●平成21(行ケ)10330 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟

 本日は、『平成21(行ケ)10330 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「被覆された微細突出物を有する経皮的薬剤配達装置」平成22年10月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101018111545.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消請求事件で、その請求が認容された事案です。


 本件では、相違点Aの判断(数値限定等についての判断)が参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第1部 裁判長裁判官 中野哲弘、裁判官 東海林保、裁判官 矢口俊哉)は、

『(ク) このほか,被告は,本願補正発明は(水溶液の)粘度の上限のみ限定され,下限は限定されておらず,粘度が例えば水そのものの粘度とほぼ同じように低い水溶液も含まれるものであり,粘性は大きくなければならない旨の原告の主張と矛盾する旨主張する。


 しかし,特許請求の範囲において発明を特定する際,必ずしも,所望の効果を発揮するために必要な条件をすべて特定しなければならないわけではなく,発明を構成する特徴的な条件のみ特定すれば足りることが通常であって,発明の内容と技術常識に基づき当業者が適宜設定できる条件まで,逐一,発明特定事項とすることが求められるわけではない。


 そして,本願補正発明においては,薬理学的活性物質の水溶液の粘度が約500センチポアズ(cp)未満であれば所望の効果を発揮できるとされている。


 他方で,岩波理化学辞典第5版(株式会社岩波書店発行,甲13)によれば,1p(ポアズ)は10 −1Pa・s(パスカル・秒)であるところ,20℃での水の粘性率は約1.00×10 −3Pa・sとされており,これはすなわち約0.01p=1cpである。


 そうすると,本願補正発明においては,約1〜500cpの範囲内で,所望する効果に応じて粘度を適宜設定すれば足りるものであって,「薬理学的活性物質の水溶液の粘度が低い値の場合には,薬理学的活性物質の水溶液はおよそ所望のようには微細突出物上に付着できないものであり,そのような値を含む本願補正発明の数値範囲の限定には格別の意義を見出せない」旨の被告の主張は理由がない。


ウ以上のとおり,審決には,相違点Aの判断(数値限定等についての判断)に誤りがあり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。』


 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。