自局電話番号がその記録を行った携帯電話機の自局電話番号であることを識別するためのものであるから,「自局電話番号がその記録を行った携帯電話機の自局電話番号であることを識別するとの目的を達成し得る機能を有するもの」と解するのが相当である。


 これに対し,被控訴人は,本件における「番号識別子」の解釈につき原判決と同旨の見解を述べ,その理由として,特許法におけるクレーム(特許請求の範囲)解釈の基本は,当該クレーム文言(特許請求の範囲に記載された文言)が明細書中で特別の定義を与えられている場合でない限り,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が通常理解する意味によって解釈するということであり,特許法70条2項により当業者の通常理解する意味がさらに明細書の記載の参酌によって限定解釈されることはありうるが,クレーム文言(特許請求の範囲に記載された文言)の意味が当業者の通常理解する意義を超えて拡張的に解釈されることはないと主張する。


 しかし,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるが(特許法70条1項),特許請求の範囲に記載された用語の意義は,上記のとおり明細書の記載及び図面を考慮して解釈されるものであるから(同法70条2項),被控訴人の上記主張は採用することができない。


(イ) 被控訴人製品への当てはめ

 被控訴人製品は,前記のとおり,所定の「固定値」をコンテンツデータの記録を行う携帯電話機の自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより生成された暗号鍵を用いて暗号化した記号(暗号化された固定値)をコンテンツデータに関係付けてSDカード(外部記憶媒体)に格納し,暗号化されたコンテンツを外部記憶媒体から読み出す前に,読出しを行う携帯電話機が自局電話番号及びその他の情報から所定のアルゴリズムにより復号鍵を生成し,「暗号化された固定値」を正しく所定の「固定値」と一致する値に復号することができた場合に暗号化されたコンテンツの読出しと復号を行うものであるから,上記のとおり正しく復号することができた場合は,記録を行った携帯電話機の自局電話番号及びその他の情報と,読出しを行う携帯電話機の自局電話番号及びその他の情報とが同一であると判定するものである。


 そうすると,「暗号化された固定値」は,コンテンツの読出しを行おうとする携帯電話機の自局電話番号等により生成された復号鍵により所定の「固定値」に復号されるか否かが判定されることにより,「自局電話番号がその記録を行った携帯電話機の自局電話番号であることを識別する」との目的を達成し得る機能があるから,本件発明の「番号識別子」に相当すると認めるのが相当である。


 よって,被控訴人製品は,構成要件B2を充足する。

ウB3要件該当性の有無

(ア) 「番号識別子が自局電話番号に該当するか否かを判定する」の意義B3要件は,前記のとおり「前記記録読出し手段が前記外部記憶媒体からデータを読み出す前に,そのデータに関係付けられて記録された番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する手段」とするものであるが,その素直な文理解釈からすると,そこでいう「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する」とは,本件発明の実施例のごとく,番号識別子と自局電話番号とを直接対比して一致するか(該当するか)どうかを判別することを意味し,それ以上に,番号識別子によって携帯電話機の自局電話番号がその記録を行った携帯電話機の自局電話番号であるかどうかを判別する(番号識別子によって,データを記録した携帯電話機の自局電話番号が,データを読み出そうとする携帯電話機の自局電話番号に一致するか〔該当するか〕否かを判定する)ことも含んでいるとまでは意味しないと解するのが相当である。


(イ) 被控訴人製品への当てはめ

a 本件発明の「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する」とは,上記のとおり,外部記憶媒体に記録されているデータ(番号識別子)自体を直接の判断対象として,それが読出しを行おうとする携帯電話機の自局電話番号に当てはまるかどうか(一致するかどうか)の判定を行うこと,言い換えれば,番号識別子と自局電話番号とを直接対比して一致するか(該当するか)どうかを判別することを意味するところ,被控訴人製品においては,所定の「固定値」をコンテンツデータの記録を行う携帯電話機の自局電話番号等から生成された暗号鍵を用いて暗号化した記号(暗号化された固定値)が,読出しを行う携帯電話機においてその自局電話番号等から生成された復号鍵により正しく所定の「固定値」と一致する値に復号できるかどうかを見ることにより,記録を行った携帯電話機の自局電話番号と読出しを行う携帯電話機の自局電話番号が同一であるか否かを(いわば間接的に)判定するものであり,「番号識別子」である「暗号化された固定値」を直接の判断対象としてコンテンツデータの読出しを行おうとする携帯電話機の自局電話番号に当てはまるかどうか,言い換えれば「暗号化された固定値」と携帯電話機に記憶された自局電話番号を直接対比して一致するか(該当するか)どうかを判断するものではない。


そうすると,被控訴人製品は,構成要件B3を充足しないというべきである。


b これに対し,控訴人は,構成要件B3につき,「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する」とは「当該番号識別子によって他と区別される(データを記録した携帯電話機の)自局電話番号が,データを読み出そうとする携帯電話機の自局電話番号に当てはまるか否かを判定する」という意味であると主張する。

 そこで検討するに,本件発明と被控訴人製品は,コンテンツの著作権保護を目的として,メモリカード等の外部記憶媒体に対するデータの記録・読出しが可能な携帯電話機において,外部記憶媒体に記録したデータが,その記録を行った携帯電話機の電話番号以外の電話機で利用されるのを禁止できるようにしたものであり,目的と作用効果は同一であると認められ,そのために外部記憶媒体にコンテンツデータを記録する際にコンテンツデータに関係付けて「番号識別子」も記録することとし,「当該番号識別子によってデータを記録した携帯電話機の自局電話番号が,データを読み出そうとする携帯電話機の自局電話番号に当てはまるか否かを判定」している点では共通する。


 しかし,本件発明は,コンテンツデータの記録を行った携帯電話機とコンテンツデータの読出しを行おうとする携帯電話機の電話番号が同一であるか否かを判定する手段として,「番号識別子」と読出し機の自局電話番号を直接対比してこれが一致するか否かを判断しているのに対し,被控訴人製品においては,コンテンツデータの記録を行った携帯電話機の暗号化方法(暗号鍵たる自局電話番号)とコンテンツデータを読み出そうとする携帯電話機の復号化方法(復号鍵たる自局電話番号)が一致するか否かを番号識別子が暗号鍵で暗号化する前の状態と同じ状態に復号されているか否かによって判定している点で異なる。


そして,特許請求の範囲の文言の解釈からすれば,番号識別子と自局電話番号とを直接対比して一致するか(該当するか)どうかを判別するのではなく,それ以外の方法,例えば,被控訴人製品のように番号識別子が暗号鍵で暗号化する前の状態と同じ状態に復号されているか否かを判定することによって,データを記録した携帯電話機の自局電話番号(暗号鍵)とデータを読み出そうとする携帯電話機の自局電話番号(復号鍵)が同じか否かを判断することが含まれると解することはできないし,本件明細書(甲2)の【発明の詳細な説明】の記載にもこれを示唆するような記載はない。


 また,本件発明は,外部記憶媒体に記録するデータに関連付けて当該携帯電話機固有の識別番号としての電話番号又はこれをコード化したものを当該データとともに記録し,データの読出し時に,外部記憶媒体に記録されている電話番号又はこれをコード化したものと読出しを行う携帯電話機の電話番号を直接対比して,これが一致しない(当てはまらない)場合に読出しを禁止することに本質的部分(技術的特徴)があると解される。


 これに対し,被控訴人製品は,コンテンツデータを暗号化する際の暗号鍵(コンテンツ鍵)をさらに電話番号を利用した暗号鍵で暗号化していることなどの被控訴人製品の全体的な構成に照らせば,当該携帯電話機固有の暗号化方法(暗号鍵)として電話番号を利用し,記録機固有の暗号化方法(暗号鍵たる電話番号)と読出し機固有の復号化方法(復号鍵たる電話番号)が一致するか否かを,番号識別子たる「暗号化された固定値」が元の固定値に復号されるか否かによって判定することに本質的部分(技術的特徴)があると解される。


 そして,被控訴人製品における「暗号化された固定値」が当該携帯電話機固有の「識別記号」ではなく,記録機の暗号鍵と読出し機の復号鍵が同一か否かを見分ける手段であることからすると,両者は技術的特徴を異にすると解するのが相当である。したがって,かかる見地からも,被控訴人製品における「番号識別子が暗号鍵で暗号化する前の状態と同じ状態に復号されているか否かを判定することによって,データを記録した携帯電話機の自局電話番号(暗号鍵)とデータを読み出そうとする携帯電話機の自局電話番号(復号鍵)が同じか否かを判断すること」が「番号識別子が前記自局電話番号に該当するか否かを判定する」ことに該当するということはできない。控訴人の主張は特許請求の範囲の文言を拡張解釈するものであって,採用することができない。


エ小括

 そうすると,構成要件B4について判断するまでもなく,被控訴人製品は,本件発明の技術的範囲に属さないことになる。


3 結論

 以上のとおり,被控訴人製品は本件発明の技術的範囲に属しないことになるから,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の本訴請求は理由がない。
よって,一審原告たる控訴人の請求を棄却した原判決は,結論において相当であり,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却して,主文のとおり判決する。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。